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再認識する気持ち

作者: 八束天音

好きな人がいる。

それはそれだけで嬉しいことだと思う。

好きな人が側にいた時間はほんのひと時で、

今は遠くに行ってしまっている。

もう大人なんだから、いつだって会いに行ける。

そう口では言うけれど、

そう頭でも分かっているけど、

会いに行くことはできない。

忙しい、用事がない、理由がない。

そんなことを口実にしても、

好きだから、を一番の原動力にして、電車に飛び乗ってしまえばいいのに。

分かっている。

そんなことをして、気付かれてしまうことが何より怖いということ。

あなたは知らないのだ。

想いを寄せているということ。

あなたは今でも、私のことを友達だと思っているだろう。

無邪気に、信頼を寄せていることだろう。

それは仮面だ。

それは偽りだ。

あなたは私の嘘をそんなにも素直に受け入れてしまっているだけなのだ。

あなたの恋を祝うふりをして、私は返事をしなかった。

あなたの愛を羨むふりをして、私は触れようともしなかった。

忙しい、を理由にして、形ばかりの祝福を送ってそれでおしまいにしようとした。


あなたは知らない。

あなたにつながるものを見るたびに、

私は泣きたくて叫びたくてわめきたくて、胸が苦しくなるのだ。呼吸が止まるのだ。死にそうなほどに後悔しているのだ。

あんまり恋が苦しいから、私はあなたに近づくこともできない。



好きすぎて会いたくない、という気持ち。あなたはわかるだろうか?

告げることが怖くて、ただ奪われるのをすぐそばでじっと息を殺して見ていた。

奪うことすらできなくて、あなたの笑顔が何よりも私の心臓を止めてしまう致命傷。

貴方の声を聞くたびに、あなたと会ってたわいない話を交わすたびに、心臓に楔を増やしていく。

ぐるりと一周、私の心臓にあなたが知らずに打ち込んだ杭が深く深く突き立っている。

呼吸もできない。心臓が悲鳴を上げる。頭が白くなり、涙すら流せない苦しみに、

私はあなたへの愛を知る。

そうすることで、繰り返し繰り返し嫌になるほどに認識する。


私には好きな人がいる。

そして私には届かない。

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