537列車 出発
2062年3月1日・水曜日(第-6日目)天候:曇り 西日本旅客鉄道東海道本線守山駅。
気候はだんだんとあたたかくなり始め、北日本の気候は落ち着き始めるころ。6時をまわった守山駅のホームには一つ人だかりができていた。
「ついにこの時が来ちゃったな。」
僕はそうつぶやいた。
「そうねぇ・・・。今日から何日も帰ってこないと思うとなんかさみしいなぁ・・・。」
「それよりも本当にいいの。旅費全部負担するって。」
「いまさら何言っているのですか。私が良いと言ったのだから、お父さんとお母さんは何も気にせずに旅を楽しんでくればいいのよ。人の金で旅行してるなんて思って、委縮する必要はどこにもないですよ。それに言ったでしょう。私たち一鉄道ファンとして、神様のやった旅を夢のままで終わらせて欲しくはないと。」
「それでもねぇ・・・。」
「・・・これはウチらが勝手にすることなんだから、お父さんもお母さんも楽しんできてよ。楽しんでくれないとウチらも困るから。」
「・・・。」
「おじいちゃんもおばあちゃんもいいなぁ・・・。俺も付いて・・・ヒッ。」
「あんまり怖い顔しないであげて。常陸だって冗談で言ったんだし、稲穂は怖がるから。」
「分かってるなら最初から言うんじゃない。」
「ハハハ。」
東からは貨物列車が走る。貨物列車が走り去ると、また会話が始まる。
「土日に会いに来るくらいは許してもいいんじゃないの。」
「あのねぇ・・・。ウチは何もそれまでしちゃダメとは言ってないからな。」
「よっしゃ。」
それに常陸がガッツポーズをするが、
「常陸、稲穂。お前らはテストで満点取ったらだからな。」
「えっ、そんなぁ。」
「テストで満点・・・。」
「満点はハードル高いって。80点以上でいいんじゃない。」
「亜美、いつから子供に甘くなったのさ。ダメに決まってるでしょ。条件は満点だけだからな。」
「・・・満点なんて取れるわけないだろ、父さん。」
「満点・・・。」
「頑張れよ。」
そういう光を見ると、最終的に許しそうな気がするなぁ・・・。
ホームにチャイムが流れる。
「間もなく2番乗り場に6時36分発、特急「びわこエクスプレス1号」が到着します。危ないですから黄色い点字ブロックの内側までお下がりください。2番乗り場に列車が参ります。ご注意ください。」
守山6時36分→「びわこエクスプレス1号」→新大阪7時26分
東から黄色と白のライトをつけた特急列車が姿を現す。列車はゆっくりを入線し、決められた停止位置に止まった。僕らが乗るのは1号車グリーン席。半室あるグリーン座席には2人乗っている。ドアが開くと僕らは荷物を持って乗り込んだ。
「じゃあ、行ってくるね。」
「行ってらっしゃい。」
「元気で行ってきてね、お父さん、お母さん。」
「うん、みんなも元気でね。」
「はーい。」
「常陸君、稲穂ちゃん。おじいちゃんたち二人が来れるように祈ってるからね。」
「はぁい・・・。」
「じゃあ。」
手を振っているとドアチャイムとともにドアが閉まった。
「フォホホホホホ・・・。」
ブレーキが解除されゆっくりとホームを離れ始める。光ちゃんたちがどういうふうに見送っているのかはわからないが、この列車が完全にホームを離れるまで手を振って見送っていることだろう。
「北陸新幹線は「かがやき608号」だったな。発車まで少しだけ時間あるけどどうする。」
「どうするって。もうホームに行っておこうよ。私たちはもう予定を詰め込めるような体力ないでしょ。」
「そうだな・・・。」
最長往復切符の旅が始動するのはまだ先だ。この約120日間。どんな日本が僕らを待っているのか。それに対するわくわくが新大阪へ近づいて行くたびにこみ上げてくる。僕らは座席に腰かけ、椅子を倒す。
「間もなく、草津。草津です。」
旅はまだ始まったばかりだ。
守山→京都の乗車券(連1)使用開始
乗車券(連1)
守山→京都
経由:守山・「東海道本線」・新大阪・「北陸新幹線」・京都
乗車券(連2)
京都→若狭小浜
経由:京都・「北陸新幹線」・若狭小浜
乗車券
若狭小浜→嬉野温泉
経由:若狭小浜・「北陸新幹線」・東京・「中央本線」甲府・「中央新幹線」・名古屋「東海道本線」・新大阪・「山陽新幹線」・福山・「福塩線」・塩町・「芸備線」・備後落合・「木次線」・宍道・「山陰本線」・益田・「山口線」・新山口・「山陽新幹線」・小倉・「日豊本線」・大分・「豊肥本線」・熊本・「九州新幹線」・新鳥栖・「九州新幹線長崎ルート」・嬉野温泉




