表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほのみすら  作者: 桜林路 ぴこ
3/7

「にしししし。いっくぞー!アグリオガタちゃん!」

 豹柄の飛行服を着た金髪の少年が、両掌に左右の操縦球を握り込み、加速度に体を押し付けられながら、笑顔で愛機を発進させる。


「おい、スパルタカス」

「はい!たかしさま、なんでしょうか!?」

 命令書を載せていた、喫茶給仕兼用の角盆を両手で胸元に立て抱え、スパルタカスが声源に振り返る。

緒方おがたあぐり。あいつ、さっき帰り際に何と言った。アグリがどうこうと」

「同乗者のアグリオガタと、香椎敦彦を討つので、吉報を待たれたいと」

 すばるたかしは、口を結んで目を見開いているスパルタカスを、怪訝そうな表情で睨む。

「あいつの機体は完全単座式だぞ」

「噂では模擬人格だろうと」

「噂とは何だ。未改修機だぞ」

「あれでしょうか」

「またあれか。おさまったと思っていたが。呼び戻せ」

「もう出撃した頃かと」

「どうーして!」

「崇様の命令書を受―」

「どうにかしろ!」


「敦彦!小惑星帯内に敵機四」

「分かってるって。陽動を掛けるからには、先兵は少数か」

 重力子ホーミングレーザーは、敵機よりも質量が大である小惑星に引き寄せられる。敵が広大な戦闘正面から大多数を以って圧倒出来る状況で、寡兵を眼前に顕在させるのは、少勢力の前衛主力が迂回する間、自分を引き付けておく為なのだろうと、敦彦は判断する。

 ソーマが、敵機を結ぶ線が描く四角形の正面を避けながら、小惑星帯へ急接近する。

「直射武器も温存!力技ちからわざで攻めるぞ!」

 敵機が小惑星表面に立ち上がり、長距離武器を地面に放り投げて両手を広げる。

「面白い!掛かって来い!」

 ソーマは、敵を結んだ図形の角から中心部へと、軌道を再設定する。

「分かってるな」

 砂礫を弾いて着陸したソーマに、徒手の敵機群が一斉に殺到する。

ともえ!」

「敦彦、もう効いてる」

 反重力制禦されたソーマの関節駆動部が、組み合った彼我ひがの機体に、柔乾にゅうかんな稼働音を伝響させる。

「あなどったなあ!縮退連星機関、巴だ!」

 敦彦は、『巴』内部で、重力崩壊して軽ブラックホール化した三連星が、反重力制禦されて共通重心を公転し、莫大な関節駆動力を発生させている仕組みに思いを凝らして、好戦意識を亢進させる。

「はははははははは!」

 敵機はソーマの細指に掴まれて、次々と四肢をぎ取られ、装甲を剥ぎ取られ、操縦席を暴かれる。

「お前達!末期を観念したか?」

 敵兵が拳銃でソーマに射撃する。

「頃合いだな!」

 ソーマが敵機を殴り飛ばして、重力分布を算出しながら小惑星上空へ浮上し、多目標重力子ホーミングレーザー発射機『細馬ささめ』を敵に向けて構える。

「放てーっ!」

 細馬の先端から輝きいでた、緩やかな曲線を描く光線が、り返ってソーマ自身に浴びせ掛かる。

「バックラッシュ!?」

 ソーマの操縦席が衝撃とともに暗転し、敦彦に重量物が激突する。

「うわっ!」


「パンパカパーン、本命登場。にしししし。アグリオガタちゃん、発散式重力子、ナイスタイミング。研究中だから発散しちゃうだけなんだけどなー」

 緒方あぐりが、山猫の細い牙めく犬歯を光らせながら笑う。

「あぐりは数字見ると、鈎針に引っ掛けられたみたいな感じがいっつもするから、助かるよー。あれ、アグリオガタちゃん、どこ行ったのかなー?」

 あぐりは、操縦席内をひとしきり見回して、正面に向き直る。

「ま、いっか。いっつもの事だし。あっつひっこくーん。終わりだよっ!発散式重力子、全っ開」


「イマジナリー・フレンド」

「都市伝説話にあるだろ。子供が、いつもみんなと遊んでいる友達の事を、ある日、親や他の友達に話すと、そんな子は居ない、見た事がないと、誰もがとぼけているような返事をする現象。誰一人として、今まで見た事も名前も聞いた事もないと」

「それが、数字嫌いの心理的補償として現れた」

「あいつがアグリオガタとともに楽しく過ごしたと言い出すのは、必ず戦闘行動時だ。実際は生存する為に数字に反応して行動しているのだろうが、本人の脳がその短期記憶を紛らわす為に、イマジナリー・フレンドと同期させて、余人よりも高度に直感を働かせながら、負担も転嫁させているんだろう」

「それが強さの秘訣」

「万が一、イマジナリー・フレンドが未登場だったら、治まっていたいたはずの数字嫌いがたたって、即座に撃墜される」

「心配なされているのですね」

「くくく」

 昴崇が椅子の背にもたれかかり、嗜虐の表情を顔に浮かべて、スパルタカスに向かって微笑む。

「あいつは、いたぶるにも、敵をいたぶらせるにも打ってつけの面白い奴なんだ」


 圧潰の軋音を立てて始めたソーマの操縦席で、暗闇の中、敦彦がソーマに呼び掛ける。

「ファラデー・ケージは!?効いたのか?動け!ソーマっ!」


 ソーマを抱え込んでいた、あぐりの機体の周囲の光が歪む。

「今時、電磁パルス遮蔽装置なんて標準装備なんだろうけど、内部回路をあの高電圧相手に完全遮断しちゃうと、かえって再起動に時間掛かるよねー」

 あぐりは、アグリオガタの姿を探しながら、操縦球をまさぐり、ソーマの操縦席に自機の指を掛ける。

「回復されると厄介だから、そろそろ本人から片付けちゃおう。そーれ!カパッ!」

 扉を開かれたソーマの操縦席で、敦彦が全身に装着したパンタグラフ機構に力を込めている。

「えっ!それ、試作機のだってスパちゃんから聞いてたけど!?」

「見せてやるぞ!小学生の底力!」

 敦彦は眉根をしかめて歯を食いしばり、短時間は非電自立駆動させられる『巴』に、人力を伝達させる。

(う、ご、けー!)

 動きなずんでいたソーマの指先が、あぐりの機体を掴む。

「捕らえたぞ!」

 徐々に膂力りょりょくを増すソーマが、あぐりの機体の装甲坂を握り剥がす。

「ぬがああああああ!」

「わー!動いたー!どーしよー!アグリオガタちゃーん!あ、そうか!」

 あぐりは平静を取り戻し、操縦球をじる。

「重力安全限界逸脱!結局、このまま潰しちゃえば勝ち!」

「そうかよ!」

「そうだな」

 ソーマの操縦席に電光が灯り、細馬の先端が輝く。

「直射しろ!」

「またまた、あっつひっこくんー。密着して撃ったりしたら大変なんだなー…。あっ!」

 重力圧潰させ続ければ、重力子レーザーは強力な重力源である、あぐりの機体に集中し、敦彦はパンタグラフ機構で再度戦闘を続行させる。戦闘を中断してソーマから離脱すれば、あぐりの機体は同様に至近距離で無防備な的になる。

「えー!」

「放てーっ!」

 ソーマは敦彦の指呼と同時に操縦席扉を閉ざし、重力子ホーミングレーザーを、あぐり機へ接射する。

「ぎゃー!」

 まばゆい鋳光いこうを放って焼き溶かされる機体の中で、あぐりが叫ぶ。

「アグリオガタちゃん!そこに居たの!」


「あぐり機の交信が途絶したそうです」

「そうか」


「もっと早く目を覚ませよ!」

 再停止したソーマを襲撃した残敵を撃滅した敦彦が、操縦席で怒鳴る。

「戦時即時同期が続くより楽だったろう」

「行くぞ!帰ったら、義体に移植してやるからな」

 ソーマは敵機の残構を蹴飛ばして弾みを得て、小惑星帯を突破した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ