526列車 暗く厚い雲
列車などの運行時刻は2017年8月(一部2009年JTB時刻表)のJR時刻表に準拠する。また、日本一長い切符として登場する切符は数字的根拠は存在しておらず、このストーリー内での最長ルートである。また、この旅内で行われることが現実の2062年に必ずしも出来ないことに留意されたし。
僕は時刻表を眺めていた。そして、次に自分のシフト表を眺める。もうすぐだ。もうすぐこういうことをする日が近づいてきている・・・。いや、出来ないだろうなぁ。資金的にそんなに僕の家の家計は潤沢じゃないからなぁ・・・。
「ナガシィ。ご飯できたよ。」
そう言う萌の声に振り向く。
「今日は福引きで引き当てた近江牛使ったすき焼きだよ。」
「あっ、いいね。うん。今行く。」
僕はそう言ってから時刻表を閉じた。
「はい、どうぞ。」
そう言うと亜美は紅茶をテーブルに置いた。その後に紅茶に合うお菓子を慣れた手つきで置いていく。
「ありがとう、亜美ちゃん。」
「亜美ちゃん、ありがとう。」
そう声をかけるのは梓と美萌だ。
「では、お母様。梓様、美萌様。どうぞごゆっくり。」
頭を下げて、テーブルのそばから離れていく。
「本当、出来たお嫁さんね。光君もいい人選んだわねぇ。」
「うん、うん。頭のいい子は人を見る目もあるのね。」
「梓、亜美ちゃん見たらいつもそれ言うわね。」
「・・・つい比べたくなっちゃうのよ。私って嫌な人よねぇ・・・。」
梓はため息をつきながら、言った。確かに、比べたくなるのは人間の性なのかもしれない。私もしているかもしれないからなぁ・・・。
「別に嫌な人じゃないと思うよ。」
「フフフ・・・。さて、本題に行きますか。」
梓の声で話が変わる。
3人の会話はつきることがない。長いつきあいだけどここまで話すことがつきないとくると自分でも驚いてしまう。
「新年明けたけどさぁ、皆どこか行く予定とかある。帰省以外でだけど・・・。」
美萌が言う。
「私はそろそろ白浜に連れて行って貰おうかな・・・。それか白浜がダメなら城崎にでも連れて行って欲しいなぁ・・・。」
梓が言う。
「ああ、旦那の充電に付き合うのね。」
「いやいや、大希の充電じゃなくて。私が行きたいの。私が。少しは温泉に入って疲れ取ったり、白浜でパンダ見たりしたいじゃない。」
「でも、大希君と一緒に行くんでしょ。デートしたいって言いなよ。」
「デートなんて言う歳でもないわ。」
梓は照れながら言う。
「萌ちゃんは。」
今度は私に話を振ってきた。
「萌ちゃんの場合は決まってるでしょ。ナガシィ君と最長往復切符の旅だっけ・・・。」
「ああ、それ。日本を100日以上回ってくるってやつでしょ。そんなに長い旅できるの。」
「昔やった人はいるし、大丈夫だよ。きっと出来る。」
「・・・あのねぇ・・・。萌ちゃんたちとその人じゃいろいろと違うでしょ。えっとその・・・。誰だっけその最長往復切符の人。」
「播州亜多琉。」
「それ。播州さんはYouTubeに動画投稿して広告収入を得ているから、その旅行が出来たんでしょ。後はナガシィ君みたいな熱狂的なファンがいたから。」
梓の言う熱狂的なファンとは播州亜多琉さんに個人的に支援した人のことを言っている。それはお金であったり、食べ物であったり様々だ。
「そうだよ。今から2番煎じみたいな事しても、受けないでしょ。だいたいナガシィ君たちの間じゃ有名人なんでしょ。」
「そうだよ。ナガシィたち鉄道ファンの間じゃね。もう神だよ。」
「ああ、いろいろ飛び越えて神になってるのね・・・。」
呆れたようで梓からは次の言葉が出てこない。次に口を開いたのは美萌だ。
「やるのはいいけど、体力持たないでしょ。ただ電車に乗っているだけでも疲れるんでしょ。」
「そうなんだよねぇ。でも、行程とかはゆったり組めば問題ないし。片道で50日かかるって事は余裕のあるパターンで行っても問題無いことは証明済みだし。」
「・・・。」
「とにかく、もう少し自分の体力に見合った事しなさいよ。別に、最長往復切符の旅をするなって言ってるわけじゃ無いんだから。」
「そうそう・・・。いくら決まってるって言っても、時間とお金があっても体力のない老体に100日の旅行は堪えるよ。」
でも、二人が言っていることは最長往復切符の旅をするなと言っているのと何ら変わらない。実は私にも疑問がある。体力の面はある程度問題ないにしても、100日以上それが続けられるのかどうかが問題である。
それに金銭的な側面もある。100日旅行するにしても宿泊施設に泊まるのは99日。内2日を家で過ごしたりと考えても97日はホテルなどに泊まることになる。それほど資金が潤沢かと言われるとそうでもない。何が起こるか分からない将来のことも考えて、貯金を残しておくことも考えないとならない。
「・・・うーん・・・。」
「でも、まだ時間はあるんだし、ナガシィ君とゆっくり話し合ったら。」
「うん・・・。そうする・・・。」
「ところで美萌ちゃんはどこか行く用事でもあるのかな。」
「フフフ・・・。この3人でどこか行くっていうのはどう。」
「いいねぇ・・・。因みにどこ考えてるの。」
「・・・。」
いろいろと難しいよなぁ・・・、うん。
「・・・。」