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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第十一章 見えてくる犯人像
78/86

record76 犯人は誰?

結局食堂へと集まったのは、河西が俺に声をかけてくれてから三十分ほどが経過してからのことだった。

部屋へ戻って調べごとをしていたせいで一番遅く集まることになったのは自分だった。

食堂に入った時には既に議論が進んでいて焦りを感じたが、河西が言うにはあまり大した話ではないらしい。


「敦司くんは知っているから先に話を進めていたけれど、一応話していた内容は伝えておくよ。内容は身体の傷についてだよ。君も確認をした通り、僕たちには傷はなかったという話を久遠と真夜ちゃんしていたんだ」

「なるほど、その話をしていたんですか。確かに、河西さんと笹川さんから傷は見当たらなかったですね」


結局真夜が戻ってくる前に笹川の提案通り自分たちは傷の確認をしたのだ。

結果、河西と笹川の身体からは目立った傷は見当たらなかった。


「そうですか……私の方も同じです。和奏さん、久遠さんからも傷は見当たらなかったです」

「ふむ、そうなるとここにいる僕を含めた六人は樹くんを殺した犯人ではないと確定できたね。そう考えると犯人と思われるのは――」


未だに部屋の鍵を閉めたままで出てこようとしない浩介と部屋から逃げ出した以来、姿を見せない佳奈のどちらかの二人だ。

そのどちらかが犯人と分かれば後は大方予想がつく。

それは――


「佳奈ちゃんじゃないですかね、河西さん。証拠はないですが、理由ならありますよ」

「彼女が犯人、か……その理由というのはなんなのかな?」

「それはもちろん、亮太くんを殺した犯人だからですよ! だって彼女は邪魔をされたという理由で彼を殺したんですよ? 邪魔をされたのは敦司くんが樹くんを殺したという犯人に仕立て上げるとき、だからですよ!」

「またそんなこと言って別の人が犯人だって言いたいだけでしょ! あたしは騙されないんだから!」


笹川が話し終わった途端に声を荒げて否定的な意見を飛ばすものが居た。

それは向かい側に座っていた久遠だった。

今までの明るそうな表情は消え、怒りに満ちた表情だった。


「またあなたですか……僕はただ純粋に犯人を捜しているだけですってば」


それに対してあきれ気味にやれやれと首を振る笹川。

既に何度か推理を久遠に邪魔をされているのか慣れっこという感じだ。


「嘘だよ! だって君は人殺しなんだから! 柚唯を殺したのは君なんだから! あの子がいい子だからって変な話を吹き込んだんだ……君が最後に喋っていたところをあたしは見たんだよ!」

「はぁ、だから僕は殺していませんって……それに話をしただけじゃないですか」

「話すだけならいいけど、君は何か柚唯に渡してた。それできっと柚唯を殺したんだ!」

「あのですね、渡しただけで殺すなんてそんな魔法みたいなことできませんって……それに僕だけじゃないと思いますよ、彼女に何かをあげた人は……そんなことより、話を進めますからね」

「っ! あたしはまだ――」


話を無理に進めようとする笹川へくってかかろうとする久遠。

その腕を引いたのが隣に座っていた真夜だった。


「久遠さん、気持ちは分かります。だけど今は大人しく笹川さんの話を聞きましょう。私もあの方には山ほど言いたいことがありますから」


静かに、けれど力強い真夜の言葉が久遠に届いたのかそっと席へとついた。

その一面を静かに見守りながらも敦司はある確信めいたものを持ち始めていた。

それは久遠が言っていた、笹川が何かを柚唯へと渡していると言った証言からだ。

もしそれが事実なら、今俺が考えている推理は正しいということになるかもしれないからだ。


「はぁ、本当に困ったものですね。では、僕の推理を始めますね。なぜ佳奈ちゃんが樹くん、そして亮太くんを殺した犯人なのか、それは彼女がずっと前から準備をしていたからですよ」

「準備だって? それはどういうことだい? 第一、なぜ彼女が亮太くんを殺した犯人だと樹くんを殺した犯人になってしまうんだい?」


疑問に思ったのか河西が笹川へと質問をしていた。

正直俺としてもそれは気になっていた部分ではあった。

風間と笹川、二人の共通点は何もない。

それに先に殺されたのは風間のほうだ。

そうなると尚更関係ないようにも思えるが――


「ありますよ! 大ありですよ! だって彼女は敦司くんが樹くんを殺したと証明するための写真を持っていた。でもあれは偽物だった。と、いうことはですよ? 前から準備をしていたということになるんです。彼女は前から樹くんを殺そうと計画を立てていた証拠になるんです」

「なるほど、だから佳奈ちゃんが犯人だと言いたいんだね」

「そうです! そして彼女は準備を万端にしたうえで樹くんを殺したんです。けれど結局は自分が犯人だとバレてしまった……本当は敦司くんへと濡れ衣を着せるはずがね」


そうか、だから失敗だと思った青木さんは、今度は恨みを込めて芹沢くんを殺したんだ。

確かにそう考えれば風間くんと芹沢くんを殺したのは青木さんでもおかしくはないな。


「そして亮太くんを殺そうとしたとき、柚唯さんにその現場を何らかの形で見られてしまったんでしょうね。それはあの現場に置いてあったポーチバッグが物語っている。きっと彼女はあの場を見てしまい、その後に佳奈ちゃんに殺されてしまったんだね……可哀そうに」

「ちょっと待ってよ! 亮太くんは地下で殺されていたんだよね? そう考えたら柚唯が急に地下に行くのはどう考えてもおかしいよ!」

「でも、考えてみてください。彼女のバッグは地下にあったんですよ? だったら彼女が地下に行ったと考えてもおかしくはないんじゃないですか? それにですよ、佳奈ちゃんは既に二人も殺しているんですから、三人全員を殺していてもおかしくない。違いますか?」

「っ! それはそうだけど! でも柚唯は!!」


筋が通っている笹川の意見に対し、久遠は言い返せないのか悔しそうに顔を歪めた。

それに証拠がなければ笹川の意見は崩せない。

崩すためにはそれなりの覚悟と裏付けが必要だ。

そのために俺は用意をしてきたんだ

この会議が始まる前に!


「笹川さん……あなたの言う通り、風間くんと芹沢くんを殺した犯人は青木さんかもしれません。だけど柚唯さんを殺した犯人は別ですよ」

「ん? ここで今まで黙っていた敦司くんの登場かい? でも悪いけどさ、前にも言ったけどしょう――」

「証拠ならありますよ。それに裏付けもある。笹川さん、あなたは会議が始まる前に柚唯さんの部屋を調べると言ってあるものを隠しましたよね? 自分が柚唯さんへと渡したある物を」

「なんのことを言っているのかさっぱりだね。第一、隠したものって何かな? 何を言っているか僕にはさっぱりだよ」

「まだ白を切るつもりですか……柚唯さんの部屋から見つかったんですよ、それも机の後ろからね」

「それがなんだっていうんだ? 見つかったからって僕と関係あるとは――」

「ありますよ、関係。だって見つかったもの、それは柚唯さんのバッグの中から見つかったものと別の睡眠薬ですから」

「っ!」


俺がポケットから出したものを見て、初めて笹川の表情が崩れる。

そう、それはさっき柚唯の部屋で見つけた小瓶だった。


「まさかこんなものが机の裏に隠してあるなんて思いもしなかったですよ。本当に偶然見つけただけなんですけど、これって笹川さんが柚唯さんに渡したものですよね?」

「し、知らないなそんなもの。最初から彼女が自分に使うために持っていただけじゃないのか」

「それは違いますよ。だって柚唯さんが使っていたものなら彼女自身が隠す理由なんてどこにもありませんから。それに見てもらえれば分かりますけどラベルも剝がされている。自分で使うはずのものならなんで剝がしたりしたんでしょうか?」

「それは、きっと誰かに知られたくなくて彼女自身が剥がしたのかもしれないだろ」

「それはあまりにも不自然ですよね。二つも睡眠薬を持っている必要なんてありませんし。それと、この小瓶の中身について調べたら分かったことがあったんですが――」


そう言って俺はポケットにしまっておいた二枚の紙を取り出した。

一枚目はこの小瓶にラベルが貼ってある、これと同じものだと思われる瓶の写真。

そして二枚目は睡眠薬の名前と効果性について書かれている紙だ。


「これを調べていたせいで遅くなったんですが、その時部屋にあるモニターでいろいろと資料を出して調べていたんですよ。この瓶についている、剥がし切れていないラベルに書かれている文字を手掛かりにね。残っていた文字を照らし合わせて該当する薬品、それは「マイスリー」という睡眠薬。これをあなたが柚唯さんに渡したんじゃないですか?」

「…………」

「この睡眠薬は柚唯さんのバッグに入っていた睡眠薬より即効性がある分、持続時間が短い。効果時間は二時間から四時間ほどで、安全性も高いんです。笹川さん、こんなものじゃ睡眠時間も十分に取れない。要は柚唯さんが使うには用途が限られてくるような気がするんですよね。先ほど久遠さんが言っていた彼女に渡していたもの、この睡眠薬こそがそれなんじゃないですか?」

「そ、そんなわけないだろ。第一、もし僕なら隠さずに自分で持っておくよ! それが一番安全だからね」

「それは分かりませんよ。一時的に隠しておいて後で回収をするつもり、という可能性もありますからね」


会議が始まる前、確か真夜は柚唯の血を拭き取っていたせいで部屋を調べていないはずだ。

そこで率先して部屋を調査すると言い出したのが笹川だ。

そこから考えるに睡眠薬を隠そうと思えば彼ならいつでもできたはずだ。


「ふん、でもそんなの君の憶測にすぎない。疑わしきは罰せずだ! 僕は君の言葉を全否定する!」

「笹川……!」


あんたは一体どこまで卑怯な人間なんだ!

これ以上どうやって追い詰めろって――


「ではここで私からも一つだけ、実は笹川さんが犯人だと思える理由が私にもあるんです。それは貴方の今までの言動についてです」


怒りが身体中に浸透し、今にも殴りかかろうと思った俺を止めたのは真夜の言葉だった。

そして同時に俺は信じた――きっと真夜ちゃんなら彼が犯人だと証明してくれると。


最近エアコンというのが略されていると知りました……本当はエアーコンディショナーというんですね。

普段使ってる言葉でも知らないことが多いです。

他にもきっと知らないことなどたくさんあるんだろうな、と感じた作者でした!

次回の更新予定は一週間~二週間前後です。

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