表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第九章 崩壊へのカウントダウン
64/86

record63 迷い

これは何かの夢なのだろうか?

いや、夢だ。

だってさっきまでは自分の部屋で静かに眠っていたはずなのだから……。


「早くしろよ! 早くこの機械をどうにか止めてくれよ! 早く!!」

「なにがどうなってるの、あっくん! もうこんなの嫌だよ!」

「おい、敦司!! 早くこれをどうにかしてくれ!! 俺はこんなところで死にたくない!!」

「うぅ……あっくん……」


現実を否定しているのか、それとも既に自分が生きることを諦めているのか、今の状況を否定しながらも自分の名前を呼ぶ和奏。

そして死にたくない、まだ生きたいという一心で助けてくれと叫ぶ亮太。

その二人の叫び声が薄暗い部屋の中を反響することで、これは夢ではないと敦司を現実に引き戻す。

たがこれを現実と認識するにはあまりにも残酷で、悲惨な状況だった。

なぜなら目の前で繰り広げられているのは人の命をおもちゃのように扱っている、いわば快楽殺人犯の殺人ショーみたいなものだったからだ。

助けを求める二人は壁に括り付けるように縛られていて身動きが取れない状況下にある。

その二人の前にはそれぞれ鉄製の円盤状の回転刃があり、それがゆっくりと回転しながらも二人へと近づいた。

そして二人と自分の空間を隔てるように一枚の薄い鉄製のフェンスが作られていた。

そこには一枚の白い紙が無造作に張られていて、殴り書きでこう書かれていた。

『救いたい者の方を選べ』と――。


「敦司! 何をぼけっとしてるんだよ!! 早くこっちに来てこの機械をどうにか止めてくれよ! このまま見殺しにする気なのか、お前は!!」


呆然と立ち尽くしている敦司に向かって亮太が怒鳴り散らす。


「あ、あぁ! 待ってろ、今すぐ助ける!」


何がどちらかを選べだ!

絶対に二人とも救ってやるからな!!

敦司は一度フェンスから距離をとると、入り口のような接合部分があるフェンスの一部にねらい目を付ける。

そして助走をつけてそのまま思い切り体当たりをくらわせる。

ガシャン!

鉄製のフェンスはぶつけられた反動に対して大きな音を立てる。

だが結果は――


「な、なんで壊れないんだよ……」


敦司の思っていた結果とは裏腹にフェンスはびくともしなかった。

その上、ぶつかった時も衝撃を吸収しているのか少しもしなりはしなかった。

こんな薄いフェンスさえも壊せないなんて、そんなこと――


「うああぁぁぁぁあ!!!」


敦司はもう一度十分な距離をとると、自分が出せる精一杯の力でフェンスに体当たりをくらわす。

ガシャン!

先ほどと同じくフェンスは大きな音を返してはくるが、ピクリとも動きはしなかった。


「嘘、だろ……どうして……壊れない……」


これ以上は無理だと痛感すると急に身体から力が抜けていき、敦司はその場にへたり込んでしまう。

自分の目の前にあるのは見るからに薄そうなフェンスだ。

いくら鉄でできているものだからといって、体当たりを一度食らわせればすぐに壊れそうなものだった。

なのになぜ、なぜ壊れない?

助けを求める二人はこんなにも薄い壁の向こう側にいるのに、なんて自分は無力なんだ。


「何してるんだよ、敦司!! 早く、早くどうにかしてこれを止めてくれよ! 助けてくれよ!?」

「っ……うぅ……っ!」


そうこうしているうちにも、二つの回転刃は少しずつ少しずつ二人へと迫っていた。

そこからの恐怖のせいか、諦めかけている敦司に対して亮太は乱暴な口ぶりで怒鳴り散らす。

それに対して和奏は怒鳴りはしなかったが、ただただ怖いのかすすり泣くだけだった。


――俺は一体……いったいどうすれば……。


絶望の中、顔を上げるとさっきみた白い紙に殴り書きされている文字がもう一度目に入る。

『救いたい者の方を選べ』

そのすぐ下には赤いボタンが一つだけ置かれていたのだった。





五時間前――敦司は自分の部屋のベッドの上で目を覚ました。

寝起きが悪いか悪くないかと言われれば、いつもならいい方だと言い切っていただろう。

ただこの時は非常に気分が優れなかった。

別に体調が悪いとか、そういうたぐいのものではなかったが、なんだか頭がぼっとしていたのだ。

原因が分からないまま身体を起こしたところで、ようやく腹の辺りに包帯がまかれているのに気付く。

そしてだんだんと意識がはっきりしてくるにつれて断片的ではあるが記憶が戻ってくる。


「そうか、あの後確か俺は部屋に戻るために真夜ちゃんに手伝ってもらって……」


その後は俺がふらついて、記憶が正しければ和奏が助けてくれたはずだ。

そこまではおぼろげながらも覚えている。

ただその後はもやがかかったみたいに鮮明には思い出せなかった。

とりあえず今の時刻が気になった敦司はベッドのわきに置いてある時計を自分の方へと引き寄せる。


「もう夜中の十時か」


今朝食堂に降りたのが午前七時くらい……そう考えると恐らく自分が倒れてから現在まで約十五時間ほど経ったということになる。

これだけの時間が経過していれば真夜や佳奈、河西などの住人たちが各自行動をとっているわけで何をしているのか気になるところだった。

それに河西や和奏が銃を持っていた理由だって知りたいし、まずそんなものが出せるか自体だって分からない。

果たしてあんな物騒なものをここで出すことは可能なのだろうか?

そうと決まればやることは一つ、敦司は傷の具合を調べて痛みがないことを確認するとベッドから降りて部屋の中にあるモニターへと近付く。

悩む時間があるくらいなら自分の足を使って調べろ。

昔よく親から言われたものだ。

そこで画面内に自分が欲しているものを打ち込むと、確認のためにボタンに触れる。

するとそこには河西や和奏が持っていたものと同じものが現れた。

手に取るとずっしりと重く、見た目もモデルガンとは思えないほどに精密に作られている。

軽く持ち上げると、メカニカルな部分からカチッと微かな音が聞こえてくる。

素人の敦司にもわかるくらいに構造は単純で、引き金を引けばすぐに打てる回転式のリボルバーだった。


試しに撃たなくても分かる――これは本物だ。


そう直観で感じとると同時に背筋に冷たいものが走る。

自分自身今まで何度か部屋のモニターを使ってきたがこんなものを部屋から出せるなんて考えたことすらなかった。

けれどその予想に反し、銃を連想して持ち歩く人がいる。

ということは、その人たちは一瞬でもこんなものを出せると考えたということだ。

人を殺めるためのものを――


「くそっ! こんなもの、持ち歩くものか!」


ガシャッン!

敦司がやけになって投げつけた銃は床に落ちると大きな音を立てた。

そしてそのまま壊れるわけでもなく、床で光を反射させ黒く光り続けていた。

まるでそれは自分を使うべきだと俺自身に訴えかけてきているようだった。

既に銃が出せるとみんなに知れ渡った今、自分の身を守るために持ち出す者は多くなることだろう。

そう考えると自分だけが持っていない状況は非常に危険だと頭の中で訴えかける自分がいた。

自分も持ち歩くべきだと、使わないで持っているだけならいいんじゃないかと。

ガチャッ。

その時後ろの方から扉を開けた音が聞こえてくる。

そして入ってきた人物は敦司と目が合った瞬間、声にならない悲鳴を上げると扉を背に距離をとろうとする。

そのせいで扉が勢いよく閉まり、バタンと大きな音を立てた。


「あ、あの、わたし、敦司くんが起きてるなんて思ってなくて……それで、その……」

「柚唯さんじゃないですか、何をそんなに怯えているんですか?」

「え、あ……だって、それ……」

「?」


扉に寄りかかりその場にへたり込むようにして尻もちをつくと、柚唯は震える手で敦司の右手を指さす。

もしかして柚唯さんは俺に怯えているのか?

不思議に感じながらも自分の視界範囲に右手を動かす。

そこでようやく彼女が怯えている原因が分かった。

『もしかして』ではなく、他の誰でもない自分をみて柚唯は怯えていたのだ。

銃をしっかりと右手に握る自分に対して――


「っ! これは、いや、だってさっき床に捨てたはず! なんで俺は持ってるんだよ!」


柚唯に怒鳴り散らしても仕方ないことは分かっていたが、考えるより先に敦司は口にしていた。

本来こんなものを所持するだけでもいけないことなのに、持ち歩くなんてあり得ていいことじゃない。

そう思ってさっき床に投げつけたはずなのに――なぜ?

意識しないうちに拾い直したってことなのか?


「ハッ……嘘だ……嘘だろ、なんでだよ!!」


この館に連れてこられて数日経った。

初めはみんな、館に来た住人として自分のことを祝福してくれて嬉しかった。

何より楽しいと感じることが出来た。

ずっとこんな時間が続けばいいと――でも今は違う。

早くこんなところから逃げ出したい。

死にたくない。

本当は樹の死体を見た時から自分は正常ではいられなかったんだ。

もしかしたら自分が――あれ、そういえばなんで目の前で柚唯さんは怖がっているんだ?

俺が……犯人だから?

カチッ。銃口がしっかりと柚唯を捉える。

そして人差し指がゆっくりと引き金に添えられた。

今まで読んでくださった方、タイトル変更で驚いているかもしれませんが詳しくは活動報告を見てください!

次回の更新は1/21を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ