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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第二章 敵か味方か?
9/86

record9 恐怖

未だに現状がつかめていない敦司は、転がっている二人を眺めていた。


「痛いじゃないか、久遠……。敦司くんのことは、僕に任せるように言っただろう?」

「ごめんなさい、ユキ様ぁ。けど警戒を解くどころか、余計怪しまれちゃってるじゃないですか! というか、あんな話し方されたら、誰だって怪しみますよぉ~!」

「僕が怪しいだって……そんな馬鹿なことがあるはずないよ。ただ敦司くんの警戒を解こうとしているだけなのに……」

「だって思いっきりひかれてるじゃないですか。それに、急に名前を呼ばれたら誰だって怖いですよぉ、ねっ?」


敦司の方に首を傾けながらも彼女は話題を振ってくる。

誰が見てもわかるくらいに敵意がなく、安心できるような笑顔だ。

態勢を立て直し、立ち上がった彼女はスカートについた埃をはたきながらも敦司に自己紹介をしてくる。


「あたしは伊吹久遠イブキ クオン今日からよろしくね、敦司くん」


そう言い終わったとき、しまったとでも思ったのか久遠は自分の口を手で塞ぐ。

そして慌てて、取り繕うように続けた。


「あっ、あっ、別にね、あたし達だって初めから名前を知っていたわけじゃないんだよ。ただ和奏ちゃんと浩介くんが……特に和奏ちゃんが君のことを話していたから」


――和奏と浩介!?

和奏という名前が出てきたことにも驚いたが、浩介の名前が出てきたことにはもっと驚いた。

ここでようやく浩介が学校を休んでいた理由がわかる。

――風邪じゃなくて浩介もつかまっていたのか……。

敦司が難しい顔をしていると、いつの間にか立ち上がっていた河西が久遠に苦笑いを向けていた。


「久遠、それは僕があとで言おうと思っていたことなのに……今言ってしまうと、敦司くんが余計に動揺してしまうじゃないか」

「それがいけないんですよぉ!そのせいで余計に警戒されちゃ意味がないじゃないですか」

「その言い方だと、まるで僕が怪しい人みたいじゃないか」

「そこまでは言ってないですけど……」


――いや、怪しい人にしか見えなかったけどな……。

二人の会話を聞いていて少し緊張が解けたせいか、敦司は笑みをこぼす。

河西はあきれたような顔で、敦司に語り掛けてくる。


「ふぅ……敦司くん、見苦しいところを見せてしまって申し訳ない。この館のことや僕以外の人たちの事は、後で説明したほうがいいと思ってね。僕なりに配慮をしたつもりだったんだけど……まったく困った子だよ」


そう言いながらも、久遠の方をちらりと見る。


「だって……こないだだってユキ様に任せたせいで、真夜ちゃん、すごく怖がってたじゃないですか」

「あれは彼女が内気な性格で、僕のことを受け入れようとしてくれなかったからだよ」

「真夜ちゃんはそんな子じゃないですよ。それに、あたしだって初対面であんな接し方されたら恐くなって逃げだしますよ」

「…………」


河西が黙ったところをみると、真夜という女の子が怯えきってしまって警戒を解くどころではなくなってしまったことが想像できる。

不機嫌そうに咳払いをすると、河西は敦司の方へと向き直る。


「不快な思いをしてさせてしまったのなら謝るよ。ここからは僕が説明をするよ」

予定通りいってないせいか、やれやれという表情でため息をつく。

「まずこの館の構造の説明からしていくよ。今僕たちがいるところが一階で、そこにある螺旋階を上れば二階へ行けるようになっている。上は二階までで、下は地下一階まであるよ。ただ地下に行くには鍵が必要だから開かないままになっている。この話は後々、詳しく話すことにするよ。一階は見ての通り食堂だけ。二階には一人一人に作られた十二部屋があるだけなんだ」

「思ったよりもそんなに広くないんですね」


エントランスホールの広さからして、館はかなり広いものかと想像していただけに敦司は驚かされる。


「僕も初めは広いと思っていたんだけど、歩いてみるとそうでもないと分かったんだ。他にも話すことはあるんだけど、実際見てもらったほうが早いと思うから、ここからは部屋へと案内をするよ」

「はぁ……わかりました」


河西はにこりと笑うと、階段を上り始める。

敦司もその後を追おうと足をかけた時、久遠に呼び止められる。


「そうだ、敦司くん。一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「はい、なんでしょうか?」

「えと……敦司くんって和奏ちゃんと付き合ってるのかな?」

「……へ?」


突然、突拍子もないことを言われたものだから敦司は呆気にとられる。

――なんで今このタイミングで……この人は何を考えているんだろう?

敦司がそのまま返事をしないでいると、久遠が慌てて理由を付け足す。


「あっ、えっとね、私が考えついたことじゃなくてね、浩介くんがどーしても聞けっていうから……」

「こらこら久遠、敦司くんをからかっちゃだめだよ」

「からかってなんかいないですよぉ! ただあたしは……」

「いいから、久遠は部屋に戻るんだ。これから敦司くんにいろいろと説明をするんだから……終わったら僕が声をかけるから、そしたら食堂へみんなを集めてくれ。いいね?」

「ううう……はぁ~い」


弁解途中に河西が話題を止めたことが気に入らないのか、久遠は頬をぷーっと膨らませる。

――さすがにこの状況じゃあ久遠さんが気の毒過ぎるよな。

そう感じた敦司は、久遠にフォローをいれる。


「あの、久遠さん」

「ん? どうかした?」

「浩介のいうことはあまり信じなくていいですからね。あいつの口から出る言葉のほとんどは嘘なんで」


敦司のこの言葉で意図を読み取ったのか、久遠はニッコリとほほ笑む。


「あはは、そうなんだ……ありがとね、敦司くん」


そういうと、階段をとてとてと駆け上がっていく。

そのまま二階へと上がって行ってしまうのかと思いながら見ていると、階段を上り終えた久遠はくるっと振り返り、敦司に向かって手を振ってくる。


「この後のパーティー、楽しみにしてるからね。ユキ様に負けないようにがんばれ!!」


それだけを言うと走り去ってしまう。


「負けないようにって……あれじゃあまるで、僕が悪役みたいじゃないか。ねぇ、敦司くん?」

「えっ、あ、あはは……」


初めて会った時の印象が強すぎたためか、敦司は笑ってごまかすことしかできない。

河西は河西で「ふふふ」と愛想笑いを返してくる。


「では、館の説明の続きといこうか。部屋まで案内するよ」


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