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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第十一章 見えてくる犯人像
81/86

record79 仲違い

全てが演技だって?


「いや、だから本当に推測で……こうなると思ったから言いたくなかったんです」

「あぁ、ごめん。あまりにも衝撃的過ぎてちょっとびっくりしただけさ。でも真夜ちゃんの考えだと死んでしまった今までの人たちが生き返るってことだよね?」

「生き返るんじゃなくて演技だから、もしかしたらどこかで生きてるんじゃないかって」

「それはさすがに見当違いもいいところだろ。今まで起きた全てが演技だなんて、そんなことあり得ない」


俺の目の前で死んでいった柚唯と笹川の情景が思い浮かんだ。

あれは演技なんて言葉では片付けられない。

どう見ても現実で起こった、本物の悲劇だ。

それを演技だと言う真夜の気持ちは理解できなかった。


「でも笹川さんは演技だって、一番初めに言ってたから……だからもしかしたらって思って」

「もしかしたらもなにも、真夜ちゃんだって柚唯さんの死を目の前で見ていただろう? あれが演技だって言うのか?」

「そ、それは……思ってない、です」

「じゃあどこまでが演技でどこからが演技じゃなかったんだ?」

「そんな、そこまで細かくは分かんないです。ただ、もしそうだったらいいなって思っただけで――」


だんだんと真夜の声は小さくなっていき、最後の方はごにょごにょと口ごもるだけで良く聞きとれなかった。

そんな彼女に俺はイラッとした。

もしこうなったらいいなんてそんなこと考えるだけ無駄だし、何より今まで死んでしまった人たちのことを演技だなんて片付けようとする彼女自身にイラつきを覚えた。


「あのな、もしなんて話はしたって無駄なんだよ。そんなことを考えても何の得にもならないだろ」

「そんなの……分かってます」

「だったらなんでそんなくだらないことを考えてるんだよ。もしかしてさっき言っていた気になったことって言うのも、そんなくだらないことを考えていたからなのか?」

「それはちがっ――」

「柚唯さんが死んだときだって平気な顔してたしな。仲間が死んでも、周りの奴らが死んでも何も思わないのかよ!」

「そんなことあるわけないじゃないですか! 私だって辛いですよ。こんな私を気遣ってくれた高宮さんが、あんなことになってしまうなんて」

「そんなのどうせ出まかせだろ! あの時倒れているのを目の当たりにしても表情一つ変えなかったしな、本当はみんなを殺したのもお前の仕業じゃないのか!」

「ちょっとあっくん、それは言い過ぎだよ!」


今まで黙って会話を聞いていた和奏が俺と真夜の間に割って入ってきた。

そして真夜の方へと駆け寄ると「大丈夫?」と優しく問いかけた。


「真夜ちゃんにだっていろいろ悩み事があるんだから……もうちょっと優しくしてあげてよ」

「でも、今まで死んだ人たちが全て演技だなんて……そんなこと有り得るわけないだろ!」

「そうかもしれないけど、真夜ちゃんだってきっと辛いんだよ。あっくんだって分かるでしょ?」

「辛い? そんなことあるわけ――!」


ないだろ、と続けて口にしようとして寸前で止めた。

正確には止めたというよりは、反射的にそうなったのだ。

小刻みに震える肩とぎゅっと手を握っている彼女が目に入って――


「あっくん、ちょっとだけでいいから二人してもらってもいいかな? だめ?」

「別に……お前らの好きにすればいいだろ」


そう言って俺は部屋を後にした。

でも本当は心のどこかでは分かっていた。

みんなが思い悩んでいることくらい――





あれから何日経ったのだろうか。ずっと館内に居るせいで時間の感覚も、日にちの感覚すらも段々と薄れてきた。

結局あの後和奏に言われて自分の部屋に戻ってきたわけだが、二人のことが気になってそわそわしているばかりだった。

そうこうしているうちに十分ほど経ち、和奏が俺の部屋を訪ねてきたがその時真夜の姿はそこにはなかった。

和奏の話によると、真夜は部屋を出た後に一人で部屋に戻ってしまったらしい。

その日から真夜と顔を合わせることは何度かあったが、会話をすることはなかった。

勿論こちらから何度か謝ろうと思い、話しかけようと努力はしたがなかなかいい機会がなかった。

それとは逆にいい出来事としては誰一人として死人が出ていないこと。

あの日笹川が食堂で自殺を図ったのをさかいに犯人の動きとみられるものは一切なかった。

河西さんが言うにはやはり犯人は笹川で間違えなかったんだと結論付けていた。

でも正直、本当に犯人が死んだと思っている人はいないと心のどこかで思っていた。

ただ笹川を犯人だと心の中で思い、無理やり話を終結へと向けることで偽りの安心感を得たいだけだと――。


そのことを示すかのようにひとつだけ不可解な出来事が起きていた。

それはエントランスホールにある地下へと続く扉が開かないことだった。

数日前にあの扉を開けようと河西さんが試したのだが、いつの間にか開かなくなっていたのだ。

試しに俺も開けようとしてはみたが、どうも鍵がかかっているというよりは反対側から何かの力が加わっているせいで開かない感じだった。

脇にあるパネルも電気が落ちているせいか使えない様子だったし……それからというもの、他に帰る方法がないのか考えるばかりで日にちが過ぎるだけだった。


そんなこんなで今日も新しい朝を迎えていた。

俺はいつもと同じ時間に起きると、支度をして食事をするために食堂へ向かう。

正直なところ、現時点で自分を入れて館には五人しかいないのだからわざわざ食堂へ向かう必要もないのだが、今までの習慣のせいか身体が勝手に反応してしまう。

部屋を出るといつも通り薄暗い廊下が階段へと続いていた。

その廊下が今ではより一層気味悪く俺の目には映っていた。

だから最近は足早に食堂へ向かうようにしていた。

食堂まで行けば一人ではなくなるから――


「敦司くん、おはよう。今日も早いんだね」

「河西さんこそ、毎朝早いじゃないですか」

「僕は元の世界に帰るために調査をするからね。当然だよ」


いつもと同じ席に座りながらも河西は朝から変わったものを口にしていた。

あれは肉まん?のような、もちのような、見た目だけでは判断がしがたいものだった。

そこで気になったので質問してみることにした。


「あの、河西さんが食べてるものってなんですか? いつも食べていますが……」

「ん? これかい? これはかなり前に発売されたものだよ。外はもちもちしているんだけど、中はパリッとしているんだ」

「外側がもちっとしていて中がパリッと、ですか……変わっていますね」

「僕もそう思うよ。それにあまり美味しくもないしね。これが好きになる人の気持ちが良く分からないよ」


そう言うと河西は残りの一口を口に放り込み、席を立ちあがった。

そのまま食器を元あった場所へと戻すと、今度は河西から質問をしてくる。


「そういえば敦司くんは真夜ちゃんたちとは一緒に行動はしないのかい? 最近は一人でいることが多いようだけど、何かあったのかい?」

「え、いや、まあ最近はなかなか時間が合わないっていうか、あの二人が元の世界に帰れるような手掛かりを見つけたみたいで一時的に一緒に居ないってだけで……」


もちろん真夜達が手掛かりを見つけたなんて嘘だ。

ただ、そうでも言わないと河西に本当の理由がバレてしまうと思ったからだ。

上手くごまかせているかは分からなかったが、今は穏便に済ませるのが一番だ。


「それより河西さんこそ何か手掛かりは見つかったんですか? 俺の方は未だに何も見つからなくって」

「僕かい? 僕はずっと調査を続けているけど元の世界に帰れるような大きな手掛かりは見つかっていないかな」

「そうですか……本当に俺たちをこの館から帰してくれる気が、俺たちを捕まえたやつらにあるんでしょうか?」


謎を解き明かすことが出来たら元の世界に返すと、初め部屋に入った時に置いてあった紙にはそう書かれていた。

でもそれが本当に守られるとは限らない。

なんせ俺たちをここへ閉じ込め、人が死んでも何も行動を起こさずじっと監視し続けるだけの奴らだ。

そんな奴らがご丁寧に約束を守るとは考えにくかった。


「敦司くんはそう思うんだね? 僕たちを捕まえたやつらが、元の世界に帰す気などないと……?」

「だって俺たちがこれだけ探しているのに手掛かり一つ見つからないなんておかしいじゃないですか。だからあいつらは、俺たち全員が死ぬのを待っているんじゃないかって」

「じゃあ敦司くんはどうするつもりなんだい? このままみんなが死ぬのを待ち続けるのかい?」

「そんなことあるわけないじゃないですか! これ以上もう誰も死なせませんよ。だからきっと謎を――」

「解いてみんなを救う、って言いたいのかい?」

「え?」


ここでようやくある違和感に気付く。

それは河西の声のトーンがいつもより低かったこと。

そして話している相手を見るのではなく何処かもっと先を見通しているような、この視線。

前に一度だけ、俺が館に来たばかりの時に地下への秘密を探ってしまったときの河西に似ていた。

うーん……熱いとなにもやる気が起きませんね。

ということで次回も宜しくお願い致します。


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