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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第十章 君と僕の最高傑作
71/86

record69 推理パート(1)

その人物はゆっくりと足を運びながらも一番奥の部屋から出てくると床に倒れている柚唯のそばで足を止めた。


「あぁ、美しいよ! 特に最後のところはすばらしかったよ! 自分の命を犠牲にしてまで人を思いやる心……あぁ、実に美しいよ!」


天井に向かってそう叫ぶ彼の姿はあまりにも恐ろしく、不気味だった。

演技でもなんでもなく、本当に心からそう思っているからこそ出てくるような言葉、そして表情がそれを物語っていた。


「笹川……翔、なぜ君が……?」

「ん? なぜ君が、とは何のことでしょうか、河西さん。僕はただ目の前にした美しいものがあったから歓喜しているだけですよ」

「そういう意味じゃないよ……なぜ君が柚唯ちゃんを殺したのか聞いているんだよ」

「僕が殺した? 柚唯さんを? あぁ、確かにこんな登場の仕方をしちゃったら疑われても無理はないですよね。それに皆さんも僕が犯人だと思っているみたいですしね……」


当然みんなの視線は彼へと注がれているわけで、それを笹川は見回して確認すると仕方ないとでも言うかのように首を横に振った。

そしてこの状況を楽しむかのように口元を吊り上げると、再度声を張り上げた。


「本当に僕は柚唯さんを殺してなどいない……といっても誰も信じてはくれませんよね。だから少し、皆さんで推理タイムといきませんか? まだ集まっていない人たちも全て集めて犯人探しといきましょうよ――」





それから数分後、笹川からの提案でみんなは食堂へと集まっていた。

もちろん、柚唯の遺体はしっかりと綺麗にしてから元いた部屋に戻し、付近の状況もしっかりと調べ直した。

そのおかげでいろいろと分かったこともあったが、自分として一番気になったことは浩介と佳奈の姿が見当たらないことだった。

あの後、笹川の提案で全員を集めようと部屋に向かったのだが佳奈の部屋は開け放たれていて既に部屋には居ず、浩介は呼び掛けても中から出てこなかったのだ。

なぜこのタイミングで佳奈は姿を消し、浩介は部屋から出てこないのか敦司にとっては分からないことだらけだった。

ただ今回いろいろと調べていて一つだけ分かったことがあった。

それが役に立つかまでは正直分からないが――


「ではみなさん、集まってくれましたか?」


そう言うと笹川はテーブルの真ん中へと歩いていき周りを見渡していく。

自分もそれにつられて辺りに目をやったが、そこであることに気付いた。

それは久遠の姿がどこにも見当たらないのだ。

笹川もそれにすぐに気が付いたのか首を傾げた。


「おや、そういえば一人足りませんね……和奏さんはまだ意識が戻ってないから仕方ないとして、久遠さんはどうしたんですか? まさかこの会議を放棄……というわけではないですよね?」

「それは私がお答えします」


笹川が話し終わると同時に声が聞こえてくる。

この声ならいちいち姿を確認しなくても分かる。

これは恐らく真夜だ。

そして答え合わせをするかのように笹川が彼女の名前を口にする。


「ほう、真夜ちゃんかい……何か言われたら都合が悪いことがあったら欠席をしてもらったとかですか?」

「……相も変わらないですね、あなたこそ。私が犯人とでも言いたげですね」

「僕は犯人とまでは言っていないけどね」


にやっと笑う笹川とそれに対抗して睨んで返す真夜。

そのまま嫌味を言いあうのかと思いきや、先に真夜の方から視線を反らした。


「……別に久遠さんは放棄をしたわけではありません。今の彼女は精神が安定していません。だから私が柚唯さんのそばにいることをお勧めしただけです」

「そうですか……まあでも確かに、先ほどの久遠さんを見ていても普通ではなかったですね。それで一応聞いておきますが、勧めて返ってきた答えは?」

「柚唯さんのそばに居たいと、私はずっとここに残ると言っていました」

「ずっとですか……まあいいでしょう。じゃあこの四人、僕と、河西さんと、真夜ちゃんと、敦司くん、現在ここに残るみんなで犯人探しといきましょうか」


こうして犯人を見つけるための議論が始まった。


「じゃあまず、柚唯さんが殺された件から話し合いましょうか。今回のこの事件の被害者は柚唯さん、死因は毒殺。何者かによって部屋で毒の塗られた矢を右胸に撃たれたことが原因。ただすぐに死んだわけではなく、敦司くんの部屋に解毒剤を届けてから死んでしまった。使用された毒とボウガンは彼女本人の部屋に残っていて、蓋の開いた毒の瓶も見つかった。そこには丁寧に毒の効き目まで残されていて、どうやら即死するほどの強さは毒にはなかったみたいだね。ただ一度体内に入れば致死率は百パーセント。昔よく拷問する際に使われた毒らしいね」


そうだったのか……。

笹川の話を聞いていて敦司はあの時のことを思い出す。

柚唯さんが自分のところまで歩いて来たとき、確かに苦しそうな表情だった。

最後は安らかな表情をしていたが、あれは死に際に出た彼女の最後の優しさからの笑顔だ。

そう思うと、少しでも犯人だと疑った自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。

なぜ苦しみながらも自分のところへ届けてくれた優しさがある彼女を疑ってしまったのだろか。

今更後悔しても遅かったが、悔やんでも悔やみきれなかった。


「あの、私は柚唯さんの血痕を拭き取るためにずっと付き添っていたので調べられなかったのですが、なぜ彼女は佐久間さんに解毒剤なんかを届けたんでしょうか?」

「そんなの僕にも分かるわけないじゃないか。まあでもあの解毒剤のことなら少し気になったことがあったけどね。柚唯さんが持っていたあの解毒剤、あれは柚唯さん自身がかかっていた毒を治療できるものだった。解毒剤にもそれぞれ種類があり、一つの毒に対しての解毒剤はすべて違う。それを知った上で彼女が持っていたかまでは分からないけれど、一致するものを持っていたのは確かだね。それと彼女が持っていた解毒剤の量は一人分だけだったよ」

「そうですか……ありがとうございます」


笹川が喋り終わると真夜は小さな声でお礼を言った。

そのお礼の言葉は表面上のもので、自分からは既にほかのことを考えながらも放った言葉に思えた。

すると今度は今まで黙って聞いていた河西から質問が飛んでくる。


「じゃあ次は僕からの質問といかせてもらおうか。敦司くんと真夜ちゃん。君たち二人はなぜあの現場にいたんだい? 僕が部屋から出た理由は君たちの喋り声が聞こえてからだけど、なぜ二人はあの現場に駆け付けたんだい?」

「それは部屋の外から悲鳴が聞こえたからです。廊下から柚唯さんの悲鳴が聞こえてきてから、その後に扉を開け放つような音がしました。それから少し経って――」


そう言うと真夜はこちらに視線を向けてきた。

このまま真実を話せば俺が一番初めに廊下に駆け付けたと彼女は言うはずだ。

そしてそれを話すことになるということは、自分と真夜が同じ部屋に居たことを証明することになる。

そのことを話してもいいかという確認だろう。


――ここで真実を隠すわけにもいかない……それに今更引き下がるつもりはない!


敦司は真夜に対して首を縦に振った。

それを確認すると真夜は再び河西へと向き直る。


「少し経ってから佐久間さんが廊下の様子を確認するといって部屋を出ていきました。それに続いて私も後から廊下へと出ました。そこで目にしたのが呼吸困難で今にも倒れそうな状態の彼女でした」

「ちょっと待ってくれ……真夜ちゃんの話が本当なら敦司くんと真夜ちゃんは二人で一つの部屋に居たということだよね? それに深夜に……いったい何を企んでいたんだい?」


やっぱりそこを突いてくるか……ただそれは予想済みだ。

疑問を投げかけてきた河西に対して今度は自分が答えた。


「そこからは俺が話します。俺が真夜ちゃんと一緒に居たことを否定するつもりはありません。だけどこれには理由があるんです。それは俺が今までみんなに黙っていた、本当に起こった出来事の話をするために……そして今から二時間前に起こったあの地下での出来事を彼女に話そうとしたためなんです。これが一緒に居た理由です」

「敦司くんが言っている本当にあった出来事、それはもしかして樹くんが姿を現さないことと何か関係しているのかな?」

「……そうです、河西さんの読み通りですね。実は俺は、風間くんが死んでいるところを二日前に目撃している……そしてその現場には凶器とみられるボウガンがいくつも転がっていた。そしてあの携帯、彼の携帯もあそこから持ちだしたんです。その帰りに真夜ちゃんと会い、何者かの襲撃を受けた。それが昨日俺が倒れた原因、押さえつけられた時の衝撃で開いた傷なんです」

「そうかい、そんなことがあったんだね。そして君は樹くんが死んだことを誰にも言い出せずにいた。そこで真夜ちゃんと協定関係を結んだというところだね。その後は大体予想はつくよ……ただ一つだけ聞きたいことがある。なぜ君は佳奈ちゃんに写真を撮られたことを気付かなかったんだい? それも焦っていたからかな?」


おそらく河西が言っているのは佳奈が持っていた写真のことだろう。

上から撮られたとみられる、樹が血だまりを作って倒れているのを自分が見下ろしている写真。

あの時は焦っていたから気付かなかったが、今考えればおかしな点があった。


「違います。あれは俺が撮られたのを気付かなかったわけじゃないんです。なぜなら最初から青木さんは写真など初めから撮ってはいませんから」

「それはどういうことだい? 何か根拠でもあるのかい?」


根拠ならある。

それは明らかにおかしな点、あの写真そのものにある。

それは――

早速で申し訳ありませんが、訂正です。

前回のキャラクター説明の前書きで書かれていたキャラクターの死因関係に関してのことですが、主人公、敦司の視点からではなく、正確には話が進んでいるところまでで分かっていることをまとめたものでした。

敦司が樹の死因を知っているわけありませんもんね……。

次回の更新は3/17の予定です。


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