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1.幻想の少女

 その日、魔力渦が発生した。

 魔力渦とは、この世界の空気中に含まれる魔力が、何らかの理由で全てが一箇所に集まり、様々な現象を引き起こす自然災害のようなものである。


 とは言っても人的被害はこれまでの歴史に一つも残されていなければ、空気中の魔力など半日もすれば回復する。更にはこの現象さえも数百年に一度にしか発生はしない。


 しかし、発生したのであれば何かしら対処をしなければならない。この魔力渦が発生したフロルス皇国は、直ぐに近くに滞在していた第三騎士団を向かわせた。


 フロルス皇国はこの大陸で三番目に大きな領土を持っている。発生した場所は、その領土の隅、近くのソエンサの街から少し離れた平原で起きた。


「魔力渦か……まさか生きてる内にお目にかかれるとは」


 第三騎士団団長、ゲルストは馬をとばしながら言葉とは裏腹に興味もなさげに呟いた。

 ソエンサの街に駐在していた第三騎士団、三十名余りを引き連れて魔力渦が起きた場所へと向かう。だが同じく馬に乗り駆ける騎士達も、ゲルストと同じような空気を漂わせていた。


 魔力渦という現象は、様々な現象を引き起こすが、総じて大したものでもないというのが現状である。

 ある時はその周囲だけに雨が降った。

 ある時はその周囲の木々が異様に成長した。

 ある時はよく分からない金属が発生場所に落ちていた。

 などである。


 数百年に一度というため、記録が残っていない、数も少ないがどれも大きく取り扱われることはない。

 しかし国を守る騎士団としては、行かざるを得ないだろう。国からも伝書が飛んできている。


 ゲルストは元々王都の権力闘争や催事、面倒事を避けるために国でも外れにあるソエンサの街に駐在していた。

 歳は四十手前。元は愛国心のために騎士へと小さな貴族の出ながら志願し、幾多の功績を得て第三騎士団団長という地位に収まったが、気疲れが多く戦なども少ないために辞めようとも思っていた。


 当たり前だがそんな簡単に辞められるはずもなく、更にはゲルストは国でも有数の剣の使い手。国が手放すはずもなく、かといって大きな力と功績を持つゲルストの意思を無碍にすることもできず……このソエンサの街に駐在するという形で件は解決した。


 第三騎士団の多くは王都に構えているし、団長の様な役割を持ったものも別にいる。最早名を置いて有事の際は力を貸すといった立場だ。

 今いる団員は、ゲルストに忠誠を誓ってついてきた馬鹿ばかりだ、とはゲルスト談。


 そしてこの魔力渦は、有事に含まれたというわけだ。


 馬を走らせて半刻。

 ようやく魔力渦の発生場所が見えてきた。


 魔力渦が発生した時に目に見えるのは一瞬である。落雷の如く大地を揺らすほどの大きな音をたて、天にも届く竜巻が目を焼き付ける。


 しかし起こった後の場は未知の現象というやつが起きていない限り、詳細な場所を特定するのは困難を極める。


 ……が、今回はそうではなさそうだ。


 平原の開けた視界に、巨体の姿が入る。

 コルドドラゴン。

 危険度で言えば中の下、ギルドが定めていたランクでいえばCぐらいか。


 巨体の通り動きは遅く、魔法を扱う事もない。

 ノロノロとした動きで力任せに小さな手を振るか尻尾で薙ぎ払うか。

 発射までに時間のかかるブレスくらいしか攻撃方法のない低級ドラゴンである。


 だがゲルストは油断しない。

 弓兵たちに合図を出し、歩兵は馬を降り武器を構えた。低級とはいえドラゴン、王都の調教された馬ならまだしも、街の駐在所にいる馬程度では怯えてしまう。


 長年の相棒である剣を携え、辺りを見渡す。

 コルドドラゴンの周りには数十人の死体が散乱しており、脇には大きな長方形の鉄塊か何かが真っ二つに割れていた。


 今回の現象は、未知の物体の転移か。

 散らばっている死体も気になる、ここらに村などない……更に全員がここらでは珍しい黒髪であった。


「放てぇええええッ!」


 だが、確認するのは後でいい。

 このコルドドラゴンも、魔力渦の影響を受けているやもしれない、それは厄介だ。


 構えさせていた弓兵が、一斉に矢を放つ。

 コルドドラゴンは未だ気付いた様子もない。

 いくら知性の少ない低級とはいえあんまりである。しかしコルドドラゴンの視線は、一点に集中しており、そこから離れることはなかった。


『グギャォオオオオッ!』


 鱗を突き破り、無数の矢がドラゴンの皮膚へと刺さる。大きな悲鳴を上げ、ようやくこちらの存在へと気付くが、もう遅い。


「ふんッ!」


 既にドラゴンへと駆けていたゲルスト。間合いを詰めると、一閃。己の体程ある大剣を薙ぎ払い、ドラゴンの胴を真っ二つに切断した。


 ドラゴンは悲鳴をとぎらし、音を立てて地面へと倒れ、絶命する。

 ゲルストは血を払い、背に大剣をかける。


 常人では不可能とも思える技。

 それをゲルストは、長年の鍛錬、経験、磨き上り詰めた剣技……そしてスキルによって、それを可能にしていた。


 残ったのは、同じように真っ二つとなったドラゴン、鉄塊、人間の死体。

 そしてドラゴンが釘付けとなっていた……現実とは思えないほど、美しい少女であった。

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