673列車 運び屋の感づき
2062年5月1日・月曜日(第55日目)天候:晴れ 西日本旅客鉄道東海道本線守山駅。
「ふぅ・・・。」
学校が終わってから私は荷物をまとめた。5月3日は始発列車で出ていくらしいから、準備している暇がないからなぁ・・・。東北地方へ行くとは言え、ゴールデンウィーク中の東北地方は暑いらしい。比較的軽装で済むかとも思ったが、それを鞄の中に押し込んでみると結構な重さになる。
「まっ、部活の鞄よりも軽いから良いか・・・。」
「あっ、準備してた。」
そう言いながら入ってきたのはお母さんだ。
「うん。これで準備はオッケイだよ。」
「稲穂ちゃん。ちょっとこっちも持ってってくれないかな。」
「・・・。」
そう言うとお母さんは私にたくさんのワイシャツを渡してくる。これって・・・。
「おじいちゃんとおばあちゃんのシャツよ。これから暑くなるし、ここから持ってったものもそろそろ買えてあげないとね。」
「だからって。おかあ・・・。私のこと都合の良い運び屋って思ってない・・・。」
「ゴメンね。お願い。」
「ハァ・・・。別に私は良いけど。常陸兄には運ばせようと思わなかったの。」
「それがね、常陸君学生服で行こうと思ってるらしくてね。」
「はっ。」
学生服・・・。えっ、学生服。
「荷物切り詰めてて入らなかったのよね。」
「常陸兄は底無しの馬鹿なのか。」
「馬鹿ではないと思うわ。私もそういう感じの服で日本中まわったことがあるから。」
「鉄道ファンって言うのは学生服とかスーツで旅しないとダメな人種なの。」
そう言うとお母さんは笑って、
「ある人の真似よ。稲穂ちゃんも大好きな動画の人のね。」
「あっ、播州さんか・・・。」
色々と納得だ。おじいもおばあもあの人の動画はよく見てるって言ってたからなぁ・・・。でも、二人がスーツで旅行しているところは3月に旅始めるまでなかったんだけどなぁ・・・。
「でも、ただの家族旅行に学生服で行くのは頭おかしいと思われ。」
「頭おかしくないとファンって言うのはやってけないわよ。」
「それは同意を求められても困るものと思われ。」
「じゃ、それお願いね。」
「はぁい。」
「あっ、ご飯もうすぐできるからね。ちゃんと来なさいよ。」
「ひばり姉と一緒にして欲しくないと思われ。」
俺はまもなく出発する度に心を躍らせていた。
「もうちょっとで東北に行ける。これで「はつかり」とリニアデビューだ。日本最速の320キロと世界最速の500キロを同時に体験出来るなんて。」
旅行を許してくれたお父さんとお母さんには感謝だな。後はおじいちゃんとおばあちゃんの最長往復切符にも。
俺は時刻表の地図のページを出した。おじいちゃんとおばあちゃんが持っている最長往復切符は嬉野温泉からスタートしている。僕たちが合流する日は復路の盛岡まで使用した状態かぁ・・・。多分切符にも凄い貫禄が付いているんだろうなぁ・・・。
「あれっ。」
俺はその時有ることに気付いた。最長往復切符の起点は嬉野温泉であるが・・・。新幹線の駅間は新鳥栖~久留米間以外は結構あるものばかりのはず・・・。
「これって・・・もしかして。」




