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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第十章 君と僕の最高傑作
73/86

record71 推理パート(3)

そして「袖を捲くってくれないかな?」と自分へと頼み込んでくる。

不思議に思いながらも敦司は言われた通りに両腕の裾を捲くると河西へと向き直った。

すると腕から手までをざっと見るだけで何かが分かったみたいに頷き始めた。


「なるほど、敦司くんは犯人ではないみたいだね」

「え? それはどういうことですか?」


これから何をされるのかとドキドキしていた自分としては少し拍子抜けだった。

もちろん犯人ではないと信じてくれたことは嬉しかったが、理由が分からないと納得はいかない。

だから説明をしてほしいというばかりに河西へ視線を送ると彼は語り始めた。


「おそらく樹くんを殺した犯人は右腕か左腕に怪我をしていると思うんだ。それが三日前のことなら傷はまだ癒えずに残っているはずだから、そこから敦司くんは犯人ではないと推定したまでだよ」

「傷……ですか?」


河西に言われて自分の両腕へと視線を向けてみるが確かに怪我なような跡はどこにもない。

でも当然、彼の言葉には疑問を抱く部分があった。

そのことを聞こうと口を開きかけた時、それを代わりに代弁するかのように笹川が先に質問をしていた。


「河西さんが言う案は確かに犯人を捜すにはいい案だと思いますよ。けれどなぜ犯人が怪我をしていると断定できるんですか? さっきの敦司くんの話では樹くんが殺害されただけのように僕には思えるんですが」


そう、笹川の言う通りなのだ。

確かに樹が死んでいた現場の状況や周りにあったものの話はしたが、犯人が怪我をするような話は一切していない。

それなのになぜ河西は犯人が怪我をしていると、それも腕を怪我していると断定できたのか不思議でしょうがなかった。

試しに真夜の方見てみても、深く考え込んでいるだけで河西の出方を待っているだけだった。

すると河西は再び口を開いた。


「ふふふ、きっと僕が適当に言っていると思っているんだね。でもそんなことはないよ。しっかりと根拠がある。よく考えてみればわかると思うけど、初めは階段に血痕は付着していなかったんだよね? そして樹くんの死を確認した後に部屋へと戻ろうとしたときには既に付着していた。それなら犯人以外の血痕以外は考えられないじゃないか。だってその場に居たのは敦司くんと犯人の二人だけ。たとえ他の第三者が隠れていたとしても敦司くんにバレないようにこっそり部屋に戻る必要なんてないと思うんだ。それを怪我をしたまま、そっと部屋に戻ろうとするなんて犯人以外考えられないじゃないか」


自信たっぷりに語っていく河西の推理には確かに指摘できるところはなかった。

聞いていても何ら引っかかるところもなく筋が通っている。

でも犯人が怪我をしていると分かっていても、腕に怪我を負っていることまでは分からないはずだ。

そのことに関しての説明までにはなっていなかった。

ただ河西自身もそのことには気付いているのか続けて喋り始めた。


「そして僕が腕を怪我しているといったことに関してだけど……敦司くん、確か階段に付着していた血痕は点々としていたと言ったよね?」

「は、はい! そうです。階段の所々にぽつぽつと血が垂れている感じでした」

「うん、もしそれが本当なら犯人は腕を怪我していると思うよ。だって血痕の後は、点々としているんだから……べっとりと引きずられたような跡ではないんだからね」

「え……あっ!」


河西にそこまで言われてようやく彼の言いたいことに気付いた。

おそらく自分が考えるに、床に付着していた血痕のことを指して言っているのだろう。

もし犯人が足や腹部、胸辺りに怪我を負っているのなら血は下へと流れていき、足を伝って床へと垂れて引きずったような血痕のあとができやすい。

それに比べて腕に怪我を負ったと想定すれば血は指先から流れて階段にできる血痕のあとはまばらになる。

それをもとに河西は犯人が腕を怪我していると予測したのだろう。

確かにそれならありえるかもしれないと考えた敦司だったが、途中で思い留まった。

本当にそれだけの理由で決めつけていいのかと考えたからだ。

確かに腕以外のところに傷を負えば引きずったような血痕のあとになりやすいかもしれない。

ただあくまでもなりやすいというだけで服から血が垂れたりすればまばらにだってなりうる。

だから犯人が腕を怪我しているなんて断定はできないのではないかと考えたのだ。

そう思った矢先、笹川が河西に反論していた。


「そう決めつけるのはまだ早いんじゃないですかね、河西さん? 確かに血痕のあとに目を付けたのはいいかもしれないですけど、腕を怪我していると断定するにはまだ早いと思いますよ。あくまでも可能性で決めるには不確定要素が多すぎます」

「ふふふ、でも確実とした証拠がないのだから可能性で話をするしかないじゃないか? 逆に何かいい証拠でも持っているというのかい?」

「持っているわけないじゃないですか……でも、この議論は犯人を捜すための議論なんです。大切な仲間たちを殺した犯人を捜すための議論なんです! それなのに可能性で探すなんてあんまりじゃないですか?」

「よく言うね、さっきまでは柚唯ちゃんの死体を見ても全く動じずに感極まっていたのに……君がそんなことを思っていたなんて嘘もいいとこだよ」

「あらら、バレていましたか。でも所詮みんなそんなものですよ。だって自分が一番可愛いんですから。だから河西さん、あなただってずっとみんなに何かを隠し続けている。違いますか?」

「なんのことだかさっぱりだね。僕は何も隠したりなどしていないよ?」

「そうですよね……そう言ってこそのあなたなんですよ! あはは、やっぱり美しいですよ! みんなを助けたいと言いながらも真実をかくそうとする、その醜い心が!」


声を上げて笑う笹川の姿を傍から見ていて敦司は寒気がした。

まさに狂気という言葉を連想させるような光景だ。

考えていることが普通のまともな人間の考え方じゃない。

でも、そうだとしても彼の言っていた怪我に関しての話は確かに正しい。

自分も腕に怪我を負っていると断定するのはまだ早い気がするのだ。

けれど河西の言う通り何か他に案があるわけでもない。

困った挙句、泳いだ視線は真夜の方へと向かった。

この状況で何かに気付くとしたら彼女しかいない。

そんな思いを込めて二人から視線を反らした。

するとその期待に答えるかのように彼女は口を開いた。


「私も……私も犯人が腕に怪我を負っていると決めつけるにはまだ早い気がします。でも怪我を負っているという部分には賛成です。確かに河西さんの言う通り犯人以外の血痕だとは考えにくいです。だから犯人は怪我を負っている、そう考えると犯人から外せる人が実は出てくるんです」


そう言うと真夜はこちらをちらっと横目で見てくる。

もしかしてこの後の話に何か自分が関係してくるということなのだろうか?

そんなことを考えながらも静かに彼女の言葉に耳を傾けた。


「まずは佐久間さんです。彼は怪我を負っていなかったので犯人から外すことが出来るんです。証拠は私がこの目で見たからです。風間さんが殺害された二日前の夜、私と佐久間さんは何者かに襲撃を受けて、佐久間さんは私を庇って怪我を負った。そのあとに怪我の手当てをしていたんですが、その時に佐久間さんからは襲撃を受けた時に負った傷以外は見当たらなかった。だから彼は犯人の該当者から外すことが出来るんです」


真夜の話を聞いていて、なるほどと敦司は思った。

もし自分に他に負った傷があったのなら彼女が手当てをする際に見ているはずだ。

その傷がないということは犯人から除外できる証拠になる。

そう考えるともう一人犯人ではないと断定できる人がいる。

自分が犯人ではないと決めつけることが出来た理由と同じ理由で――

なんか最近頭がぼーっとしていて気付いた頃には寝ていることが多い気がします。

春の陽気にウトウトしていると一日があっという間に過ぎてしまいますよね。

こたつに入っているとそれが尚更ひどくなり一日中ゴロゴロしているときも……汗

皆さんはどんな休日をお過ごしでしょうか?


次回の更新日は3/27です。

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