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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第八章 サドンデス
58/86

record58 焦り

最初の方から読み進めていくと、まずは問題が記されていた。


『仲間外れにされたものは、その仲間に入れてもらうために姿を変えて、その後ろをついていく』

それからきれいな文字で『まずは答えから逆算していきます』と書かれていた。


『今回の扉を開錠する上で増えた数字は〔2〕のみです。そう考えるとこの数字の〔2〕が何かの姿から、仲間に入れてもらうために数字へと姿を変えたことになります。そして五桁のうちの最下位桁にあたる理由が先ほどの文に書かれてあった通り、後ろをついていくと書かれているからです』


――なるほどな、そう考えるとあの問題の文での仲間ってのが『数字』で、仲間外れってのが他の何かを示してるってわけか。


『そしてこれから書くことはあくまでも私の憶測なのであまり信用しないでください。おそらくですが、仲間外れというのは現在の私達の現状を表していると思うんです。それは――』


「敦司くーん! 今から朝食を食べようと思うんだけど一緒にどうかなー?」

「っ!」


そこまで読んだところで扉の外から自分の名前を呼ぶ声がする。

声からして多分、久遠だろう。

隣からは「まだ7時だし誘うには早くないかなぁ」と心配する柚唯の声も聞こえてくる。


――まずいっ、このままじゃあの現場に二人が行ってしまう!


焦った敦司は、読んでいる途中の紙を急いでポケットに押し込むと扉を勢いよく開けた。

外には予想した通り久遠と柚唯、そしてその後ろには壁に背を預けて腕を組みながらも、こちらを訝し気に睨んでくる佳奈も一緒に居た。

敦司が部屋から出てくるのに合わせて「うわっ!? 敦司くん」と目を見開く久遠と「ひゃっ!?」と驚きに声をあげる柚唯がいた。

それとは対照的に佳奈は冷静に「何をそんなに焦っているのよ」と敦司に問いかけてきた。


「あっ、いや、その……ちょうど俺もお腹が減ってたからどうしても一緒に食べに行きたくなってつい、あはは……」


愛想笑いをしながらも敦司が誤魔化すと、久遠と柚唯は「驚かせないでよ~」と笑って返してくれる。

けれどやはり佳奈だけは騙せていないのか、まだこちらを睨んでくる。

――やっぱりこんなに簡単にだませるのなんて、この二人ぐらいだよなぁ……。

こんなときに真夜が居れば上手くやり過ごせたのにと心の中で思いながらも、敦司は佳奈と視線を合わせないように久遠達に向き直る。


「それよりこんな朝早い時間に食べに行こうなんて一体どうしたんですか? いつもならもっとゆっくりだったと思うんですが……それにいつものメンバーとしては珍しいし」


遠回しに佳奈のことをさしながらも、それとなく久遠達に聞いてみることにする。

話題を変えるいいチャンスだと思ったし、実際気になっていたことでもあったからだ。

すると久遠が「それがね」と河西の愚痴をこぼし始めた。


「今日の朝、突然ユキ様に起こされてみんなを食堂に集めるように言われたんだ。だからこんな時間にみんなを起こして回ってるんだけど……もう少しゆっくり寝てたかったなぁ。それにユキ様もこんな時間にみんなを起こすなんて何を考えてるんだろ……」


そのあとも何かをブツブツ言っていたが、敦司にはよく聞こえなかった。

正確には聞こえなかったというよりは他のことに意識が行き過ぎて、聞き取れなかったのだ。

もし、久遠の言っていることが本当なら河西は既に下の階に降りている可能性が高いからだ。

おそらくあの現場を見て、朝早くに召集をかけたのだろう。


――ってことは既に河西さんが!


そこまでの考えに辿り着いた時には、敦司は既に一階へと走り出していた。

後ろからは久遠たちの声が聞こえてきたが、今は振り返る余裕などなかった。

そして階段を降りようと足をかけたとき、驚きに目を見開くことになる。


「な、なんだこれは……」


敦司の視線の先には今まで通りのエントランスホールがあった。

そう、本当に今まで通りの、いつも通りのエントランスホールが……。


「ちょっと敦司くん、急に走り出したりしてどうしたの? まさか朝早く起こされたからユキ様に嫌気が差したとか?」


心配してのことか、後からバタバタと足音を立てながらも久遠が追いかけてきた。

だが、これに対しても振り返るどころか敦司は一言も返さなかった。

それぐらいに目の前の光景に驚き、頭の中は乱れきっていた。


――そ、そんな……たった数時間で……あれだけの血の量と死体をどうやって……。


まさか犯人が全てを片付けた?

いや、でもそれは考えにくい。

死体だけならまだしも、あれだけの量の血を拭きとるのはどうやっても不可能だ。

それにカーペットも全て新しいものに変えなきゃならない。

どうやっても人間が成し遂げられる技じゃない。

でも現に……。

現にエントランスホールには死体どころか、血の一滴も残っておらずいつも通りの光景だった。


「あの……敦司くん、さっきから何を見てるの? 私にはいつも通りの光景だと思うんだけど……」

「え……?」


現状に驚き、固まっていた敦司の視線の先に不思議そうにする柚唯の顔が映る。


「敦司くん、大丈夫?」

「あぁ、いや、平気ですよ。ただその……この館には外を見渡せるものがないから窓とかあったらいいなぁとか思って」


咄嗟に思いついた理由をでまかせではいてみせる。

黙っているよりかは、なにか言ったほうがマシかと思ったからだ。

すると隣からクスクスと小さく笑う柚唯の声が聞こえてくる。


「なんだ、そうだったんだ。敦司くん、すごい血相で走り出したかと思うと急に固まっちゃうから、何かあったのかと思って心配したんだよ」

「そうそう、それにあたしのことは無視して柚唯の返事だけにはちゃんと反応してちゃってさぁ~」

「あはは、心配かけちゃってすみません。それと、柚唯さんは可愛いですしどんなことがあっても無視はできないですから」


冗談めかして言うと、久遠も「敦司くん、それはないよ~」と笑いながらもツッコミを入れてくれる。

ただ、柚唯だけは言われ慣れていないせいか一人顔を赤く染めて「えっ? えっっ?」とおどおどしていた。

そこへ佳奈がやれやれといった表情でやってくる。


「久遠さん、こんなところで喋っていていいんですか? 他の人達も早く集めて食堂に行かないと河西さんにまた何か言われますよ?」

「え……あっ、そうだった! 敦司くんが急に変な行動をとるから忘れてたよ。じゃあまたあとでね、敦司くん」


バイバイとこちらに手を振ってくると、久遠はみんなを集めるために来た道を戻っていく。

その後ろを慌てるようにして柚唯もついていく。

おそらくこの場に一人残るのが気恥ずかしいのだろう。

その背中を見ながらもやっぱり柚唯はいじりがいがあるな、と心の中で敦司は密かに思った。

そして自分は一足先に食堂へ向こうとした時にようやく気付く。

佳奈がこの場に残っていたことに。


――青樹さんは……そう上手くは騙せそうにないよな。


敦司が何かいい話題はないかと考えていると、先に佳奈が口を開いた。


「佐久間くん、もし隠していることがあるなら話してくれないかしら?」

「……っ!」


その問いかけに敦司は驚きを隠せなかった。

確かに今日の自分の行動は挙動不審ではあったが、それだけで何かを隠しているといとも簡単に当ててくるなどと思ってもいなかったからだ。

そのまま何も喋らずだんまりを決め込んでいると、今度は追い打ちをかけてくる。


「別に無理して話さなくてもいいけど、これからは信用はしないわよ」

「あ……あはは、いやだなぁ。なんのことを言ってるの、青樹さん?」

「…………」


敦司が笑ってごまかそうとすると、佳奈は黙ってすっと目を細める。

その目はまるで敵を見るかのような鋭い目つきだった。

いつも不定期更新&遅れてばかりなのに読みに来ていただきありがとうございます。

今回は主人公が物凄く追いつめられる......という形で区切ってみました。

まあ実際、自分がこんな立場に立ったとするならさっさとはいて楽になりますけどね笑

では、また次回!


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