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643列車 秘境駅第1位

 2062年4月17日・月曜日(第41日目)天候:曇り 北海道旅客鉄道(ジェイアールほっかいどう)室蘭本線(むろらんほんせん)洞爺(とうや)駅。

「乗車券を買いたいんですけども。」

そう言うと、駅員が「どこまでですか」と聞いてくる。それに「小幌(こぼろ)駅まで」と答えた。これから日本一の秘境駅に訪れようと言うことだ。

 とは言っても、到達には鉄道で行くしかない。だが、その鉄道も多く運行されているわけではないのだ。小幌駅に停車する列車は下り2本、上り4本の計6本。これだけでも驚くであろうが、究極の秘境駅の始発列車はさらに驚くべきものである。その話はまた後程することとしよう。

「こうしないと遭難することになったかもしれないんでしょ。」

萌が言う。

「遭難で済んだら良い方だと思うよ。春先でお腹の減った熊さんに食べられるかもしれないからね。」

「熊に食べられちゃうのは私も嫌かも・・・。そんな人生の帰結は迎えたくないわね。」

「滞在時間は30分に絞ったけど、本当に熊さん来ないよねぇ。」

「熊さんは人間がしゃべる声がすれば近づいてこないとは言うけどねぇ・・・。ハハハ。」

 ホームに行くと、長いホームに1両だけのディーゼルカーが入る。この車両はH100形という車両で、ベースは東日本旅客鉄道(ジェイアールひがしにほん)のGV-E400形をベースにしている。そのため、このH100形はディーゼルカーでありながら、モーターの音が聞こえてくるのだ。

 H100形長万部(おしゃまんべ)行きに乗り込み、来た道をいったん戻る。小幌(こぼろ)駅は長万部(おしゃまんべ)から2つ隣にある。さっき特急列車で通過してしまっているから、戻らないと行けない。

洞爺(とうや)14時46分→小幌(こぼろ)15時13分

洞爺(とうや)小幌(こぼろ)の軟券使用開始

 列車は海岸線を走る。海から離れ、内陸部に入り、礼文駅に停車。またしばらく走るとトンネルに入った。

「よいよだよ。」

「まもなく、小幌(こぼろ)小幌(こぼろ)です。運賃、切符は運転席後ろにあります運賃箱にいれてください。」列車は減速を開始し、今にも止まりそうなスピードでトンネルを抜けた。1両も入りきれないくらい小さい寂れたホームがH100形を出迎える。

洞爺(とうや)小幌(こぼろ)の軟券使用終了

 ドアが開き、僕たちは切符を運賃箱に中に入れて列車から降りる。降りるとき車両とホームにかなりの段差がある。それに少々ビックリしながら、ホームに降り立ってみた。

「すごい駅だなぁ・・・。」

後ろでドアが閉まる音がする。モーター音を辺りに響かせ、H100形はトンネルの中へと消えていった。

小和田(おわだ)駅の時もそうだったけど・・・。降りちゃって良かったのかなぁって言うような所よねぇ。」

辺りは山ばかりだ。少しだけある開けた場所にできたような小幌(こぼろ)駅は駅の両方をトンネルに挟まれている。春の訪れはまだ遠そうな北海道であるが、辺りは鬱蒼としていて、今にもお腹を空かせた熊さんが飛び出してきそうだ。1人で来るというのは論外であったとしても、これは人数がもっと多いときに来たほうが良いくらいだ。

「熊さーん。出てこないでくださいね。出てきてもおいしくないよ。」

萌が山に向かって言う。今ならどういう狂気的な行動をやっても分かんないよなぁ・・・。

「この場所によく駅作ったよねぇ。」

「昔は海水浴にも使われたとか言うけど、全然海水浴ができる感じじゃないよなぁ・・・。海見えないし。道もなさそうだし・・・。」

その海岸はこの駅から直線距離で500メートル以上離れている。過去にはこの辺りを通る国道37号から通じる道もあったらしいは今はそんな道があったことすら分からないほどになってしまっている。

「こんな所に住んでた人もいるんでしょ。」

「住んでたというか住み着いてたね。」

「無理だって、こんな所住めないよ。ていうかその人って20年くらいいたんでしょ。よく熊さんとかに襲われなかったよねぇ。」

「一人だもんなぁ・・・。こんな所夜になったら・・・うわぁ、恐ろしい。」

「怖いって、想像するだけでゾッとするって。」

「新手の肝試しも良いところだな・・・。」

「ねぇ、ここ人出てきたりとかしないよねぇ。」

「今ここに人が出てきたら叫べるな。」

「叫べるじゃないよ。冗談抜きで。」

ふと僕たちはトンネルの中からかすかに音がしているのを聞き取った。

「なんだ。」

僕たちが通ってきたトンネルからその音はしている。だんだんとはっきり聞こえてくるようになる頃、近くから踏切の音がし始める。その音にちょっと身を震わせる。列車が通過するようだ。

 この駅は停車列車よりも通過列車の方が多い。上りは8時38分に停車列車が来た後、僕たちが乗った15時13分まで停車列車がない。下りに至ると15時44分まで通過列車しかないのだ。長万部(おしゃまんべ)を5時38分と6時31分に出る普通列車もあるが、それさえこの駅を通過する。まぁ、通過したところでその時間にこの駅から乗る人はいないだろう。生活感がまるでないからだ。

「ポーッ。」

汽笛を響かせ、特急列車が通過する。僕らのほんの数十センチ前をなんの遠慮もなく通り過ぎていく。ここを通るときの「スーパー北斗(ほくと)」はトップスピード120キロで走っているのだろうか・・・。

「怖っ。」

「熊よりもこっちの方が怖いかも。あたったら100パー死ぬし・・・。」

「・・・人の来るところじゃないな。」

「もう、速く下りの列車来てよ・・・。」

 そろそろ秘境駅に訪れることは考えた方が良いかもしれない・・・。

 30分経った頃、トンネルの中に白いライトが現れる。この駅にやってくる15時44分発下りの始発列車東室蘭(ひがしむろらん)行きのライトだ。

「ようやっと脱出出来る。」

「ああ。怖かった。」

「太陽の光があるだけまだよかったな。」

「本当・・・。これは夜来たら怖いに決まってるわ・・・。」

小幌(こぼろ)15時44分→東室蘭(ひがしむろらん)16時55分

洞爺(とうや)小幌(こぼろ)(かえり)の軟券使用開始および終了

最長往復切符往路洞爺(とうや)駅より使用再開

東室蘭(ひがしむろらん)17時16分→「スーパー北斗(ほくと)9号」→札幌(さっぽろ)18時41分

最長往復切符往路白石(しろいし)駅まで使用

白石(しろいし)札幌(さっぽろ)札幌(さっぽろ)駅窓口にて運賃精算の上乗車


一口メモ

北海道旅客鉄道(ジェイアールほっかいどう)室蘭本線(むろらんほんせん)小幌(こぼろ)

日本にある最強の秘境駅である。小幌(こぼろ)駅につながる道路はなく、鉄道が唯一の到達手段となっている。利用者数は廃止になってもおかしくないレベルであるが、この駅の自治体が整備費を出すことによってこの駅を維持している。


北海道旅客鉄道(ジェイアールほっかいどう)H100形

東日本旅客鉄道(ジェイアールひがしにほん)が製造したGV-E400形をベースに製造された北海道向けディーゼルカー。


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