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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第十章 君と僕の最高傑作
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record67 命の贈り物

時刻は午前三時。ぼんやりとした光が部屋の中を照らす。

その明かりに照らされて周りにある本棚が少しずつ姿を現していく。

本棚には難しそうな本や何かの資料を束にしたファイルがびっしりと並んでいて、辺りには本の独特なにおいが立ち込めていた。

その中で真夜が用意してくれた椅子に敦司は静かに腰を掛ける。

それから数分経った後、グラスを二つ持ってくると片方を自分の前にそっと置いてくれる。

見た目は普通の紅茶みたいで透き通った明るい色をしたものだった。


「気持ちが落ち着くような作用がある紅茶です。良ければ飲んでください」

「あぁ……ありがとう」


真夜に向かって一言礼を言うと、グラスを口元まで持ってきてぐっと喉に流し込む。

今はあの地下で起こったことを忘れたくて、このパニック状態に陥っている自分を少しでも抑えたかった。

すると不思議と興奮状態にあった気持ちが段々と落ち着いていくのが自分でも分かった。

それから一息おいてから彼女の方から質問をしてくる。


「それで、一体何があったんですか? こんな時間に、それもあんな焦った状態で和奏さんを連れて私の部屋を訪ねてくるなんて……ただ事では無さそうですね」

「それが、こんな突拍子もない話信じてもらえないか分からないけど……でも真夜ちゃんぐらいしか信用できる人がいなくて!」


実際この館内で一番信頼がおけるのは彼女しかいなかった。

初めはもっと他にもいたが今となってはどの人たちも信頼がおけない。

浩介は親友だったがここに来てから一変して人が変わってしまったし、和奏も今は話を聞ける状況にない。

河西だって怪しいし、本当は信頼したい柚唯だって――


「落ち着いてください! ここで佐久間さんまで取り乱してしまったら、それこそ本当に取り返しがつかなくなってしまいます! 今は、私を信じて話をしてくれませんか?」

「真夜ちゃん……ごめん、そうだよね。じゃあこれから俺の知っている全てを話すよ」


それから敦司は自分の知っている全てを真夜に話した。

実は既に一人死んでいてエントランスホールで血だまりを作って倒れていた樹のこと。

そこで樹の携帯を拾ったことと、その近くに凶器になったとみられるボウガンがあったことも――その後に部屋に戻ろうとして真夜とあったことも。

そして今日、突然目を覚ましたら地下に居てそこで和奏と亮太が仕掛けに殺されそうになっていたこと。

そこで一度は仕掛けを止めたものの自分がトラップを再度発動させてしまったせいで亮太が目の前で死んでしまったこと。

全てを彼女に話した。


最後に、その現場の近くにポーチバッグが落ちていたことも――

「そうですか。それで私ぐらいしか信頼できそうな人がいないから、そして私と和奏さんが一番仲が良さそうだったから、だから私を訪ねてきたというわけですか」

「そう、だね……随分と都合がいいかもしれない。でも君を頼るしかないんだ! 風間くんの死を隠していたことは悪いと思ってる、だけど頼れるのは真夜ちゃん、もう君だけなんだ! どの人も犯人と思われるような行動をとっているんだ。きっと迷惑はかけない、だからせめて少しだけでも――」

「すみません。申し訳ないとは思いますが、それには従えません」

「え、どうして……」


敦司は言葉を失っていた。

今まで何かあると彼女はいつも自分の味方をしてくれていた。

そこにどんな理由があるかまでは知らないが助けてくれた。

だから今回も手助けをしてくれると踏んでいたが――


「でも真夜ちゃん、違うんだよ! 俺が風間くんの死を隠していたのは君を信じていなかったからじゃない。君に危険が及ぶと思ったからだ。だから今あったことも本当は話すべきじゃないのかもしれない……だけどもう、俺一人でどうにかなることじゃないって思ったんだ。だからどうか、あの時みんなに疑われていた俺を救ってくれたみたいに、もう一度だけ力を貸してくれ! 頼む!」


この館内にいる誰かが犯人なのは間違いない。

そしてその犯人は気付かれないように一人ずつ一人ずつ殺していっている。

それもまるで楽しんでいるかのように犯行を企てている。

いち早くそれを止めないといつかは全滅してしまう。

そうなる前にどうにか止めたかった。

その思いから真夜に向かって頭を下げる。

けれど目の前の彼女は席を立ち上がると敦司を無視してベッドの方へとゆっくりと歩いていく。

そして自分に背を向けたまま部屋の真ん中で立ち止まった。


「何か勘違いをしているみたいですけど、私はそんな軽い気持ちであの時佐久間さんに味方をしたつもりはありません。それに私はいつでも最善だと思う手を使って全力で手助けをしているつもりです。だから私は――」


そこでさっと身を翻すと、敦司の視線を正面から受け止める。


「私はたとえ自分の命を落とそうとも、あなたの味方でいるつもりです。あの時命を落としかけた時、佐久間さんは危険を顧みずに私を庇ってくれた。それも怪我を負ってまで……だからこれからは危険などと言わずに隠さずに話してほしいんです。私にできることならなんでもしますから!」

「……真夜ちゃん」


その時の彼女の瞳にはしっかりとした意思が灯っており、どんなものにも屈しない決意が宿っていた。

そんな姿を見てここまで心強い味方がいたのかと敦司は心底思った。

同時に心の中で少しの余裕が生まれる。

ただ余裕といっても、油断とは違う。

これからは一人で犯人に向かうわけではなく、二人で解決していくという心の余裕だった。


「でも、正直に言うとまだ頭の整理がついていません。別に佐久間さんを疑っているわけではないんですが、急に死んだといわれても実感がつかめないというか……少し時間を頂けませんか?」

「それは別にかまわないよ。俺だって樹くんの死を目の前にしたときは理解できかなったし……それにこれから確認したいことがあるんだ」

「確認したいこと、ですか?」

「うん、さっき話した地下室に落ちていたバッグのことなんだけどさ。今から柚唯さんに聞きに行こうと思って」


あの現場に落ちていたポーチバッグは間違いなく彼女、柚唯のものだった。

亮太が死んだのを目の当たりにした後、近くにバッグが置かれているのを目にしたのだ。

そして中には蓋が閉まっている小さな小瓶が入っていた。

ラベルには『アモバン睡眠薬』と書かれており、その下には副作用のことなども細かく記載されていた。

効き目は三十分から一時間ほどで出始め、三時間から四時間ほどで効き目が切れるものらしい。

ただこんなものをなぜ彼女が持っていたのか敦司は理由を知りたかった。

もしくは初めから持っておらず、誰かに嵌められて持たされたのか。

どちらにせよ彼女に聞くのが一番早いし、どうせ聞くことになるなら自分一人で確認したかった。


「俺は柚唯さんが犯人とは思いたくないんだ。だからこそ初めに俺が聞きにいって無実を証明しようと思う。それに犯人は何となくだけど目星はついているからさ」

「そうですね、私も高宮さんが人を殺すような方には見えません。それに憶測ですが私も犯人は大体予測できています」

「それなら良かった。じゃあ後で答え合わせって感じかな。とりあえず今は柚唯さんのところに――」

『きゃっ!』


その時扉の方から突然悲鳴が聞こえてくる。

続けて数秒後に誰かが扉を思いきり開ける音がするかと思うと、バタバタと走り去る音が廊下に響いた。


「……佐久間さん」


静寂が訪れる中、声に反応して後ろを振り返ると真夜が心配そうにこちらを見つめていた。

その表情はどうするべきかこちらに訴えかけているように思えた。

やはり彼女の気持ちにも迷いがあるのだろう。

すぐに外の様子を確認したい気持ちと犯人が待ち構えているのではないかという恐怖の気持ち。

どちらを優先すべきか――でも自分の中では既に答えは出ていた。


「開けるよ、真夜ちゃん?」


一応確認のためにも真夜に声をかける。

すると彼女は少し間をおいてから首を縦に振ってくれた。

そこからは自分が先頭になって廊下の様子を覗くようにゆっくりと顔を出していく。

すると荒い息遣いで壁を伝う人物と視線が重なる。

その人物が誰か理解すると同時に敦司は廊下に飛び出していた。

そこには口元から多量の血を流している柚唯の姿があった。

息遣いは荒く、今にも倒れそうなのか壁に手をつきながらも少しずつ前に前進していた。


「柚唯さん!!」

「ぁ……つし、……くん……?」


虚ろな瞳でこちらの姿を捉えると柚唯は安心したのかずるずると床に崩れ落ちていく。

敦司は急いで駆け寄ると倒れないように彼女の身体を支えてあげる。


「よか……た……まに、あったんだ……」

「柚唯さん、一体何があったんですか!!」

「これ……あつ、し、くんに……」


敦司の声が届いていないのか、それとも自分に時間がないことを悟っての行動なのか柚唯は震える手を虚空へと持ち上げた。

そんな彼女を見てもう目が見えていないことを悟る。

だからその手をそっと包み込むと敦司は柚唯へと優しく微笑んだ。


「……はい、しっかりと受け取りました。柚唯さん、ありがとうございます」

「あった、かいね……あつし、くん、のて……」

「そんなことないですよ……柚唯さんの手が冷たいだけですよ」

「あはは……そう、かな……」


ゴホッゴホッ! 器官に血の塊が詰まったのか柚唯は咳とともに多量の血を吐き出した。

敦司はそれをただただ見守ることしかできなかった。

吐血する量を見ても彼女がもう助かることはないだろう。

だからせめて苦しまないように呼吸がしやすいように身体を支えてあげた。


「わた、しも……みん、なと、いっ、しょに……いた、かったな……」

「みなさんそばにいますよ。柚唯さんのこと、見守っています」

「そ、っか……よか……った……」


その言葉を最後に柚唯はゆっくりと息を引き取った。

ただその時の彼女の表情は苦しそうな感じではなく、安らかに眠るような表情だった。

今日は久しぶりに外の風呂屋さんに行こうと思っています。

いつもいつも家でシャワーだけだったので風呂屋に行くのは何年ぶりだろうか……。

皆さんは家で入るのと外で入るの、どっち派ですか??

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