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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第十章 君と僕の最高傑作
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record74 最高傑作の準備

彼女の姿が完全に見えなくなると笹川は不敵な笑みを浮かべた。


「さすが、よく彼女を飼いならしているね、敦司くん。どうやら君はみなに好かれ、この館全員をまとめる才能があったのかもしれないね」

「何が言いたいんだよ、お前は」

「その言葉のまんまさ。君が初めからこの館を治めるリーダー的存在だったら無事に全員をこの館から出すことが出来たんじゃないかってことさ。まあ、今となってはもう遅いけどね」


全員でこの館から脱出をする。

初めはそんなことすら考えもしなかった。

それが今となってはみんながバラバラになり、死亡者まで出てきてしまっている。

一体俺たちは、どこで道を踏み外したのだろうか……


「過去の話をしても仕方がないよ。確かに僕がこの館のリーダーになったことが今の現状を生み出してしまった原因なのかもしれない……でも、たとえそうだとしても悔やんだりはしないよ。僕は、僕を信じて、ここまでの行動をとってきたんだからね」

「今までの自分を信じる、ですか……まあいいでしょう。別に今更責めようとは思ってはいませんよ。とりあえず、亮太くんの件についてまずは話し合いましょうか」


笹川のその言葉を初め、思い出したくもない地下での出来事を敦司は二人に話した。

そして思い出した限りの全ての記憶を二人に話し終わると、河西が頷き始めた。


「なるほどね、これでようやく和奏ちゃんが気絶していた理由が分かったよ……敦司くんの話が本当なら彼女も被害者みたいなものなんだね」


可哀そうに、と小声で呟く河西の姿を見て初めてそこで気付く。

まだ二人には和奏が気絶していた理由も話していなかったのだ。

正直、こんな状況のせいで誰に話して誰に話していないのかさっぱり忘れていた。


「うーん、でもなんでその現場に柚唯ちゃんのバッグが落ちてたんだろうか……もしかして柚唯ちゃんが犯人だったとか?」


そんな突拍子もないことを笹川は口にした。 


「実は初めから和奏ちゃんは殺すつもりはなくて亮太くんだけを殺すつもりだった……そしてバッグをたまたま現場に置き忘れたとか?」

「いや、それは恐らくないよ。彼女は人を殺すような子には見えないし、それにバッグを置き忘れていくなんてへまはしないだろう。おそらく犯人が僕たちの推理をかく乱するために置いていったものだと思うよ」

「それこそ違うと思いますよ。よーく考えてみてくださいよ。敦司くんは起きたら地下に居たと言ったんですよ? そう考えると彼は寝ている間に地下へと運ばれた。その間起こさずに、それも静かに運ぶなんてそんなことは不可能ですよ。だからきっと、犯人は睡眠薬を使ったんです」

「睡眠薬だって? 敦司くんにかい? でも一体どうやって彼に飲ませたっていうんだ。まさか無理やり飲ませたわけでもないだろう?」


答えを求めるように河西はこちらに視線を向けた。

勿論これから言う言葉は決まっている。

迷う必要なんて自分にはなかった。


「俺は飲まされた記憶なんてありません。ましてや無理やり飲まされたらさすがに気付きますよ。笹川さんは現場にあった柚唯さんのバッグに入っていた睡眠薬のことを指しているんでしょうけど、それはあり得ませんよ」

「そう、じゃあ逆に聞くけどさ、君は人に運ばれていても静かに眠っていられるのかい?」

「え、いや……あの日はたまたま疲れていただけで、ぐっすりと眠ってしまっていただけで」

「それに敦司くん、君の話によると寝る直前に柚唯ちゃんと会っていたはずだよね? もしかしてその時に何かもらったりはしなかったかな? 例えば……お菓子とか?」

「っ!」


瞳をのぞき込むような笹川の視線に敦司は息をのんだ。

彼は一体どこまで知っているのだろうか?

それともただ推理をしているだけ……どちらにせよ頭がキレるのは確かだ。

でも、絶対に柚唯さんは犯人じゃないんだ!

どれだけみんなが犯人だと疑おうが、あんなに優しい彼女が犯人な訳がない。

きっとどこかに無実を証明するようなものがあるはずだ!


「敦司くん、その表情を見る限りは図星って感じだね。恐らく柚唯ちゃんは敦司くんにお菓子を届ける風を装って睡眠薬を盛ったんだね。その後に眠らせた敦司くんを地下へと運び込み――」


くそっ、このままじゃ本当に柚唯さんが犯人になってしまう!

でもきっと、笹川さんが証言しているどこかが矛盾している。

それさえ見つけ出せさえすれば!


「二人、和奏ちゃんと亮太くんを殺そうとしたんだ。まあ初めから亮太くんを殺そうとしていたみたいだけどね。彼女が犯人という証拠も、現場にあったバッグが物語っているんだ。それに睡眠薬も中に入っていたみたいだしね」

「そこだっ! そこが笹川さん、あなたの矛盾している点だ!」


これが今できる、自分の精一杯の反論だ。

今まで気づかなかったが、大事な要点を見過ごしていたんだ。

その要点に未だ気付いていないのか、河西が首を傾げた。


「敦司くん、今の翔くんの話のどこが矛盾しているっていうんだい? 聞いている限りでは特に変なところはなかったけど」

「確かに聞いている限りではないですよね。だって今の今まで、俺だって気付けなかったんですから。笹川さんの矛盾している点に」

「僕が矛盾していることを言っているって言うのかい……敦司くんは一体、どこがおかしいと言いたいのかな?」

「それは俺に睡眠薬を飲ませたって部分からですよ。笹川さん、あなたは現場に置いてあったバッグに入っていた睡眠薬を柚唯さんが使ったと言いたいんですよね?」

「うん、そうだね。だから彼女のバッグの中に入っていたんだ。でもそれのどこが間違っているっていうんだい? 別に変なところはないと思うよ?」

「いえ、それがあるんですよ。俺も見落としていた点、そしてちゃんと確認しないと気付けない点。それは――瓶の蓋ですよ」

「蓋?」


笹川は何を言っているのか分からないとでもいうかのように両手の平を上に向けた。

その様子を見た限り、彼は本当に気付いていないように思えた。

なら教えるまでだ、彼女が睡眠薬を使っていないという証拠を!


「よく確認しなきゃ気付けないことですが、俺はあの時現場からバッグを回収した本人ですからね、中をよく確認したんですよ。そうしたら『アモバン睡眠薬』と書かれた瓶が出てきた。でも、その小瓶は開いていなかったんですよ。蓋がしっかりとしまっていて使った形跡がなかった」

「ふむ、なるほどね。だから敦司くんは翔くんの推理が矛盾していると言ったんだね」

「そうです。おそらく笹川さんは睡眠薬が入っていると聞いただけで勝手に彼女が使用したと勘違いをしたんでしょう。それに柚唯さんが犯人じゃないと思う理由はもう一つあるんです。それは芹沢くんが死ぬ前に残したこの言葉です」


『そうだよ。俺への腹いせかは分からないけどきっと仕返しのつもりなんだろうな。こんなことになるんだったらお前なんて助けるんじゃなかった』


「この言葉には犯人を見つけるためのヒントが隠されている。それは仕返しという部分です。恐らく犯人は芹沢くんに何かを邪魔されてその仕返しで殺し返した。そしてその何かが示すものは、俺が犯人だって疑われていた場面を救ったときのことを現している。すなわち、犯人はもう分かったも同然なんですよ」


ここまで言えば誰が犯人かはもう明らかだ。

それが伝わったのか河西が先にその答えを口にした。


「佳奈ちゃん……だね」

「そうです。恐らく、青木さんが犯人でしょうね。現時点ではそれ以外は考えられない。それに彼女の部屋は開け放たれていて未だに死体も見つかっていない」


だから芹沢くんを殺した犯人は青木さんで間違いない、敦司はそんな確信めいたものを感じていた。

ただ、笹川は納得していないのか不満げにぶつぶつと呟いた。


「でもさー、睡眠薬が使われていないって言うなら敦司くんは地下へ運ばれるときは本当にたまたま起きなかっただけってことになるの? それはなんか腑に落ちないだよね」

「それは、きっと青木さんが粉末状の睡眠薬を俺の部屋にばら撒いたとか、彼女にもいつでも犯行は可能ですよ!」

「まあ、確かにその可能性もあるけどさ……」


苦し紛れの理由付けだったがなんとか納得させることが出来たのかそれ以上は追及してこなかった。

でも彼の言う通り睡眠薬を盛られずに自分が起きないことはあり得ない。

今まで寝起きは良かっただけあって何処かで薬を盛られているのは確かなのだ。

ただ、柚唯さんが犯人と疑われるような直結する推理はできるだけ避けたかった。

なぜなら彼女の今までの、自分に対する優しさまでもが嘘だとしたらそれはあまりにも辛すぎる現実だったからだ。


「じゃあ敦司くんは現時点で亮太くんを殺した犯人は佳奈ちゃんだと言いたんだね?」


現状の整理のためか河西は確認をとってくる。

それに対して敦司は頷き返した。


「そうですね。確かに柚唯さんは怪しいですけど、使われた睡眠薬は見つかっていないし、逆に彼女のバッグの中から未使用の睡眠薬が出てくることもおかしい。そう考えると犯人じゃない可能性が高いと思います。逆に青木さんには動機がある。仕返しという些細な理由ですが怪しいことには変わりないですしね」

「まあでも、確かに動機はあるよね。佳奈ちゃんは亮太くんに邪魔をされて、和奏ちゃんにも推理を邪魔されてしまった。それに彼女は敦司くんにも恨みをもっていたに違いないよ。なんせ君を犯人と疑って自分が疑われてしまったわけだからね。だからこそわざと亮太くんを殺さずに、安心してフェンスの中へと入ってきた敦司くんにトラップを再起動させるワイヤーを引いたんだね。罪の意識を持たせるために、ね」

「お、俺は芹沢くんを殺してなんかいない! それにもし恨んでいるならなんで俺も殺さなかったんだよ!!」

「さあね、僕にはそんなことは分からないよ。ただ、もしかすると死より辛いもの君に体験してほしいからかもね」

「死より辛いもの……」

「そう、それは精神的苦痛! たとえ故意じゃないとしても君の行動で亮太くんは回転刃の餌食となり死んでしまった! これは紛れもない事実、これからその記憶を一生背負って生きていくんだね!」


笹川の言葉が自分の耳から入ってきて頭の中をぐるぐると回った。

自分が芹沢を殺した。

例えわざとじゃないとしてもこれは本当だ。

今まで考えないようにしていたせいか、罪の意識が突然重くのしかかってくる。


「あまり深く考え込んでも仕方ないよ、敦司くん。もう起きてしまったことは取り返せないんだ。それにもう、亮太くんの死体すら残ってはいないんだからね」

「えっ……死体が残っていない? それはどういう意味ですか?」

「あれ、君には説明をしていなかったかな? この館内では生活する中で必要ではないと判断されたものはなぜか次に目にするときは消えているんだよ。確か柚唯ちゃんに伝えておくように言っておいたんだけど」

「…………」


河西に言われて今までの記憶を辿る。

確か一番初めに館に来て柚唯さんに会った時にそんなことを言っていたような気がする。

ただ自分が試したときは消えなかったはず……いや、でも樹くんの死体と血痕は見事なまでに消えていた。

それを踏まえると一体どっちが正しいのか分からなくなってくる。


「まあそんなことは関係ないですって! たとえ現場がそのまま残っていたとして何も変わらないんですから! それより、真夜ちゃんももうそろそろ戻ってくると思いますし、早くお互い傷の確認をしませんか? 亮太くんを殺した犯人だって決まったわけですし!」


笹川の明るい口調で敦司は言われるがまま椅子から立ち上がった。

樹を、そして笹川、柚唯を殺した犯人を見つけるため、そして笹川を殺すことに加担してしまった罪の意識に押しつぶされそうになりながらも、真実を追い求めるために――

どうもこんばんわ!

昨日は遅く帰ったせいでそのままベッドに倒れて寝てしまいました……ということで、更新は今日ということになりました。

文字数がいつもより多めですが次回からはいつも通りに戻るのでご安心を!

ではまた次回もよろしくお願いします!


ここからは私情になりますが、最近仕事が忙しいため次回の更新日は一か月以内と少し曖昧にさせていただきます。

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