無意識な小悪魔
とある昼休みのこと。
俺、木崎直人は体育館そばにある自動販売機までジュースを買いに行っていた。
別に、校内には他にも自販機はあるのだが、俺の好きないちごヨーグルト味の炭酸飲料がそこの自販機にしか売っていないのだ。
「飯食った後は、どうしても飲みたくなるんだよなぁ」
いつもはスーパーなんかで大量買いして、学校に持ってくるのだが、今日はすっかり忘れてしまっていたのだ。
とはいえ、もう飯も食べた後だし、昼休みはまだ全然残ってるし、歩くペースは全く早くない。
「あっ、まだ残ってる。良かった」
自販機が見えて来て、準備中の文字が浮かんでないことを確認すると安堵する俺。
別に人気商品ではないが、入荷数が少ないため、毎日昼には無くなっていることが多いジュースなのだ。
まぁ、そんな商品をスーパーで大量買いしてる俺はマナーとしてどうかとも思うけど。
俺はスキップをしながら自販機に近付き、お金を投入してボタンを押す。
片手で持てるサイズのペットボトルが出て来て、俺はそれを取り出す。
「あ〜!」
すると後ろから大きな声が聞こえた。
自販機を見ると、俺の買ったジュースが準備中になっていた。
どうやら最後の一個だったらしい。
「欲しかったのに・・・残念」
俺の後ろにいた人がわざとらしく聞こえる声で独り言を話しているが、おそらく本人に自覚はないだろう。
なぜそんなことがわかるのかと言うと、その人は俺の良く知る人物だったからだ。
とはいえ、相手は俺のことを知らないけど。
腰まで伸びた艶やかな黒髪に、優しそうに微笑む様な垂れ目と、にこやかな口元から包容力の様なものを感じさせる。
身長は低すぎず高すぎずといった感じで、体型はとてもグラマラスだ。
全体的に少し肉付きがいいのに太っているわけではなく、むしろ痩せていて、特に胸は服の上からでもわかるぐらい大きい。
下手をすれば美鳥よりも二回りくらい。
全体的に、人妻とか、年上の綺麗なお姉さんという雰囲気が醸し出されている。
そんな彼女は俺の1つ年上で、学年も1つ上の七塚叶江さん。
ウチの学校の有名人だ。
というのも、ここまでの美貌だから男子の人気は当たり前で、周りに優しいし気配りもできるものだから男女両方から支持を受けている。
まぁ、一部の女子からは反感を買ってるけども。
また、彼女は天然なところがあり、無防備だというのも人気の要素の1つだ。
そんなわけで、彼女は学校でベスト4には入るほどの人気者なのだ。
「良かったら、いります?」
俺は申し訳なさを感じ、七塚先輩にジュースを差し出す。
「えっ?悪いよぅ、そんな、貴方も飲みたいでしょう?」
「大丈夫ですよ。俺、家にも沢山ありますし、別の買いますから」
そう言って俺は他の飲み物を購入する。
「う〜。意地悪だなぁ」
七塚先輩はムクれているが、少し可愛い。
「あれ?そういえばこの辺りのスーパーでいつも買い占めてる人がいるって噂があった様な・・・。そのせいで私、いつもここで買うしかないんだよねぇ」
「うっ」
罪悪感を煽ってくる先輩。
「それ、俺のことです」
「えっ!そうなの⁉︎」
「なので、そのお詫びも含めて、これ、持って行ってください」
ジュースを受け取ろうとしない先輩に俺は無理矢理ジュースを持たせる。
「せめてお金は払わせて?これ、貴方のお金で買ったものでしょう?」
「いいですよ別に。安いものです」
「う〜。それじゃあ私の気持ちがすまないよぅ。何かお礼させて?」
「お礼なんて、そんな大したことしてないですから」
そう言いながら俺は新しく買ったジュースの蓋を開ける。
「あっ、そうだ」
名案が閃いたとばかりに嬉しそうに呟いたかと思うと、先輩は俺のジュースをいきなり奪う。
そして、ペットボトルの飲み口にそっと口付けをした。
「⁉︎」
先輩は俺にジュースを返すけど、俺は呆然とするばかりだ。
「はいっ、これ、お礼♡」
そう言って先輩はウィンクをして去って行った。
「・・・・」
その間も、俺は呆然と立ち尽くしていた。
年上の色気みたいなの出したかったのになんだかぶりっ子っぽくなってしまった