日記3
「ん?」
気付いたら、空が見えた。
あれ?
なんで俺、仰向けに倒れてんだ?
どうやらここは、森のようだ。俺と空の間に木の枝が見える。
ふと、違和感を感じた。
近くに、誰かいるのだ。
なんとか首を動かし、その誰かの方を向く。
「あ。起きたんだ」
そこには、初めて見る女性がいた。
頭に、狐のような耳がついている。多分、獣人だ。
なんだか、着物を着ている。薙刀とか持ってそうだな。
「おはようございます?」
「なんで疑問系で言うかな。君が倒れているから、辺りを見張ってやってたんだよ」
なるほど、それでこの人はここにいた訳か。
しかし、どうして俺は倒れているんだ?
何故、起き上がれない?
「どうしたの? なんで起きないの?」
「いや、起き上がれないんだよ」
「え?」
「気付いたらこの状況だったから、何が起ったかもさっぱりで」
「え〜」
何か心当たりは、
「あ」
思い立って、ステータスをオープンする。
名前:浪人 (加重:極)
種族:メタル Lv18
金属量:99%
SP:33
スキル:【鉱纏精製】【金属吸収】【錬金術】【身体能力強化】【加重耐性Lv42】
「原因これか」
「え? わかったの?」
「うん。わかった。直ぐに動けるようになるから、待って」
俺は、錬金術を発動させ、(加重:弱)になるまで、金属を排出する。
「うわっ。いきなり何!?」
金属量:79%で漸く体が動かせるようになる。
どうやら、金属量が多くなれば多くなる程、加重耐性が必要になるらしい。
面倒だ。今度、一気に上げよう。
「ふぅ」
金属を、全てアイテムポーチに仕舞い、やっとのこと起き上がる。
「さっきの何? いきなり鉄塊が出て来たんだけど。アイテムボックスじゃないよね?」
「ん? あぁ。俺の種族スキル。金属を吸収して、その分強くなる」
「へー。いいな〜」
「吸収した金属の分、自分の体重が激増して、起きることも難しいけどね」
「やっぱり全然よくないっ!」
女性から見たらそうか。
「そう言えば、まだ名前を言ってなかったね」
そう言うと、彼女はその場に立ち上がった。
「名前は、ハイネ。種族は見ての通り、狐の獣人だよ。よろしく」
やっぱり獣人だったか。
中には、猫耳を付けた獣人紛いもいるらしいが、彼女は違うだろう。
それならばと、俺も立ち上がり、握手を求めるべく手を差し出す。
「俺は、浪人。種族はメタルだ。よろしく」
がっしり、男同士のような握手を交わした。
「で、ここは何処なんだ?」
普通に、当然の疑問を浮かべた。
「え? 【テイナリオン森】だけど」
「いや、何処だよ」
「火元国の第3エリア」
「は!?」
火元国って、何処?
確か、エリア選択のときにあったような気もしたけど」
「なぁ。俺、【アトラデル公国】から来たんだけど」
「え!? アトラデルって、ここから一番遠くの?」
地図を見たとき、両端に火元とアトラデルがあったから、間違いないだろう。
「うん。多分そこ」
「えぇぇぇぇぇえええええ!?」
入国審査、と言うか亡命申請を済ませ、火元国の中に入る。
するとそこには、見事に和風な景色が広がっていた。
「うぉおおおおおお! すっげぇえええええ!」
なんか、修学旅行で行った京都みたいな感じだ。
しかも、桜並木がある。時代劇で出てきそうな茶店がある。
最初からここにしておけばよかった。
本当にそう思う。
「ようこそ【火元国】へ!」
ハイネに連れられて、どんどん先に進んでゆく。
が、
「なぁ、俺、目立ってない?」
そう。視線を感じるのだ。
しかも、四方八方から。
「多分。服装じゃない? ほら、ここって和風の国だからそう言う格好の人って珍しいんだよ」
確かに、俺以外は着物を着ている。
「しょうがない。少し待ってて」
俺は呟き、ハイネに断ると近くの小道に入った。
誰もいないのを確認して、手に収まるくらいの鉄塊を取り出した。
【金属吸収】で体内に吸収し、透かさず【鉱纏精製】で着物を作った。
鉄は全部、極細の糸にしたので、ちょっと固い布になった程度だ。
元の装備を外して、小道から出る。
後でハイネに、服屋を紹介してもらおう。
「君って、本当に非常識だね」
「よく言われる」
どうやら、ここいらに出てくるモンスターは、鹿が多いらしい。
中ボスはツキノワグマのようだ。
後で、倒してみよう。
「でも、どうして飛ばされたんだろう? バグか?」
「GMコールはした?」
「あ」
そういえば。
「忘れてたぁぁぁあああああああああああ!!!!」
『こんにちは。ヘルプAI「ルーレ」です。何かお困りでしょうか』
一礼する妖精のようなAIルーレ。
「なんか。気付いたら、遠い国にいたんだけど、どういうこと?」
『っ!? 少々御待ちください!!』
ルーレは、慌てた様子で虚空へ消えて行った。
一体どうしたんだろう?
少しすると、ルーレが戻って来て、再び俺に一礼した。
『よくは、わかりませんが、NPC、CN「イリス」が【空間魔法:強制転移】で、貴方をこの地に送ったそうです』
「へー。空間魔法なんてあるんだ」
『ともかく、システムの不祥事でもないため、元の場所に転移させることも叶いません。深く、謝罪いたします』
「いや、いいよ。それよりも、その【空間魔法】って、俺でも使えるの?」
『残念ながら、【空間魔法】を使用可能なNPCに使用方法を聞き出さなければ、使用できません』
「まじかー。使ってみたかったなー」
『それでは』
言うと、ルーレは消えて行った。
「システムの不具合じゃなくて、NPCの仕業だった」
俺は、ハイネに状況を説明した。
「え? 何かのイベント!?」
「さぁ? 少なくともそんなメッセージはきてないぞ」
「へぇー」
イベントが発生すると、即メッセージが表示されるのだ(カルタ情報)
「この後、どうする?」
やることもないので、ハイネに聞いてみる。
「え? あぁ。あたしは、これからソロで狩りに行くけど」
「一緒に行って良いか?」
「えぇ!?」