リタイアする美少女
「夕暮 莉依です。よろしくお願いします。」
平たく言えば、それはもう大騒動だった。
学校中の男子は騒ぎ立て、クラス内は戦士の雄叫びのように地響きが鳴っていた。
さらには女子まで色んな目線で可愛いと愛でる、ロリ愛好者達が群がってきた。
まさかとは予感していたが、これ程までとは想像しかねていた。
「莉依ちゃんよろしく!ところで放課後空いてる?行きつけの喫茶店のショコラケーキが美味しいんだ。放課後一緒に食べに行かない?」
「何言ってんだよ?お前の行きつけの喫茶店よりまずは歓迎会を兼ねたカラオケだろ?莉依ちゃん好きな曲とか何?後で俺らとカラオケ行かない?」
「ズリーぞタケッ?俺達が先に誘ってたんだろうが!」
「いいや。莉依ちゃん。あんな不埒な男子共より私の家でお茶会でもしない?私、クッキー焼くの得意なんだ。」
「いいえ、私の家での茶菓子パーティーの方が盛り上がりますわ。後で莉依ちゃんを含めた女子会をなさりませんこと?」
「…………」
完全にダルマ状態。
返答する暇すらなく、俺の取り合いが男女混合で行われている。
悪い気はしないが……どんどん空気が重くなっていく。
ていうか微笑んでないでさっさと授業始めろよロリ教師。
そんなこんなで席決めすら恐ろしい口論の果てに通路側の一番右上になった。
人の欲は全く以て恐ろしい。
それから授業が終わり、昼休みになった時。
「…………食べ辛い」
他クラスの生徒(主に男子)が群がっていてものすごく食べ辛い。
通路側じゃなくて窓側にしてもらえば良かったぜド畜生。
「ねえねえ。そのお弁当莉依ちゃんが作ったの?かわいいね」
「あんた何言ってんの?こんな芸術作品莉依ちゃん以外に作れるわけ無いじゃない」
ごめん、これハル姉作です。
それから喋り辛い空気を保ったまま黙々と食事を終え、ラノベを読もうと本を取り出したのだが、店舗カバーを付けていた事が不運にもまた新たな火種を生み出す事になってしまった。
「ああっ!?莉依ちゃんが本読んでる。」
「すごい。休み時間すら黙々と小説を読むなんて……健気!」
ごめんて……これラノベです。
「しかも見てよこれ、読んでる姿もなんとも愛おしい。」
「一体なんの小説を読んでいるんだろう!?ああくそっ!俺もみてぇ!」
ごめんて、これハル姉が書いたラノベです。
「しかも見て、莉依ちゃんのカバンめっちゃ可愛くない!?莉依ちゃんの為にあるようなすごい可愛いんですけど!」
ごめん、これ小学生向けのバッグです。
「しかも莉依ちゃん小説を読んだまま私たちを気にしないなんて……優しい気遣いなのね」
…………ああくそまじてなんだよもうっ!
「すみません、ちょっとお静かにお願いしたいのですがいいでしょうか?」
我慢出来ず言ってしまった。
さすがにこれは効いたか……?
「な、な、な……なんて事なの……?」
「「「超可愛い過ぎるよ莉依ちゃんの声ーー!」」」
あ、あれ?そっち……?
「そういえば朝の自己紹介もかなり潤し声だったよな!?」
興奮した男子が声を荒らげる。
「なんて幼女らしく麗しい声なの……!?」
興奮した女子が今にも掴みかかりそうに手をワキワキさせている。
「なんて完璧なんだ……莉依ちゃん!?」
全てを悟った聖人のように、男子が涙ぐみながらポツリと呟く。
「…………よし!」
逃げよ。
俺の判断は即興で、すぐさま迷う事無く家に向かって駆け出した。
「「「ああ──っ!?」」」
好きになってくれた男女生徒諸君には申し訳ないが……一旦帰ります!
PS:この日一日で俺の名は中高生全般、学校内を震撼させる存在となった。