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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第八章 サドンデス
55/86

record55 死の世界

「ここはどこなんだ?」


ぼんやりとする光の中、敦司はただ呆然と立ち尽くしていた。

周りを見回してみてもなにも見当たらず、とにかく真っ白な世界だった。

上を見てみても下を見てみても真っ白。

なんだか変な次元に飛ばされたみたいな感覚に襲われる。


――ここは夢の中なのか? それとも死んだのか?


確か真夜ちゃんを助けた後に倒れて……。

そう考えてみると、死んだほうがいいかもしれないなどと少し思ってしまう自分がいた。

自分が死ねば真夜ちゃんだって安心するだろうし、それにあんな世界に生きている理由もない。


――いや、でもばあちゃんが気がかりだな。


そう思うと、ふと樹のことを思い出した。

死に際になると自分じゃない他の人のことを思うというが、樹もこんな感じだったのだろうかと思ったのだ。


――いや、でも俺の場合はもう死んでるのか。


そう思う不思議と笑いがこみ上げてくる。

それから少し休んだ後、辺りを歩いてみることにした。

何か自分以外の人でも物でも、なんでもいいから見つからないのかと思ったのだ。

けれど、数十分間歩いても埃一つ見つからなかった。

それにどこもかしこも真っ白のせいで、自分がどこを歩いているのか分からなくなりそうだった。


――はぁ、死の世界ってこんなに寂しいところなのか?


自分の想像の中ではもうちょっと賑やかな感じだった。

そう敦司が考えた時だった。

よく目を凝らすと遠くの方で誰かがこちらに優しい笑顔で笑いかけてくるのが見えたのだ。


「おーい、そこに誰かいるのかー?」


大声でそちらの方向に呼びかけると、敦司は駆け足で駆け寄る。

だが、向かっても向っても一向に距離が縮まない。

それでもあきらめずに近寄ろうと走っていると、どこからか声が聞こえてくる。


「ごめんね、敦司くん……私がもっとしっかりしていればこんなことにならなかったのに……今度は私が守ってあげるね。約束、絶対だからね」


あれ、この言葉、さっきと同じだ。


でも言葉が二度も聞こえてくるってことは、俺はやっぱり死んだのか?


それにこの子は誰なんだ?

さっきも思った通り、どこかでこの約束を交わしたような気がする。

でも誰だかよく思い出せないのだ。

すると敦司の疑問を見透かすかのようにどこからか声が聞こえてくる。


「ううん、死んでないよ。生きてるよ。あなたはそんなに弱くない。それは私が一番よく知ってる」


まるで子供に聞かせるように、優しく包み込むようにして声が届く。


「私が誰かは今は教えてあげられない。でもきっとあなたとはいつか会える。どこかできっと、会えることを願っていてくれれば」


少しずつだが声が遠のいていくのが分かる。

まるで掴んだ物が手からするすると逃げてしまっているような感覚に襲われる。

だから敦司は引き留めようと必死に叫んだ。

そして自分の疑問を同時にぶつける。

この声の言う通りなら自分はまた、あの薄気味悪い館に戻されるということなのだから……。


「待って! いつか会えるってどういうことなんだよ! それに君は俺の味方なのか! もしそうなら誰が敵で、どうやったらここから出れるのか教えくれ! 助けを呼んで来てくれよ!」

「ごめんね、それはできない。私は存在しているようで存在していない者なの。だから助けたくてもできないの。でも今は、あなたの味方だから……だからこれだけは教えてあげる。あなたの本当の敵はすぐそばにいる。だから気を付けて。その人の名前は……なな……わ……たに……」

「聞こえないよ! ねぇ、誰なんだよ! 教えてくれよ!」

「…………」


最後の方は変なノイズ音しか聞こえず、上手く聞き取れなかった。

その後、敦司は何度か声をあげたが一度も返事が返ってくることはなかった。

それから数分くらい経過しただろうか。

だんだんと白い世界が端の方から崩れていくのが確認できたのは……。

そしてその現象が段々と自分の方に近付いてきて、遂には自分が立っていた床までもが崩れた。


――これでまた、あの世界に戻るってことなのか。


そう感じた瞬間に意識が覚醒する。

ゆっくりと目を開けると一番初めに真っ白な天井が目に入った。

それから敦司は首だけを少し右側に傾ける。

そこには赤く濁った水が入っている受け皿と、その脇で心配そうな表情をこちらに向けてくる真夜が椅子に座っていた。

そして目が合うとほっとしたような表情を見せると同時に、申し訳なさそうな仕草を見せる。

敦司としては既に真夜は他の人をこの部屋に呼び込み、自分のことを犯人だと突き出していたと思っていた。

でもこの状況を見る限り、そうではない気がする。

身体を少しだけ浮かせてわき腹辺りに目をやるが、そこには綺麗に包帯が巻かれていた。


――この感じだと真夜ちゃんが手当てしてくれたのかな?


ここまでの経緯が気になり、敦司は真夜の方へと視線を投げる。

すると真夜はこちらに向かっていきなり深々と頭を下げてきた。


「あの……佐久間さん。その、助けてくれたのに、私……ごめんなさい」

「真夜ちゃん……?」

「あのとき私、他の誰かに命を狙われていたんですよね? それで佐久間さんが助けてくれたのに……なのにただ突き飛ばされたのかと勘違いをしてあんなにひどいことまで言っちゃって……本当にごめんなさい」


真夜はもう一度頭を下げてきた。

でも考えてみればあの状況下で突然突き飛ばされたら勘違いをしても無理はないなと敦司は感じた。

それに真夜自身も正常な状態ではなく、パニック状態だっただろうし……。


「真夜ちゃん、とりあえず顔を上げてくれるかな?」


敦司が声をかけると真夜はびくっと身体を震わせる。

怒っていて何かされると思っていたのだろう。

何も起きないと分かると、そっと顔をこちらに向けて不思議そうに顔を傾けてくる。


「あの……?」

「傷の手当てをしてくれてありがとう。おかげでどうにか一命をとりとめることができた。ありがとう、真夜ちゃん」


あまり過去のことをしつこく言うくらいならこれからのことを、今真夜ちゃんが自分にしてくれたことに対してお礼を述べた方がいいだろうと考えたのだ。

だが、それに対して納得がいっていないのか真夜は曇った表情を見せる。


「あの、佐久間さんは怒らないんですか? 私、あんなにひどいことをしたのに……それに、私のために怪我まで……」


包帯が巻かれているわき腹たりをじっと見つめる真夜。

やはりさっき敦司が倒れたこともあって心配をしているのだろう。

まだ真っ白な包帯だが、少しだけうっすらと赤くなっているところもあった。

でも見た目ほど酷くはないのかベッドから体を起こしても不思議と痛みはなかった。


――他人のことを心配できる、こんないい子なのに……過去に相当怖い思いをしたんだろうな、可哀想に……。


じゃあ今、俺がしてあげられることは……。

ポンッと真夜の頭に手を置くと、優しく撫でてあげる。


「……佐久間さん?」

「真夜ちゃんはすごく気の利く子だし、優しい子だと思う。だから俺が怒ることなんて何もないさ。それに俺は助けてくれたことを本当に感謝してる。だからお礼なら言うが怒る理由なんてどこにもない」

「でも、それは私のことを助けたから、そのせいで佐久間さんが怪我をしたから……だから助けるのは当然です」

「だとしても、一番初めに俺を見かけたときに叫ばなかった。血のついた服を着た俺を見ても周りに助けを呼ばなかったのは俺のことを信頼してくれていたからじゃないのか?」

「そ、それは……」


口ごもる真夜を見て敦司はやっぱりそうだったんだなと確信をする。

それと同時に心なしか少し嬉しかった。

やはり真夜と自分の距離は縮まっているのだと思えて……。


「とりあえずそれでおあいこだ。もうこのことは忘れて明日のために今日はもう寝よう。現時点で外に出るのは危険だし、他のみんなに知らせるにしても明日にしよう。そのときに真夜ちゃんにもしっかりと話すから……嫌かな?」

「分かりました。明日の朝、みんなにこのことを説明しましょう。佐久間さんと一緒に、私も分かるところは説明しますから」

「ありがとう、真夜ちゃん。俺一人だとなんだか不安だったし、一緒に話してくれるなら安心できるな」

「いえ、私にはこれくらいのことしか出来ませんから……」


そんなことない、と否定しようとしてすんでのところで思い留まる。

このまま話していても真夜は自分のことを責め続けると思ったからだ。


――とりあえず真夜ちゃんを一度、寝かせた方がいいな。


敦司はベッドから出ると、シャワー室の方へと歩き始めた。

なんでも出せるならみなさん何を出しますか??

自分なら……意外に考えると難しいものですね笑

では、次回もお楽しみに!

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