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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第十章 君と僕の最高傑作
69/86

record68 ???

『どうも初めまして僕の名前は河西行人。名前ぐらいは聞いたことがあると思うけど、あの河西グループの社長でもあるんだ。そして僕は……いや、こんなことを言っても仕方がないか。それに詳しく説明をしなくても初めて会ったわけではないから僕がどんな人かは分かるはずだよね。まあ突然僕が君の前に出てきて余計に困惑しているのは察するよ。きっとなんで突然出てくるんだ、どうなっているんだなんて思っていることだろう。でも今はそんなことを詳しく説明している時間はないんだ。ただ一つだけ言えることは、君はどんな手を使ってでも絶対に現実世界に帰らなくてはいけないってことだよ。周りに怯えて、現実から目を背けてはいけない。どんなことが起こっても常に前に進むことを忘れてはいけないんだ。そして君はきっと、今大変な状況に置かれていると思う。自分が信用していた人、あるいは大切に思っていた人が死んでしまったりしていると思う。そしてパニック状態に陥っていると思うんだ。でもそういう時こそ焦らずに対処をするんだよ。自分一人で考え込まずに誰か一人信用できる人を作るんだ。でもその一人もしっかりと見極めるんだよ。もしかしたらその人も君の敵という可能性もあるからね……それと最後に必ず忘れてはいけないことが一つある。それは――――――これはやっぱりダメみたいだね。話の中では言ってはいけないことみたいだ。とにかく君の周りにいる人たちは家族のようなものであって敵でもあるんだ。それだけは忘れないように。さっきも言ったけれど君は絶対に生き残らなくてはならないんだからね。これは使命みたいなみたいなものだよ。常に周りを疑って油断だけはしないように……では幸運を祈っているよ、君の、君たちの全てを――』




薄暗い廊下には点々と血痕が続いていた。

血の後を辿っていくと血痕は柚唯の部屋から続いていた。

恐らく彼女は自分の部屋で何者かに襲われてから命からがら敦司にこれを届けに来たのだろう。


「柚唯さん……なぜこんなものを……」


手に握られていたのは何かの解毒薬だった。

それがどんなことを意味するのかまでは分からないが、彼女がこれを自分のところまで持ってこようとしていたのは確かだ。

しかも自分の命と引き換えにしてまで――


「どうして柚唯さん……なんでこんなことに……」


今はもう動かない彼女に敦司は問いかけた。

そんなことをしても無駄だと百も承知だったが、そう言わずにはいられなかったのだ。


「あの、佐久間さん……大丈夫ですか?」

「あぁ、真夜ちゃんもついてきてたんだね。俺は平気だけど……まさか次の被害者が柚唯さんになるなんて思ってもいなかったよ」

「そうだったんですか……じゃあ廊下から聞こえてきたさっきの悲鳴は高宮さんのものだったんですね。私たちがもっと早く駆けつけていれば間に合ったかもしれませんね」

「そうかもしれないな。俺がもっと早くに廊下に駆けつけていれば――」


柚唯さんは死なずに済んだのかもしれない。

もっと言えば、初めから疑わずに彼女の部屋に言っていれば助けられたかもしれない。

そう考えると今まで何度も感じてきた、あの無力さに襲われた。


「佐久間さんだけのせいではないですよ。私だってあの場に居たんですから……とりあえず高宮さんを部屋に戻してあげませんか? このまま廊下に置いておくのもどうかと思いますし」

「そうだね、真夜ちゃんの言う通りそうしてあげたほうがいいかもしれない。だってこんな姿じゃ居たたまれないもんな……悪いけど、頼むよ」

「じゃあできるだけ綺麗に血痕を拭き取っておきますね。その後に佐久間さんは部屋へ運んであげてください」


そう言うと真夜は柚唯のそばにさっと屈んだ。

そしてハンカチを取り出すと血で汚れるのを躊躇わずに柚唯の顔についていた血痕を拭き取っていく。

その姿を見て敦司はふと思ったことがあった。


「真夜ちゃんは、人が死んでいても動揺とかしないんだね」


ただ思ったと同時にこうして言葉にも出ていた。

それに気付いてからさすがにまずいと思った敦司はその場を取り繕うことを考えたが、行動に移すより先に真夜が答えていた。


「私だって……動揺はしています。一緒に住んでいた仲間が死んでしまったんですから……ただ、感情が豊かではないので表に出ないだけです」

「そういうものなのか? でもまあ、無理だけはしないようにね。きつかったら部屋に戻っていてもいいしさ」

「私は大丈夫です。それよりこれくらいでいいですか? 今の状態ではこれ以上拭き取るのは無理そうです。それに和奏さんの様子も気になりますし、一旦高宮さんを元の部屋に戻しませんか?」


言われて真夜の方を見ると血を含んだせいでハンカチが真っ赤になっていた。

確かにあれでは水など洗い流すようなものがない以上拭き取ることは無理そうだった。

――まあ真夜ちゃんが平気だって言うなら大丈夫なのかな……それより今はできることをしないと。


「分かった。じゃあ反対側を軽くでいいから持ち上げてくれないか?」

「はい、わかりました」

こくりと頷くと、真夜は自分とは反対側に回って柚唯の足を軽く持ち上げてくれる。

そして二人で持ち上げようとしたとき、そこにちょうど邪魔が入ることになる。

「君たち、こんなところで一体何をしているんだい! まだこんな時間なんだから少しは静かに――!?」


その人物、扉を開けながらも廊下に姿を現した河西は自分たち二人の行動を見てぴたりと止まった。

正確に言えば二人が運ぼうとしている柚唯の遺体を見て――その河西も人の死を前にして

うろたえる訳でもなく、やれやれと頭を振っただけだった。


「ついに死人が出てしまったかい……それで殺したのは君たちなのかい?」

「ついにって……どういうことですか?」

「質問を質問で返すってことは、僕の問いかけに答える気はないっていう意思表示なのかな?」

「それってどういう――」


そこまで言いかけて河西の右手がポケットの中へ運ばれていくのを敦司は目にした。

それがどういう意味を示しているのか殺気立っている雰囲気を読み取ればすぐに分かった。

このままでは彼に殺されることが――それを知ってのことか真夜は自分と河西の間に割って入ってくる。


「私たちは殺していません。そのことはお互いが証明できます」

「じゃあもし君たちが共犯だったとしたら?」

「もし私が犯人ならこんなところで喋らずにもっと静かに事を運びます」

「それも演技のうちだったら?」

「そんな危ない賭けを私がすると思いますか?」

「そうかい……でも未だに一つだけ僕には分からない。なぜ君は、真夜ちゃんはそんなにも敦司くんを助けようとするんだい? 好きだからという理由だけかい?」

「……今は関係ないはずです。それにあなたには話すつもりはありません」

「ふふふ、そうかい。人を守りたいという意思をどんな理由で動かしているのか、少し興味があったんだけど……まあ今度じっくり聞かせてもらおうかな」


不気味な笑いを零しながらも河西はポケットから手を放した。

もう言い合うつもりはないという彼なりの意思表示なのだろう。

これでようやく話し合えるとほっとしたのもつかの間、今度は久遠が廊下へと姿を現した。


「ふぁ~、こんな遅くにどうしたの? それにユキ様まで、また何かあった――っ!」


初めは眠そうにあくびをしながらも部屋を出てきた久遠だったが、周りの雰囲気を読み取ったのか辺りに目を凝らし始めた。

そして床に倒れている人型を目にした瞬間息を呑んだ。

それからは周りには目もくれずに既に息を引き取った柚唯へと駆け寄っていった。


「ゆい!! なんでよ、どうして柚唯が!! 何でこんなことになってるの!!」


いつもの明るい雰囲気は何処かに消え去り、久遠らしくない悲しみに満ちた叫びをあげていた。

それほど彼女の中では柚唯の存在は大きく、大切な存在を失ったときの影響力は強かったということだろう。


「誰がこんな酷いことをしたのっ! 誰が……誰が柚唯を殺したの……っ!」

「それは今から調べるところだよ。僕もさっききたばかりでよく分からなくてね。だからこれからみんなをここに――」

「その必要はないよ! だってこれは全てが演技で、全てが嘘なんだから!!」


久遠の問いに対して答える河西の言葉を遮りながらも、突然その人物は現れた。


次の更新はキャラクター説明&今までの話の整理をしていこうかと考えています。

そんなの要らない!理解をしているから話を進めて!という方がいればコメントをください。

3人以上から貰えれば本編を進めようと思います。

本編整理などどこに入れればいいのか、まず必要なのかがよく分からず……そんな自分ですがこれからもよろしくお願いします。

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