627列車 芽吹き
2062年4月10日・月曜日(第34日目)天候:晴れ 東日本旅客鉄道常磐線いわき駅。
今回も出発時間は遅い。僕たち二人はホテルの中でゆっくりくつろいでいた。萌は相変わらず僕の前での警戒心は薄い。下着姿の女性が隣にいると思うと、嬉しい反面目のやり場に困るというものだ。
「ナガシィ、何でさっきから目をキョロキョロさせてるのかな。」
(分かってるくせに・・・。)
「萌、服着ようか。」
「ナガシィは見れて嬉しいんじゃ無いの。ナガシィだって男なんだし。」
「・・・。」
そりゃそうかもしれないけどさ・・・。
ホテルのチェックアウト時間ぎりぎりまでゆっくりして、いわき駅に向かった。いわき駅では常磐線原ノ町・仙台方面という表示が出ている電光掲示板に赤文字で「特急めぶき」の表示が出ている。
「「めぶき」かぁ・・・。言い名前だよね。特急列車としてはあんまり速くなさそうだけど。」
「まぁ、この辺りには言い名前だと思うよ。」
特急「めぶき」・・・。常磐線いわき~岩沼間に設定された特急列車。全車指定席の列車のため、僕たちは指定席券を持って、改札口を通った。
ホームに止まっている車両はE657系。5両編成の全車普通車構成である。常磐線を走る特急列車は全てE657系で統一されていることになるのだが・・・。いわきから北は交流電化区間しか無いけど・・・。そんなことはどうでも良いか・・・。
いわき10時27分→「めぶき3号」→仙台12時23分
10時23分にやってくる特急「ひたち3号」の乗客を待つ。さすがにいわき以北に行く人は多くは無いらしい。乗客が乗り切ったのかいわき駅を出発する。
「めぶき」が走るところは東日本大震災で大きな被害を受けたところである。沿線風景には新しい建物が並んでいる。今この風景を見ると半世紀くらい前にもなる大津波の痕跡などどこにも無い。そして、そんな被害があったことを知っていても誰もピンとはこないだろう。
富岡駅に停車。富岡駅より北は東日本大震災と関連して起こった福島第一原発事故の影響を大きく受けた区間となる。
富岡駅を出発し、しばらく走るとにわかに緑が増えた気がする。
「この辺りからかな。帰宅困難区域に指定されているところ。」
「そうだろうなぁ・・・。」
沿線に見える風景はもはやジャングルに近いところもある。そのジャングルの中に人影を見ると、それにビックリする。僕たちは勝手にこの場所に人が一切入れないものという先入観を持ってしまっているらしい。考えてみれば、福島第一原発も廃炉は最終段階に来ている。作業そのものは順調とは言えないが、半世紀も経てば色々と事情は変化するか・・・。
「・・・。」
人家が増えてくると浪江駅に到着する。
僕たちと同じ車両に乗っていた人間が数人浪江駅で下車する。この辺りはだんだんと人の営みというものが戻ってきているようだ。列車名の通り芽吹いているようだった。
一口メモ
東日本旅客鉄道E657系1000番台
常磐線の全線復旧を機に製造された5両モノクラス編成である。
特急「めぶき」
常磐線いわき~岩沼間の全線復旧後、いわき~仙台間に設定された全車指定の特急列車(いわき~仙台間は座席未指定券を所持していれば、指定席の空いている座席を利用できる)。「めぶき」という名前は「震災復興の芽。これから大きく育つための一歩」の意で名づけられた。なお、いわき駅で「ひたち」と改札を出ないで乗り換える場合、特急料金は通しで計算されるという特例がある。




