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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第九章 崩壊へのカウントダウン
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record62 助け

そこにはちょうど「なんだい?」と佳奈へ話しかけている河西の姿があった。

おそらくそれを見る限り言葉を発したのは彼女だろう。

まだ他にも何かを言っている様子だがこの距離からだとうまく聞き取れない。

すると今度は自分のところまで聞こえるように「逃がさない」と佳奈がはっきりと言葉を口にした。

それから腰の方へと手を回すと一枚の写真らしきものを彼女は取り出した。


「これを見てもまだ風間くんを殺していないと言えるの、佐久間くん?」

「なんなんだよ、急に……」


まだ何か奥の手でも隠していたのだろうか。

遠巻きから見ると、写真には人が二人ほど映っているのがぼんやりと見える。

ここからだとそれぐらいしか分からなかった。

なので彼女の方へと足を進めた。

そして写真がだんだんと見えてくるにつれて歩みが遅くなっていく。


――うそ……だろ……なんでそんな写真がここに……。


ありえない。

敦司の頭の中にはその一言しか思い浮かばなかった。

なぜなら佳奈が手に持つその写真には、上から撮られたとみられる、血溜まりを作って仰向けに倒れている樹とそれを見つめる自分がはっきりと映っていたからだ。

あまりの展開に思考が追いつかない敦司に対して、佳奈はまたしても驚くようなことを口にした。


「私、実はあの時あの場所にいたのよ。あなたのことをエントランスホールの二階から見ていたの。見てもらえれば分かるけどこの通り、周りが明るいおかげではっきりと映ってるわ」

「っ!?」


嘘だ。

混乱している最中、敦司は直感的にそう思った。

まず本当にあの現場を見ているならショックで動けなくなる、もしくは声などをあげると思ったからだ。

それを自分に気づかれないように物音一つ出さずに、冷静に写真を撮ってから部屋に戻るなど有り得ない。

そんなことが出来るなんて前々から計画を練っていないとできないこと……いや、待てよ。

じゃあもし、彼女が今この現状を望んで創ったとしたら……?

もしそう仮定するのであれば、あの写真を彼女が持っていてもなんら不思議ではない。

そして敦司はある一つの結論に辿り着く。

要は嵌められたということだ。

目の前にいる彼女、あの青木佳奈に――。


「ふざけるなっ! 俺が犯人のわけないだろ! 第一、俺に風間くんを殺す理由なんてない!」

「そう、あくまでもあなたは自分から犯人とは認めないわけね。でも周りの様子を見てみたら? 反応はどうかしら?」


彼女に言われて改めて周りへと目を向けてみる。

するとさっきとは打って変わって、こちらを警戒している者や恐怖を感じて距離をとる者の姿が目に映った。

まるでその光景は自分が犯人だと示しているかのようだった。

呆然とする敦司に対して佳奈はゆっくりと言葉を続ける。


「初めは友達思いの普通の人かと思っていたけれど、それは私のとんだ勘違いだったみたいね。でもそれもここで終わり……あなたみたいな人は放っておくには危険すぎるわ」

「何が危険だ……何が勘違いだ! 俺だって、お前が犯人とは思わなかったよ!」


声を荒げて怒りに任せて叫ぶと敦司は佳奈へと歩み寄る。

その行為自体にあまり深い意図はなかったがその場にじっとはしていられなかったのだ。

そして彼女との距離が数メートルまで縮まった、その時だった。


「動くな、佐久間 敦司!! これ以上の横暴は見過ごせない!」


敦司のその行動を見ていて危険だと判断したのか河西から静止の言葉が飛んでくる。

けれど冷静さに欠けていた敦司は彼の言葉など無視しようと考えた。

だが彼の姿が視線の端のほうに映った瞬間、敦司は言葉を失った。


――う、嘘だろ……なんで、河西さんが……!?


意識はしていなかったが、知らず知らずのうちに敦司は足を止めていた。

もちろん彼の気迫というか、オーラに恐ろしさを感じたという理由もあるがそんなものはちょっとした後付けでしかない。

本当に敦司が感じた恐怖はもっと違うもの、河西が自分へと向けている「物」に対してだった。

そしてその「物」は存在していいものではなく、決して人に向けていいものでもない。

なぜならそれは黒光りする鉄の塊、引き金を引けば簡単に人の命を奪うことができる銃だったからだ。

河西は銃口をこちらに向けるとそのまま距離を詰めてくる。


「そのまま動くな……僕だって好きで人を殺そうとは思わない」

「…………」


そのまま敦司が言葉を失ったままでいると、突然何者かに後ろから物凄い力で動きを封じられ床へとねじ伏せられる。


「くはっ!?」


その際に肺を思い切り床へとぶつけ、一瞬息が詰まる。

もし下がカーペットではなく、硬いコンクリートなどだったら意識も飛んでいたかもしれない。

その時、敦司は直観的に感じ取る。

この人たちは本気なのだと――。

既に上からかけられている力も尋常ではないところからしてこの人たちは本気で自分を犯人だと思い止めにかかってきている。

無駄だと思いながらも抜け出そうともがくが、やはり力が思うように入らないせいか失敗に終わった。

だから敦司はこのまま捕まることも考えたが、その考えとは裏腹に事態は思わぬ方向へと進んだ。


「や、やめて……やめてください! これ以上やったらあっくんが……あっくんが死んじゃう……」


悲痛の叫びがエントランスホールに響く。

その声の主は意外にも和奏だった。

押さえつけられている自分を見つめながらも、彼女は泣き崩れそうになりながら虚空へと訴えかけていた。

するとそれに続くように真夜の声が聞こえてくる。


「佐久間さんは怪我人なんですよ! それを寄ってたかって犯人なんて決め込んでこんな酷いことまでして……それでも大人ですか!?」

「真夜ちゃん、君が彼に好意を抱いていることは知っているよ。だからといって人殺しをまんまと見過ごすことはできないんだよ」

「人殺しって……佐久間さんはそんなことをするような人じゃありません!」

「ふむ……じゃあ彼が樹くんを殺していないという根拠でもあるっていうのかい? 正直あの写真を見た僕には犯人としか見受けられないけどね」

「それは……」


河西の言葉に口を噤む真夜を見て、彼の言葉には一理あると敦司自身思った。

もちろん真夜の行為自体は嬉しいが、あの写真がある以上は自分が犯人という過程を覆すことは難しいと思ったからだ。

それにこの状況が続けば真夜だって疑いかれない。

そう思った敦司は真夜へと顔を向けると、優しく言葉を投げかける。

もういいよ、ありがとう、と。


「佐久間さんまで! こんな、こんな酷いことなんて絶対にありえて……っ!?」


今まで気持ちを強く持っていた真夜もそろそろ限界がきたのか震える声で呟いたが、途中で突然息をのんだ。

そのまま驚いたような表情を作ると、真夜はある一点を見つめたまま固まってしまった。

正確には今、自分が向いている方角とは真逆に位置する方角をじっと見ていた。

そしてその視線の先には――。


「翔さん、今すぐにあっくんの上から退いてください! じゃないと身の安全は保障できません!」


震える手で、それでも翔へと銃口をまっすぐに向ける和奏が立っていた。

先ほどまで泣いていたせいか目が赤く腫れているが、瞳にはちゃんとした意志が灯っている。

その光景にさすがに周りも驚いたのか呆気に取られていた。

ただ河西だけはその中でも対抗するように和奏へと銃口を向け直していた。


「和奏ちゃん、馬鹿な真似はするものじゃないよ。それに君にはきっと撃つことはできない。それが証拠に銃を構える手が震えているよ?」

「そんなのは分かりませんよ、河西さん。確かに銃を撃つことに抵抗もあるし、怖い……だけど、だけど大切な人を失う方がもっと怖いですから!!」

「……なにが望みなんだい?」

「一度しっかりと話を聞いてあげてください。なにも聞かずに一方的にこんなことをするのはどうかと思います。それに傷の手当てもしないと……あっくんを殺すことが目的ではないんですよね?」

「そうだね、犯人だから殺してもいいとまでは思っていないよ。ただ容赦はするつもりはないけどね……では一時的に介保した後、傷が治ったら話を聞かせてもらおうか」


河西の言葉に和奏が頷くと、どちらからともなく銃口を床へと下ろす。

その光景を見る限り、一時的ではあるがこの場は丸く収まることを意味しているのだろう。

それが証拠に自分の上に乗っている翔も力を弱めてくれる。


――なんだか今日はみんなに助けてもらってばかりだな……自分が情けない。


しかし和奏が助けてくれるのは敦司としては意外だった。

最近は昔と違う素振りばかり見せられていたせいか、まさか味方をしてくれるとは思っていなかった。

どちらかというと嫌われているとまで思っていたほどだ。

やはり自分の考えすぎで和奏は昔と変わっていないということなのだろうか?


「佐久間さん、大丈夫ですか!?」


そこまで考えたところで自分の身を案じる真夜の声で我に返る。

気付くと、翔もいつの間にか上から退いてくれていて河西と何かを喋っていた。

一体いつの間に自分から離れたのだろうか……。

そんな敦司の疑問を他所に真夜は自分のそばまで駆け寄ってくると膝を折って屈んだ。

そしてワンピースを巻いていた薄い帯を解くと綺麗に畳んでいく。


「佐久間さん、そのまま動かないでください。このまま止血しますから」

「え、動くなってこのうつ伏せの状態からって事か? それに止血って誰か怪我でもしてるのか?」

「気付いていないならいいです。とにかく動かないでじっとしていてください」


不思議に思いながらも真夜の言うとおりに大人しくしていると今度は「ゆっくり身体を起こしてください」と声がかかる。

その指示通りに身体を起こそうと床に手をついたとき、先ほどまでになかった痛みが突然腹部を襲う。

その痛みのせいでよろけたが、真夜が身体を支えてくれる。


「ごめん、ありがとう真夜ちゃん……怪我をしてるやつって俺のことを指してたんだな」

「気付けないのも無理はないと思いますよ。あんな状況下でしたから、きっと痛みにまで気が回らなかったんだと思います」

「ぐっ……この傷って、あの時矢がかすめたときの傷か」


視線を下の方へ落としてみると、薄っすらだが服の上からも出血しているのが確認できた。

昨日部屋の前で襲われたときに負った傷とほとんど同じ位置にあった。


「恐らくそうですね。床に押さえつけられたときの衝撃で傷が開いたんだと思います……良ければこれを使ってください。あまり綺麗ではないですが、服の上から抑えれば多少の止血作用にはなると思います」


そう言うと、真夜は先ほど服からほどいて折りたたんだ帯を自分へと差し出してくれる。


「ほんと、真夜ちゃんは優しいよな。今度何かお礼でもしないといけないな」

「そんな、私は一度佐久間さんに助けてもらっていますし、それにその傷だって私のせいで……」

「それはもう気にしないって約束だろ?」


敦司が優しく笑いかけると、真夜は心地よい声で「そうでしたね」と返してくれる。

ただ自分が怪我をしていると自覚したせいか、その時の笑顔が痛みのせいで少しひきつってしまう。

それを察してのことか、真夜は自分に肩を貸してくれると急いで部屋へと向かうために階段を目指し歩き始めた。

けれど彼女一人で男の自分を支えるのはやはり難しいところがあるのか、まっすぐに歩くことが出来ない。

敦司自身もできるだけ彼女の方へと重心がいかないとように心がけてはいたが、出血のせいでつい寄りかかるような感じになってしまう。


「っ……あと少しです。しっかり歩いて、ください」

「ごめん、ほんとに真夜ちゃんには迷惑をかけてばかりだな……」

「そんなこと、気にしなくていいですから! とにかく今は早く部屋へ戻って安静にしないと」


本当に真夜ちゃんは優しい子だな……俺もしっかりしないとな。

できるだけ体重が彼女の方へと偏らないようにして、一歩一歩を踏みしめながらも歩く。

しっかりと意識をして歩かないと、痛みと出血のせいで今にも倒れこみそうだったからだ。

そして階段を上ろうと差し掛かった時、集中力が切れてきたせいか痛みのせいで思うように段差を超えられずに足をかけてしまう。

もちろん、そのせいで真夜の方に体重が偏ってしまい――。


「きゃっ!!」

「大丈夫、真夜ちゃん!」


突然のしかかってきた敦司の体重を女の子の真夜が受け止められるはずもなく倒れそうになる。

だがその時、彼女の名前を叫びながらも敦司を反対側から支えて助けてくれる人が一人いた。

その人物を認識するなり真夜は驚きに目を見開いた。


「え……和奏……さん?」

「私も手伝うよ、真夜ちゃん。だから少しでも早くあっくんを部屋に連れて行ってあげよう?」


そう言うと彼女は優しく微笑んだ。


少し遅れましたが......明けましておめでとうございます!!

今年もよろしくお願いします!

年末も少しバタバタしながらも小説の執筆に励んでました......皆さんはいいお正月を過ごせたでしょうか!?

今回はお正月ということで少し文字数が多めです。

お付き合いください!

ではまた!

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