表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第九章 崩壊へのカウントダウン
62/86

record61 疑い

――そんなまさか……いや、昨日あのまま寝てしまったからずっと持っていたままになっていのか!?

そう、それは昨日敦司が拾った樹の携帯電話だった。


せめて遺品として元の世界に持ち帰ろうと思って持っていたものだったが……今ここでこれを出したら自分が犯人と証明する証拠品になってしまうかもしれない。

でもこの場をうまく切り抜けるようなそんな言葉を思い浮かぶほど今の敦司には余裕もなかった。

――くそっ! なんであの時しっかりと部屋で保管しなかったんだ……あぁ、一体どうすれば……。


「あの……こういう誘導尋問みたいなことはやめませんか? 見ていて不愉快です」

「……真夜、ちゃん……?」


もう無理だと降参しようと思ったとき、声がした方を向くとそこには真夜が居た。

彼女の瞳を見る限り、いつもの大人しそうな雰囲気ではなく強い意志を持っているように敦司には見えた。

佳奈にも敦司と同じくそう見えたのか少しだけ怯んでいた。

だがそれも一瞬だけで、すぐにいつもの強気な態度で食ってかかる。


「あなた……もしかして彼と手でも組んで風間くんを殺した共犯者なの? だから私の邪魔をするわけ?」

「誰彼構わずそうやってすぐに犯人に仕立て上げようとするんですね。逆にそちらの方が怪しいように私は思いますけど」

「あら、もし私が犯人ならもっとうまくやってのけるわね。それに彼みたいに疑われるような行動はしないつもりだけれど」

「どうですかね、現時点でその規律が乱れて私に犯人じゃないかって疑われているんじゃないですか?」

「面白い推理ね。よくそこまで言えるようになったわね。初めの頃は何も主張できそうにないくらいに暗い感じで、自分の意見もまともに言えない子かと思っていたけれど……彼に何かされたのかしら?」


ふふふ、と意地悪そうに佳奈は笑って見せる。

一方真夜の方は「今はそんなこと関係ないでしょ」と睨み返していた。

すると佳奈は急に真剣な面持ちになり「どうかしらね……」と切り返していた。


「もし単純に好きならともかく、好意の好きなら十分に手を貸すとは私は思うのだけれど?」

「……まず佐久間さんが犯人なんて決まっていないじゃないですか。それにしっかりとした根拠もないのに疑うのはよくないと思いますけど」

「あら、だから今それを証明しようとしているんじゃない? そういうことだから早く見せてくれないかしら、佐久間くん?」

「そういう言動一つ一つが見ている側が不愉快だって言ってるんです。見せる必要なんてありませんよ、佐久間さん」


二人にそう言われて敦司は戸惑いを隠せなかった。

正直、どちらかの意見を選んでもいいというならもちろん真夜の方だろう。

けれどこの場にはほかの住人たちが全員集まっている。

もしここで隠し通せば余計に疑われることになるし、下手をしたら真夜ちゃんまで巻き込んでしまうことになる。

ならどうするか、そんなの初めから答えは出ている。


「分かりました、青木さんが言った通り見せます。けれど、これを見て自分が犯人か犯人ではないかどちらに転ぶかはわかりません。だけどその結果がなんであろうと真夜ちゃんには関係はありませんからね」

「っ! 佐久間さん! 佐久間さんはそんな……!?」

「あなたは黙っていてくれないかしら、神崎さん。彼がいいと言っているのだからあなたがどうこう言うことじゃないでしょう?」

「っ!!」


佳奈に的をいたことを言われ反論できないのか、真夜は河西の方へと視線を投げる。

どうにか止めてくれ、という願いを込めて見たのだろう。

けれど返ってきた返事は彼女が望むような答えではなく「彼の意向だからね……」とポツリと呟くだけだった。


「青樹さん、あなたが見たいのはこれですよね」


そういうと敦司はポケットの中で携帯を掴んだ。

そして覚悟を決めてみんなが見えるようにポケットから出そうとして……。


「こんなくだらないことはもうやめにしないかい? なんとなくで人を疑ったらキリがない。それにみんなの規律も崩れる。そうは思いませんか、翔さん?」


突然声がしたかと思うと黙っていきさつを見ていた翔へと話題を振っていた。

敦司自身、これ以上誰が自分の味方をしてくれるのかと思い声の主を見たが、正体がわかったと同時に目を見開いた。

なぜならその人物は今まで自分に対して嫌味を言ってきた亮太だったからだ。


「え……う、うん、そうだね。君の言う通りこういうことはあまりいいとは言えないね」

「そうですよね。そういうことで、今日はこのぐらいでみんなお開きとしませんか? それともまだここに残ってみんなで敦司くんを犯人に仕立て上げるのかい?」


この場にいるみんなにそう問いかけると周りの人たちは周りをきょろきょろと見渡しながらも首を横にふるふるとふった。

それを見て黙っていないのがもちろん佳奈だ。

前へと一歩進み出ると、今にも亮太へとつかみかかりそうな勢いで詰め寄った。


「芹沢さんまで、どういうことですか! あなたは――」

「そんなに犯人探しが楽しいのかい? それになぜ樹くんが死んだと断定できるんだ? 例えここで敦司くんが何か証拠となるものを持っていたとしても犯人と断定はできない。それとも君は現場を目撃したのか?」

「そ、それは……わたしは、ただ……」


ぎゅっとこぶしを握ると佳奈はそのまま言葉を濁し始めた。

佳奈としてもまさか亮太が敦司の味方をするとは思っていなかったのだろう。

表情は険しく、悔しそうにしているのが見ていても伝わってくるほどだった。


――これで……助かったのか?


なんとなくだが敦司は周りの雰囲気からそう感じた。

久遠や柚唯は安堵したようにこちらに苦笑いを向けてくれているし、ほかの人たちの視線も今は自分ではなく佳奈へと向いていたからだ。

そう思うと一気に緊張が身体から抜けていき、今度はどっと疲れがのしかかってくる。

本当は今すぐにでも部屋に戻ってベッドに横になりたいくらいだ。


――でもお礼ぐらいはいっておかなきゃな。


今回の危機を切り抜けることができたのはほとんど亮太のおかげだ。

敦司は亮太のそばまでいくと「おかげで疑いが晴れた、ありがとう」と頭を下げた。


「……別に、僕は敦司くんの味方をしたわけではないよ。ただ規律を崩さないために言っただけだ」

「だとしても俺が助かったことには変わりはないから、だからありがとう」

「そう言われてもな……困るだけだ」


そうぽつりと言い残すと亮太は敦司をさっとよけて二階へと上がっていってしまう。

なんというか、やはり自分に対して冷たいような気がする。

初めにあった時も嫌味のようなことを言ってきたし……だとしても助けてくれたのは事実だ。

そう考えると意外に根はいいやつなのだろうか?

既に亮太の姿は見えなかったが、そのまま二階を見つめたままでいると隣から真夜が話しかけてきた。


「あの、佐久間さん大丈夫でしたか? すごく疲れているようですけど……」

「ん? あぁ、平気だよ。少し考え事をしていただけだよ。それよりありがとね、真夜ちゃん。俺のために必死になってくれて嬉しかったよ」

「えっ、べ、別に私は、その、大したことなんて……そ、それより、あの人はどうするつもりなんですか」


敦司がお礼を言うと真夜は一瞬だけ戸惑いを見せたが、すぐにいつもの表情に戻った。

素直じゃないところもあるが、前と比べれば自分にいろんな表情を見せてくれるようになったものだ。


「彼女……青木さんをあのままにしておくとまた何か仕掛けてくるかもしれませんよ。一度きつく言っておいた方がいいんじゃないですか?」

「んー、とは言ってもな。向こうももう俺たちをしつこく追及してきそうにないぞ?」


佳奈へと視線を向けると、河西が彼女へと語りかけているところが目に映った。

会話は成立していないのか、彼が一方的に話しかけている様子だ。

もしまだ彼女が変に仕掛けてくるようならこっちも応戦をするつもりだが、今はどう見てもそんな感じは読み取れない。

だからこれ以上何かをする必要はないと考えたのだ。

そんな敦司の内心を真夜は様子で察したのか「佐久間さんがそうおっしゃるなら」と一言いうとそれ以上は何も言ってこなかった。


「さて、ここに残っても仕方ないし一度部屋に戻るか」


誰に向かって言うわけでもなくそう呟くと、敦司は二階に上がるために階段へと歩き始めた。

ここに残っていても疲れるだけだし、今は少しでも早く休みたい気分だ。

そう思い階段へと足をかけたその時だった。


「……ない」


――ん? ない?

何か今、小声で誰かがぼそっとそう言ったような気がした。

敦司は一度階段を登ろうとした足を止めると、亮太を除いた全員が残っているエントランスホールへと目を向けた。


どうもお久しぶりです!

休載してからほぼちょうど3か月くらい...だと思います。

遅くなってしまい申し訳ありません。

楽しめていただけたでしょうか!!

順調に行けば来月中までには掲載予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ