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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第十一章 見えてくる犯人像
82/86

record80 決意

「謎を解いて救う。その心がけは非常にいいことだと僕は思うよ。それに君は非常に正義感も強いし、みんなを引き付ける才能がある。でも、それだけで本当にみんなを救えると思っているのかい?」


今はもう使われていない、一番初めの犠牲者となった風間の席まで行くと河西はそこで立ち止まり、じっと椅子を見つめていた。


「最初は僕もみんなを救うつもりだったよ。誰一人死なせない、君と同じことを思っていたんだ。でもそれは叶わなかった。あいつが過度の暴力を振ったせいで……」


暴力? 過度の暴力なんて振った人がいただろうか?

それとも俺が知らないだけでどこかで起きていた?

もし風間くんと浩介の争いのことを指しているなら納得がいくが「過度」という表現は大げさすぎる気もする。


「敦司くん、君がどんなに平和を望んだところでバランスが保たれるわけじゃないんだよ? それは分かるだろう?」

「だからどうだっていうんですか。例え何かが起きようとも、元の世界に帰れないと思っても諦める理由にはならない」

「ふふっ、そうだね。僕も最初はそう思っていたよ……でもそうは言うけど、手掛かりを探して本当に見つかるのかい? みんなを救うと言ってもどうやって守るつもりなんだい?」

「それは――」


その後の言葉が続かなかった。

確かに俺は口では守るとか救うとか綺麗ごとを言っているが、現実は相反していた。

風間くんも、柚唯さんも、芹沢くんも――それどころか真夜ちゃんまでも追い詰めてしまっている。

そんな自分に自信が持てなかった。


「元の世界に戻る手掛かり、そして僕たちの敵すらも分からないというのに、君のその決意はただの幻想に過ぎないんじゃないのかな? それとも思いも偽物なのかな?」

「そ、そんなことは絶対にない!」

「でもそれが証拠に未だに僕らは元の世界に帰れていない。一体僕たちは何を信じればいいんだい?」

「そんなの……俺には分かりませんよ」

「そうかい」


俺の答えを聞いて失望するわけでも、怒るわけでもなく河西は小さな声で呟いた。


「変な話をしてしまってすまなかったね、今のことは忘れてくれ。僕もちょっと疲れているみたいだ、部屋に戻って休ませてもらうよ」


そしていつも通りの河西に戻ると食堂の出口へと歩み始めた。

その背中が見えるか見えないかの寸前で俺は叫んだ。


「――それでも!」


何かを考えて発した言葉でも、思いついたわけでもない。

ただこの機会を逃してしまったら本当に何もできないまま終わってしまうと感じたからだった。


「それでも俺は、間違ってないと思います! みんなを守りたいと思う、救いたいと思うその心は間違っていない。結果がどうなったとしても、そこに行きつくまでの過程は正しくありたい。河西さんが諦めたとしても、俺はこの思いを信じたい! 絶対に、何があってもみんなと元の世界に帰るんです!」

「……それが君の答えかい。でも、現実はそんなに甘くはないよ。みんながみんな君みたいに考えているわけじゃない。外面は良くても、内心は何を考えているかなんて僕らには分からない。この状況下だよ、急に心変わりをして殺しにかかってきてもおかしくない。それでも守ると言い張れるのかい?」

「っ!」


確かに俺だって今の状況では正気ではいられない。

だからふとしたことでイラつくし、真夜ちゃんにもあんなに酷いことを言ってしまった。

それに一人でいると不安で仕方がなくなる。

それがいつ狂気に変わってもおかしくない。

でも、みんなを疑って生きていくなんてそんなの寂しすぎる!

だから俺が選ぶ道は決まってる。


「守ります! こんな俺に何ができるかは分からないけど俺の身体が動く限り、残りのみんなを守ってみせます!」

「ふふっ、そうかい。君はやっぱり正義感が強いみたいだね。君みたいな人にもっと早く会えていたら、少しは未来が変わっていたかもしれないね」

「河西さん……!」


出口へと歩き始めた河西の背中に叫んだが、今度は止まることなく食堂から姿を消した。

それから俺は糸が切れたように椅子に崩れ落ちた。

結局何一つできないまま、河西の言う通りみんなが死ぬのを待つのか?

いや、でも終わるなんて誰が決めたんだ。

そんな自問自答を頭の中でずっと繰り返し続け、悩み続けた。

みんなを守るといっても俺は一体何をすればいいんだ……。


「――あっくん!」

「わっ!?」


突然耳元で大きな声が聞こえてきて俺は椅子から転げ落ちそうになりながらもなんとか耐えた。

それから一呼吸おいて振り向くとそこには和奏が心配そうな表情をこちらに向けていた。


「こんなところでどうしたの? 食堂で何も食べずにぼーっとしてるなんて」

「いや、ちょっと考え事に没頭しすぎてな。和奏こそ何しにここに来たんだ?」

「何しに来たって、ここは食堂だよ? 朝ご飯を食べに来たんだけど……」

「あぁ、そうか。そうだよな、あはは」


時計に目をやると、もう七時を回ろうとしていた。

河西が食堂を出て行ってからもう一時間くらいが経ってるのか。


「それより和奏は一人なのか? 他の人たちは?」

「えっと、さっき久遠さんのことを誘ってみようと思って部屋をノックしたんだけど誰も出てこなくて」

「そうなのか、まだ寝てるだけじゃないのか?」

「うーん、そうなのかな? 昨日も朝と夜に久遠さんの部屋を訪ねてみたんだけど出てこなかったから……」

「そうか、それは心配だな」


柚唯さんが死んでからというもの、確かに久遠さんの元気がなくなってきている気がした。

それが悪化して、何か変な行動につながっていないといいけど……。


「そうだ、じゃあ真夜ちゃんはどうしたんだ? 和奏のことだから誘ったんじゃないのか?」

「えっ、それは、その……」


話をしている最中にもかかわらず、和奏は俺から少しずつ視線を逸らし始めた。

なんというか、昔から嘘をつくことが下手なところは変わってないな。


「ここまで来るときは居たけど、俺を見て部屋に戻ったのか?」

「えっ、そ、そんなことないよ! 具合が悪くなったのかな、だから部屋に戻るって――」

「じゃあ今からお見舞いに行くか」

「っ!? そ、それは絶対にだめ!」


席を立って真夜の部屋に行こうとする俺の手首を和奏はとっさに掴んでくる。


「――で、俺を見て居なくなったんだよな?」

「そ、それは……」


ここまできても言わないつもりなのか言葉を濁し続けた。

だが俺がじっと見つめ続けていると諦めたのか和奏は口を開いた。


「そうだけど、でもあっくんのことが嫌だから居なくなったんじゃないと思うよ。きっと他に何か理由があって、真夜ちゃんが嫌うはずなんてないから――」

「分かってるよ、俺が悪いことくらい。だから謝りに行くつもりだ」

「えっ、え?」


俺がそんなことを言うと思っていなかったのか和奏は明らかに動揺をしていた。

まあ和奏も和奏なりに、俺と真夜を仲直りさせるために気を遣ってくれていたのだろう。


「俺から謝りに行くよ」

「急にどうしたの? もしかして私が変なことを言っちゃったから?」

「違う、和奏は関係ないさ。今はこんな状況なんだから仲が悪かったら困ると思っただけだ。それに事の発端は俺だしな」


元はと言えば、何でもいいから言ってくれと真夜に無理を言ったことから始まったことだ。

それまでは普通に話していたのだから俺が悪いのは冷戦に考えれば分かる。


「まあ善は急げだ。今から謝りに行ってくるよ」

「えっ!?」


今度はふりでもなく、本当に真夜の部屋に行こうと歩き始めたのだが和奏が俺の前に立ちはだかった。


「ちょ、ちょっと待ってよ、あっくん!」

「なんだよ、もしかしてそんなに真夜ちゃんは怒ってるのか?」

「ち、違うよ。そういうことじゃなくて、あっくんはいつも急すぎるの! 真夜ちゃんにだって準備ってものがあるんだから」

「準備って一体、何の準備をするんだ?」


考えて思いつくなら……女の子の特有のあれなのか?


「とにかく、私から話をしてみるからあっくんはそれから話をしてみてよ。それとも今すぐじゃなきゃだめなの?」


和奏に聞かれて俺は首を横に振った。

確かにそんなに急いでも真夜ちゃんは驚くだろうし、どうせ謝るならしっかりと謝りたい。

だからここは和奏に任せておくのが一番だろう。


「分かったよ。じゃあ和奏に任せる。頼んだよ」

「うん、任せてよ、あっくん!」


俺の返事に力強く返事をすると和奏はにっこりと微笑んだ。

山だ! 海だ! 夏休みだ!!……夏休み?

ということで、クーラーがきいている部屋でだらだらしている作者です。

夏ということで家の中でも耳をすませば、花火の音が聞こえてきて夏だな~と更に実感させられます。

でもやっぱり私は家が一番いいですねー

皆さんは今年の夏をどうお過ごしでしょうか?


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