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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第十一章 見えてくる犯人像
79/86

record77 望まれたフィナーレ

「河西さん、確か先ほど相原さんや青木さん、それに芹沢さんがどうなっているか気になるとおっしゃっていましたよね?」

「ん? あぁ、そうだね。今となっては敦司くんや真夜ちゃんの話を聞いたから納得はしたけど、聞く前はどうなっていたか知らなかったからね。なんせ僕は現場を見たわけじゃないから」

「そうですよね、やっぱり普通は気になりますよね。私だって佐久間さんからお話を伺っていなかったら気になっていたと思いますから」

「それがどうしたっていうんだよ! そんなこと今は関係ないだろ!」

「そうですね、もしあなたが芹沢さんを殺した犯人ではなかったらの話ですけど」

「っ!!」


真夜の鋭い視線に一瞬だが笹川が怯んだ様子を見せる。

その瞬間を彼女は見逃さなかった。


「あなたは初めから何もかも知っているような感じでした。一番最初、柚唯さんの遺体を見た時から――」


『その必要はないよ! だってこれは全てが演技で、全てが嘘なんだから!!』


「あの時の言葉は明らかに何かを知っているような口ぶりでした。そしてあなたは薄々気付いていたんじゃないんですか? 私があなたのことを怪しんでいることを……そして私をわざと遠ざけるために会議の途中でいなくなるように仕向けた、違いますか?」

「ふふ、はは……それで、君は何が言いたいんだ?」

「私が思うに、笹川さんは誰よりもその出来事に関して深く知っていて、現場を目の当たりにした人のように思えます。芹沢さんの件も、柚唯さんの件についても、あなたは深く関わっている」

「それがなんだっていうんだ! それがどんな証拠になるっていうんだよ! そんなの証拠なんて僕が絶対に――」

「いいえ、ありますよ。笹川さん、あなたが初めからずっと私たちに要求していた正真正銘の証拠が……」

「っ!? そんなものあるわけ――お、お前は!」


真夜がすっと目を閉じると同時に笹川は何かから逃げるように椅子から転げ落ちた。

そして、先ほどまで笹川が居た入り口付近に姿を現したのが――


「わ、わかな!?」


余りの驚きに俺は席を立ち上がっていた。

突然現れたせいで一瞬何かの見間違えかと思えるほどだったが、この距離からでも分かる。

あの面影はどう見ても俺の幼馴染、古宮和奏だ。

久遠や河西も同じように思ったのか、驚きに目を見開いていた。


「久遠さん、河西さん、驚かせてしまってすみません。それに真夜ちゃん、私の看病をしてくれてありがとう」


笹川のことなどまるで気にも留めていないのか、和奏はみんなに軽く頭を下げると最後は俺の方へと視線を向けてきた。


「あっくんもありがとう。私のこと、地下室から連れ出してくれたんだよね?」

「あ、あぁ……そうだけど、もう身体は平気なのか?」

「うん、真夜ちゃんが看病してくれたから平気だよ」


そう言ってにっこりと笑う和奏の顔色はあまり良さそうではなかったが、気絶しているときと比べれば体調は良くなってきているみたいだった。

まあ、和奏本人が元気になったことは俺としてもうれしいことだった。

今まで心配をしてきたがいつもの和奏に戻っているみたいだし、それに笹川が犯人だとようやく証明できるのだから――


「何が、平気なんだよ……お前は、死んだんじゃなかったのか……お前は、俺が殺したはずだろ……なんで、なんで生きてるんだよ!」

「私が死んだ? 何を言っているんですか、笹川さん? あなたが私を部屋で襲って、そして地下へと運び込んだんじゃないんですか……私は逆に殺されそうになったんです」

「違う! お前は殺されそうになったんじゃない! 殺されたんだ! あの芹沢とかいう男と一緒にな!」


和奏のことを見ながらも笹川はじりじりと後ろへと下がっていた。

この会話を聞く限りついに笹川は自分が犯人だとようやく認め、白を切ることをやめたみたいだが……なんか様子がおかしいように思える。

どう考えても和奏が死んだなんて嘘もいいとこだ。

何か経緯があったのかとも思ったが、真夜の表情を伺う限りでは彼女も少し困惑気味だった。


「何を言っているんですか? 私は死んでなんかいない。それにもし私が死んだというなら、あなたはなぜ私を殺そうとしたんですか? 理由が聞きたいです」

「お、俺は初めから君たちを殺そうとなんてしていなかったんだ。いや、殺してなんていないんだ。それは――本当なんだ」


和奏の疑問ももっともだった。

さっきまでは佳奈が殺したということになっていたからそこに動悸があった。

ただこれが、笹川の犯行となればすべてがまた白紙に戻る。

一体笹川にはどんな動機があったのだろうか?

そんな疑問が頭の中を過った時だった、笹川がある行動に出たのは――ずるずると尻もちをつきながらも後ろへと下がっていた彼は、突然立ち上がりみんなに聞こえるように声を張り上げた。


「みんな信用なんてしてないよな……まあそれもそうだよな。あんな狂気じみた演技をしたんだからな。そう、すべては演技なんだよ! だから俺は誰も殺してなんかいないんだ! だけど俺は犯人扱い……はは、それも最高のフィナーレさ! どうせみんな、ここで死ぬ運命なんだからね」


そう言って笹川は手に持っていたものを口元まで持って行き、ぐっと飲み干した。

それを見ていてある事に気付いた俺は食卓へと目を向けたがなかった。

さっきまであった、柚唯の部屋から持ってきた睡眠薬が――


「っ、はぁ……これはきっと、僕の最高傑作に相応しいものになった。どうだ、そう思わないか?  ぐ、かはっ……ようやく、僕の夢が、叶ったって、ね」


それが笹川の最後の言葉だった。

彼は突然糸が切れたみたいにその場に崩れ落ちるように床に倒れこんだのだ。

それからすぐに河西が具合を診たが虚しく首を横に振るだけだった。

その後は供養のつもりで笹川の死体は彼自身の部屋へと運ばれた。

笹川の死因は薬の過剰摂取。犯人だとバレて追い詰められた末、自分で自殺を図ったということになった。

ここまでのみんなの考えはまとまっていて意見の対立などはなかった。

ただその後の話し合いでは別だった。

それは笹川の死体を片付けた後、久遠のほっとしたことから出た一言から始まった。


『これでようやく、全ての事件の謎が解けたんだよね』


この一言から河西は全ての事件の犯人は笹川が犯人だと決め、終結させようとした。

そこで意見が割れたのだ。

反対したのはその場にいた真夜と和奏だ。

二人は揃って『笹川の身体には傷がなかった。だから風間を殺した犯人は別にいる』と主張をした。

風間を殺した犯人には必ず傷が残っている。

その部分が一致しないことで真夜も和奏も最後まで同意はしなかった。

それに対し河西と久遠は元々傷など負わせていなかったのではと切り返したのだ。

そのせいで一向に話は終わらず、結局一時解散という形になってしまった。

最近電車の遅延が多くて困っています。

前から多いですが特にここ最近は多いような……一番驚いたのがホームに転落防止のドアが設置してあるのにも関わらずに線路に落ちたというアナウンスが流れたことです。

一体どうやって落ちるのやら……


次回の更新予定は前回と同じく、一週間~二週間前後とさせていただきます。


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