535列車 切符あれこれ
私はエクセルを開き、日本の簡単な路線地図を作り始める。最長往復切符は子これを作ることから始まる。自分で計算するという手もあるが、そんなことをすれば、一生かかっても完成しないだろう。これが一番手っ取り早い方法だ。
「やってるなぁ・・・。」
そう言うと光ちゃんが私の後ろに座る。
「金銭的支援をすることは決まったんだし、後はこれを完成させないと。」
もちろん、考えるのは経路だけではない。果たして、コンピュータが計算したルートで一枚の切符として成立するのかどうか。これも問題である。
例えば、基本的に私鉄線を最長往復切符のルートに組み込むことは出来ない。これは私鉄線を通るとJRの切符は私鉄線に入る駅で運賃が一旦切られ、私鉄線からJR線に戻った駅から再び運賃の計算がスタートする(※1)。この場合、切符は1枚で成立しない。
※1:JR線→A駅(起点→A駅までで運賃計算)→B駅(B駅から運賃計算再開)→JR線
しかし、私鉄線を通っても運賃計算が継続される路線もある。IRいしかわ鉄道金沢→津幡間、IGRいわて銀河鉄道盛岡→好摩間、伊勢鉄道河原田→津間、えちごトキめき鉄道上越妙高→直江津間。土佐くろしお鉄道窪川→若井間、阿佐海岸鉄道海部→甲浦間。他にもあるがここに書いた私鉄線は通り抜けた場合でも運賃計算が継続される(※2)。よって、発行される切符は1枚で成立する。
※2:A駅→JR線→金沢駅→(IRいしかわ鉄道)→津幡駅→JR線→B駅(A駅→B駅で運賃計算)
まぁ、私鉄線で組み込むところは決まっている。IGRいわて銀河鉄道盛岡→好摩間。ここを組み込むことでJRの最長往復切符のルートを最大値にまで延ばすことが出来る。
次に考えるのは新幹線と在来線だ。新幹線は基本的に並行する在来線と同じ路線として扱われる。例えば、東京→新大阪間を東海道新幹線で移動する場合、運賃は東京→新大阪間を東海道本線で移動するのと同じである。
そして、「基本的に」と書いて例に漏れず、これにも例外がある。それは新幹線駅が在来線駅に併設していない区間である。例として東海道新幹線の新富士駅をあげよう。新富士駅は新幹線しか入っておらず、在来線駅に併設されていない。この新富士を挟んでいる三島→静岡間は「発駅もしくは着駅、または接続駅とする」場合に限り、東海道本線とは別路線として扱うとあるのだ。
なんともまぁ、ややこしいことである。
しかし、このややこしさが重要になるところもある。最長往復切符では富士山の周りを一周する時がある。その時、この別路線として扱うという項目が生きてくるのだ。
次に考えるのは運賃計算で使用する路線。運賃計算はまず乗車経路のみで行われる。だが、ここにも注意しなければならないところがある。山科→近江塩津間を例に挙げて説明しよう。
山科→近江塩津間は2つの経路がある。一つは湖西線経由(74.1キロ)。もう一つは米原経由(93.6キロ)だ。この時運賃計算は距離の短い湖西線経由で行われる。
最長往復切符のルート上であるこういう場所は呉線海田市→三原間(運賃計算時は山陽本線経由)と京葉線東京→蘇我間(運賃計算時は総武本線・外房線経由)である。特に京葉線の場合はなぁ・・・。
「光ちゃん、私行もJRの規定が複雑だと思ったことないわ。」
「だろうね・・・。でも、亜美だって出札はやったことあるから分かってるでしょ。」
「ううん。私のやった出札じゃあこんなのはなかったわ。新幹線を別線扱いする特例とか、JRと接続する私鉄線の選定とか。鉄道ファンのほとんどはこういうの持ち込んでこなかったしね・・・。光ちゃんの言うとおり、私がやってたのは何も分かってない利用者相手の業務でしかなかったわ。」
これは素直に認めざるを得ない。みどりの窓口にやってきたお客のほとんどは「京都から東京に行きたい」とか「京都から白浜に行きたい」というごくごく単純なもの。計算には比較的苦労のないものばかりだった。
「・・・。」
「私、今になって東海旅客鉄道辞めたの悔やむわ。」
「ウチがやろうか。」
「光ちゃんは明日も仕事でしょ。何も分かってない嫁じゃないんだから、ここは私に任せなさい。」
「・・・頼りにしてるよ。」
光ちゃんはそう言ってから、
「そういえば、切符の発行は結局どうするの。」
「それなんだけどね、常陸が大分行きたいって言ってるのよ。」
「その時発行を依頼するの。」
「ええ。それまでになんとしても作ってやるわ。これはデータ入力しちゃえば早いし。」
「・・・分かったよ。大分気をつけて行ってこいよ。」
「うん、ありがとう。」




