record53 危機
それは階段に付着している、点々とした血の跡だった。
そしてその血痕は二階へと続いていた。
――この血痕……俺が降りてきたときにあったか?
訝し気に思いながらも敦司は自分の気のせいだと思い、考えるのをやめた。
それは敦司がずっと、階段の見える範囲にいたからだった。
誰かがそこを通れば絶対に自分の視界に入る。
そう考えたのだ。
そして階段を上り切った時だった。
敦司の目の前に人が立っていたのは――。
「さ、佐久間……さん……?」
「ま、真夜ちゃん! なんでこんな時間に……」
「血が……どうして……」
真夜は声を震わせながらもそっと腕をあげて指を差す。
その先には血の付着した服を着ている敦司が立っている。
――っ! 風間くんのことを調べていた時に血が付いちゃってたのか……まずい、このままじゃ誤解される!
少しずつ真夜との距離を詰めながらも敦司は誤解を解こうとする。
「真夜ちゃん、これは違うんだ。変な誤解をしないでくれ、頼む」
「で、でも……これは、佐久間さん、何が、あって……?」
「頼むから信じてくれ! 本当に俺は何もしてないんだ。それに何が起きたのか自分自身いまいち把握しきれていないし……とにかく俺は現場に出くわしただけで――」
「現場にって……やっぱり佐久間さんが……」
こちらを見ながらも一歩、また一歩と敦司から距離をとっていく。
真夜から見れば、服についている樹の血痕が余計に危険だという気持ちを煽ってしまっているのだろう。
あのとき不用意に現場に近付かなければ良かったと今更ながら敦司は悔やんだ。
でも、近付いて調べたことにより得られたものもいくつかあった。
そう考えるとあの行動自体には意味があったようにも思えるが……。
――まあどの道、今の状況をどうにかしないとまずいな……まだ叫ばれていないだけマシかもしれないがそれも時間の問題か。
ここで力を使って無理やり真夜のことを捻じ伏せることも一度は考えたが、出来ればそんなことはしたくなった。
これ以上男の人に関しての恐怖を植え付けたくなかったのだ。
でも他にいい案もなかなか思いつかない。
そう敦司が悩んでいる時だった。
廊下の奥の方で何かが光るのが見えた。
――なんだあれは?
そう感じた瞬間に嫌な予感が頭をよぎる。
考えてみればエントランスホールで樹が殺されて、その犯人は逃げたままなのだ。
そして二階へと続く見かけたさっきの血痕。
それを合わせて考えてみれば、あの二階へと続く血痕は樹との戦闘で怪我をした犯人のものだと容易に想像ができたはずだ。
そしてその考えに辿り着くことができれば、この近くに犯人が身を潜めていることも分かったはずだ。
――だとしてもいつの間に二階へと逃げてきたんだ?……いや、それより先に真夜ちゃんを!
まだ何も起きていないが、おそらく真夜か敦司が行動をとろうとした時にはどちらかの命が奪われるだろう。
それか時間の経過で相手が行動に出る可能性もある。
――だったら俺は……。
そう思った瞬間に叫ぶよりも先に真夜のことを突き飛ばしていた。
「真夜ちゃん、危ないっ!!」
「きゃっ!」
ヒュッ! 敦司が真夜を突き飛ばした瞬間に空気を切り裂く音が聞こえてくる。
「っ!」
痛い。おそらくどこか怪我をしたのだろう。
おそらくとは敦司自身、どこに怪我を負ったのか確認する暇がなかったからだ。
そのまま真夜へと駆け寄ると、相手から真夜が死角に入るように自分が壁になる。
「真夜ちゃん、急いで立ち上がるんだ! 早く! 急いで!」
「佐久間さん……なんで……なんで突き飛ばすんですか……私は、何もしていないのに……」
「何を言ってるんだ! 早く自分の足で立ち上がるんだ!!」
「信じていたのに……佐久間さん……」
真夜は状況が読み込めていないのか前に立ちはだかる敦司に怯えて震えていた。
敦司としては助けるために突き飛ばしたのだが、真夜は自分が狙われていることに気付いていないのか突き飛ばしてきた敦司に怯えていた。
――くっ! このままじゃまずい!
周りを見るが身を隠すような場所は見当たらない。
通路は真っすぐ奥へと続いていて、遮蔽物がないせいでここからじゃ恰好の的だ。
部屋に駆け込むとしても自分だけなら助かるがそれでは真夜ちゃんは助けられない。
――一体俺はどうすればいんだ!
そう思った時だった。
ヒュッ! 風邪を切る音がしたのは――。
更新遅れてすみません。
今回もお読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




