悪夢の前兆
───勝って嬉しい花いちもんめ
───負けて悔しい花いちもんめ
───あの子が欲しい
───あの子じゃわからん
───相談しましょ
───そうしましょ
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「はぁ…はぁ…はぁ…」
──タッタッタッ
何も見えない暗闇の中、坂城綾香は、走っていた。息が切れても、足がもつれても、走ることをやめなかった。いや、やめることができなかった。
(………殺される………捕まったら………殺されてしまう………!)
聞こえるのは、自分の息づかいと走る足音だけ。
「………はぁ……はぁ……はぁ……」
────タッタッタッ
『かーってうれしいはないちもんめ』
綾香の後ろから微かに女の子の歌う声が聞こえてきた。
「………!」
『まけーてくやしいはないちもんめ』
その声は、少しずつ、だけども確実に、綾香に近づいてきていた。
『あのこがほしい』
─タッタッタッ
「………はぁ……はぁ……はぁ……」
『あのこじゃわからん』
(………追い付かれる………!)
『そうだんしましょ』
『そうしましょ』
───ポンっ
唄が終わると同時に、綾香の肩に小さく冷たい手が触れた。
「………ひっ!きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
───ガバッ
「………はぁ……はぁ……はぁ……」
悲鳴と同時に飛び起きると、綾香は「ふぅ……」とため息をついた。
いつからだろうか、綾香は毎晩同じ夢をみるようになった。暗闇の中を、ただ逃げる夢。捕まってはならない。捕まったら殺されてしまう。ただ、その思いに突き動かされるように走り続け、追い付かれると目が覚める。その繰り返しだった。
───かーって………
「………え?」
ふと、夢の中と同じ唄が聞こえた気がして、周りをキョロキョロと見回してみるが、何も変わった様子はなかった。
(………気のせい……かな………)
それでも、綾香の胸に不安は重くのしかかるのだった。
「──では、次のニュースです。数日前より行方不明の女子児童数人の遺体らしきものが発見されました」
ふと、耳に入ってきたニュースは、最近の行方不明事件のものだった。