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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第九章 崩壊へのカウントダウン
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record65 真夜の推理

その後は柚唯の言う通りにベッドへと戻り静かに話を聞いていた。

時間は少し遡り自分が倒れた直後の話になるが、彼女が言うにはどうやら真夜が自分の手当てを始めたころには既に和奏はもう居なかったらしい。

柚唯が真夜から聞いた話によると、和奏は敦司を部屋の前まで送り届けるとそそくさと自分の部屋へと戻って行ったというのだ。

そして佳奈はというと、あれ以来あまり言葉を発しなくなってしまったらしく喋らなくなった人形みたいになったという話だ。

ただ河西はそれを見て彼女が怪しいと考えたのか早速話を聞こうと話し合いを持ちかけた。

けれど彼女の方がそれに応じるだけの気力がないのか、一方的な感じになってしまい結局収穫はなしに終わったらしい。

そして当の本人、河西は銃を持っていた理由を聞かれると「僕が銃を持っていたのは何かあった時のため」と一言言っただけでそれ以上深くは語らなかったらしい。

敦司からすれば随分と都合のいい言い訳だと思えたが――。

現時点では河西は真夜から話を聞いているらしく、既に敦司の誤解はほとんど解けたといっても過言ではないらしい。

話が終わると柚唯はふぅと一息ついた。


「と、私が知ってるのはこれくらいかな。それと今日はもう夜遅いから、また明日にでも佳奈ちゃんから事情を聴くって河西さんが言ってたよ」

「そうですか、きっと河西さんは青木さんから全てを聞くまでは納得がいかないんでしょうね」


そう言いながらも正直のところ、自分だって佳奈にはしっかりと事情を説明して欲しいと思っていた。

あの写真はどこから手に入れてきたのか――そしてなぜあそこまで必要以上に自分を目の敵にしてきたのか。

聞きたいことは山ほどあった。

そして気が付くと、心配そうにこちらを見つめてくる柚唯の顔が目に映る。


「敦司くん、大丈夫?」

「ん? 何がですか?」

「今、凄く怖そうな顔をしてたからひょっとしたら嫌なことでも言っちゃったかなって」

「え、俺がですか? そんな、ちょっと考え事をしていたら難しい顔をしちゃっただけで、柚唯さんは全く関係ないですよ」

「そっか、それなら良かった」


敦司が笑いかけると、それにつられるようにして柚唯もにこっと笑い返してくれる。

その笑顔を見ながらも安心する反面、少し気を引き締めようとする自分が居た。

彼女の言った通り自分が本当にそんな表情をしていたのなら、自覚しているよりも佳奈のことを恨んでいるかもしれないからだ。

だからといって今すぐどうにかなるってわけでもないのだが、この館にいると本当の自分を見失いそうで不安を感じたからだった。


「じゃあ、もう今日はこの辺でいいかな? 私もそろそろ戻らないと他の人に変に思われちゃうし、それで敦司くんが目を覚ましたってばれちゃったら嫌だしね」

「えっ、もうそんな時間ですか?」


柚唯に言われて敦司はベッドの近くにあった置時計を確認する。

時計の針はもうすぐ夜の十一時を告げようとしているところだった。

「本当だ、気付かないうちにこんな時間に――いろいろと聞き込んじゃってすみません」

「ううん、いいんだよ。私が何でも答えるって言ったんだし……あ、あとこれ。渡し損ねちゃうところだった」

首から提げているポーチバッグの中を柚唯は突然漁りだすと、中から小さな包みを取り出した。

それを自分の手のひらに乗せると「どうぞ」と敦司に向かって差し出してきた。


「何ですか? これは……」


もしかして河西や真夜から何か預かっていたのだろうか?

そんなことを考えながらも彼女の手の上からひょいと摘み上げる。


「敦司くん、朝からずっと寝てたからお腹すいたかなって思ってここに来る前に簡単なお菓子を作ってきたんだ。良かったら後で食べてみてね」

「これって柚唯さんが作ったお菓子なんですか! ほんと何から何までありがとうございます」


確かこの館に来て、初めて柚唯さんにあった時も貰ったな――確かあの時は。


「前にクッキーを貰ったこともありましたよね。あの時もすごく美味しかったし、今回は何なのか楽しみです」

「あのときは久遠ちゃんにもいくらか手伝ってもらって作ったから……もし美味しくなかったらごめんね。不味かったら無理しないで捨ててもらってもいいからね」

「そんな勿体ないことしませんよ! せっかく柚唯さんが作ってくれたんですし、後で美味しく頂きます」

「ありがとう、敦司くん。でも無理はしないでね。失敗しちゃったならまた作ればいいことだし、それにね――」

「おーい、柚唯? 今居る~?」

「えっ!?」


柚唯が何かを途中まで言いかけたとき、外から彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。

おそらく声から予測すると呼んでいるのは久遠だろう。

耳を澄ませると遠くからドンドンと扉をたたく音が聞こえてきた。


――しかし柚唯さんは驚くとあんな声が出るのか――なんというか、可愛いな。


彼女の方へ視線を向けると口に手を当てて蒼白な顔でこちらを見つめ返してくる柚唯が立っていた。


「もしかして私の声、久遠ちゃんに聞こえちゃったかな……?」

「それなら平気ですよ。最初に配られた紙に書いてあった通り、部屋の中の音は外には聞こえないみたいですし」

「そうだっけ……はぁ、それなら良かった。じゃあ私はバレちゃう前に戻るね」

「そうですね、今日はありがとうございました。柚唯さんが来てくれたおかげでいろいろと助かりました」

「ううん、それはお互い様だよ。私も敦司くんと話せて楽しかったよ。ありがとう」


そして扉の前まで行くとくるっと振り返り「おやすみ、敦司くん」とこちらに手を振ると廊下へと出て行った。

そのまましばらく彼女が出て行った扉を見つめていると外から久遠の驚く声が聞こえてくる。

それからぼそぼそと二人で話す声が聞こえてくると廊下にまた静寂が訪れる。

要は彼女が上手くやってのけてくれたということだろう。

そのことに感謝をしながらも敦司はさっきもらった包み紙を開けてみることにする。

そこにあったのは銀紙の上にちょこんと置かれているシフォンケーキだった。

前もそうだったが、今回も市販で売っていてもおかしくないレベルのものだ。


――さて、柚唯さんは味に自信がないとは言っていたけどどうなんだ。


味見をするつもりで口に持っていくと敦司は少しだけ食べてみる。

うん、普通に美味しい。

シンプルな感想を言うのならこうなるだろう。

実際素人が作ったとは思えないほど上手くできている。

柚唯はあんなことを言っていたが、おそらく久遠が居なくても十分に一人で作れるレベルに達しているんじゃないかと敦司は思った。


――今度、何かお礼でもしないとな。


そんなことを思いながらも残りのシフォンケーキを平らげると敦司は大人しく布団を被った。

せっかく柚唯が自分が目覚めたことを黙ってくれているのだから安静にしないと失礼だと思ったからだ。

ただ部屋に沈黙が訪れると余計なことを考えてしまいなかなか寝付けなかった。

そんなこんなでもぞもぞしていると右腕の方に何かが擦れるのを感じる。

不思議に思った敦司は左腕でそれを掴むと近くに置いてある明かりで照らしてみた。

それは今日の午前に真夜から渡された紙だった。

読んでいる途中で久遠たちが部屋に来て最後まで読めずにポケットへと敦司が押し込んだものだった。


――俺の記憶が正しければエントランスホールにある扉の開錠のための解説がかかれていて、そこまで読んだところで久遠さんたちが来たから……確かここらへんだったかな。


くしゃくしゃになった紙をきれいに伸ばすと敦司は記憶を辿って読みかけていた部分まで戻った。

それから少し前から読み始める。


『そしてこれから書くことはあくまでも私の憶測なのであまり信用しないでください。おそらくですが、仲間外れというのは現在の私達の現状を表していると思うんです。それは十三人目のことです。あの扉は確かに開きませんが、本当は誰かいたのではないではないでしょか?そしてその人はまだ、私たちの前に姿を現していない。もしかしたら何らかの理由があって現すことが出来ないのかもしれない。そのことが仲間外れなのではないでしょうか?』


そこで文は終わっていた。

読み終わった敦司はその紙をきれいに折りたたむと出来るだけ細かく破り捨てた。

もしこんなのが見つかったら河西に疑われるのは間違いないと思ったからだ。


――しかし十三人目が仲間外れか……そうなると、それがあの暗号の『2』を示していたってことになるのか。


そう考えると余計に訳が分からなくなる。

十三人目が存在しているにしろしないにしろ、それがどうやったら数字の『2』に変わるというのだろうか。

もしかしたらそれに何か特別な意味でもあるのだろうか?

まあどちらにせよ、まだ仲間外れという言葉が十三人目を指しているとは決まってはいないのだが――


「ダメだ! やっぱりこういう推理は俺には向いてない!」


ガバッと勢いよく布団を被ると今度こそはと敦司は寝る態勢に入った。


ようやく複線回収出来ました。

とはいっても、record58で真夜からもらった手紙程度のことなんですが……まあここまで推理が出来れば素晴らしいですよね。

俺もこんな風に頭良くなりたい!笑

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