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7.少年達は逢うべくして出逢った

 

 ガソリンスタンドからわたるの家まではそう遠くない。


 潮風を浴びながら航とゆうが先頭を歩き、その後ろに優がピカピカに磨いてくれたバイクを満たされた表情で押しながら歩くつばさ誠也せいや輝紀てるきが続く。


 コンビニへ寄り道し、缶ビールやチューハイ、梅酒、間休み用のソフトドリンクと水、適当なつまみを追加で買い込んで、いくつか角を曲がってしばらく歩き続けると、三つの丸く平べったい石で構成された階段が見えてきた。


「あ、翼くん。バイクはそっちに停めといてくれたらいいよ」


 航の指示通り、石段の左横辺りにあるガレージへ、翼はバイクを停めた。


 誠也は物珍しいのか、キョロキョロと小宮(こみや)家の建物から周囲にまで興味津津のようで、ぴょんぴょんっと跳ねながら石段を上って後ろを振り返った。


 広がるのは大きく、どこまでも続く海洋。


 夜の暗さにより黒色に染められたその姿は、全てを吸い込んでしまうブラックホールのようだ。


 見つめて何を思うのかーー深く呼吸を繰り返しながら、誠也は黙ったまま、揺れる水面を(ひとみ)に映し続ける。



「海、好きか?」



 優が声をかけたことに驚いたようだ。誠也は緊張気味に表情を硬くした。


「あ、う、うん……でも、なかなか、見れる機会がなくって、こんなお家、素敵だなぁって」

「ふーん、そっか。じゃぁ今日よかったな、こここれて」

「えっ、うんっ、あ、ありがとう」

「そんな緊張しなくていいぜ? 誠也の隣にいるヤツ見てみろ」


 誠也が視線をずらした先では、仁王立ちした翼が、同じように海を眺めていた。


「……海、俺も好きだぞ」

「聞いてねぇわ!」


 どことなくドヤ顔の翼に対し、すかさずツッコミを入れる優に、誠也は笑いを零す。


「二人さ、初対面同士だとは、全く思えないよね」

「……初見ですが何か」

「はいっ、誠也そのフリアウト~! 新堂しんどう調子に乗せるで賞だな」

「えっ、ご、ごめんっ」

「……貴様もアウトだな、色々」

「おめぇにだけは言われたくねぇよ! そもそも意味不明じゃねぇか! 色々で濁してんじゃねぇよ!」


 優が翼にガミガミと文句を吐き続けていると、石ころをじゃりじゃりと蹴りながら、航が駆け戻ってきた。


「お待たせーっ! みなさんどうぞっ、お上がりくださいっ」


 促されて玄関を潜った先には航の母親が立っていた。


 各自「こんばんは」と挨拶をして、「お邪魔します」と靴を揃える。


「こんな夜分からすみません」


 輝紀が申し訳なさそうな表情をしながら、母親の正面に立ち、もう一度深くお辞儀をした。


 そんな輝紀の手を、母親はうっとりとした顔をしてとった。


「いえいえ~っ、全然お構いなくっ。それにしても輝紀くん初めまして~。航から昔よくお話聞いていたんですよ~。とても格好よくて頭のいい先輩がいるって。そのまま育ったのねぇ素敵だわ~身長も高いし。あっ、これは何? 天然? おしゃれパーマ?……」


 折角やってきてくれたイケメンを堪能したいが故に、延々と繰り出される母親の熱を帯びたおしゃべりは凄まじい。


 目配せをし、そろ~っと残りの四人は階段を上がり、航の部屋の引き戸を開けると、忍ぶように入り込んだ。


「相変わらずだよな、航の母ちゃん。イケメン見ると止まらねぇもんな」

「も~恥ずかしいほんとっ。ちょっと俺止めてくるから、三人は適当に飲んだり食べたりしててっ」


 一度ピシャっと航により閉められた引き戸だったが、ガラッとまた直ぐに開かれた。


「翼くん、帰り、気をつけてね!」


 明日の朝のご忠告。


 もう一度引き戸を閉めると、航はバタバタバタと勢い任せに階段を駆け下りていった。


 部屋の窓を網戸にし、クローゼットから慣れた様子でスウェットを取り出し着替えを済ませ、自分の部屋であるかのように堂々とベッドへダイブした優に、翼の無言の視線が突き刺さる。


「や、何で見てんの? 俺も寝そべりたいけど的な?」

「……貴様、エスパーだな」

「お前ほんっと分かりやすいよな。クールな感じ押し出してるわりに、それに反するように感情剥き出しだもんな」


 その横でガサガサとコンビニ袋の中を漁りだした誠也は、三百五十ミリリットルの缶ビールを三本手にすると、こちらへ差し出してきた。


「ちょ、え! 誠也! ダメじゃね?」

「へ?」

「お前未成年だろ?」


 慌てた優が缶ビールを誠也から奪おうとすると、たちまち彼の顔は真っ赤に染まった。


「ちっ、違うよ! こう見えても、は、二十歳だよっ!」

「え、まじか! わ、わりぃ。悪気はなかったんだ!」

「……先程、大学の後輩だとご紹介があっただろう」

「そ、そうだったっけか~? いや、でも、二十歳とは言ってなかった! な、ほら、若く見えるんだよ、いいことじゃねぇかっ、なっ!」


 ポンッと誠也の肩に手を置き宥める優を見て、溜息混じりにスルメの袋を開封すると、翼は一本摘まみ出し、誠也の口元へ近づけた。


「……失礼な男だろう。可哀想にな。ほら、食べさせてやる、元気を出せ」

「てめぇは悪ノリがすぎるんだよ......!?」


 優と翼の顔に、卒然とかかってきた影。


 二人の視線は自然な流れで上向いた。



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