record51 敗北
この話はサイドストーリーです。
読まなくても本編に直接の影響はありません。
自分でも何が起こったのかよく分からなった。
唯一分かるのは自分がまだかろうじて息をしていて、意識があることくらいだ。
既に立っていることすら辛く、今は柱に寄りかかるようにして床に座っていた。
身体を起こそうと腕に力を入れるが、ピクリとも動いてくれない。
せいぜい頑張ったとしても、腕を少しだけ動かせるくらいまでに樹は衰弱していた。
「ははっ……こんなところで死ぬのか……ぐっ、はぁ……情けねぇな……」
すぐ近くまできている自分の死。
樹にとっては怖いというより後悔の念でいっぱいだった。
元の世界に置いてきてしまった彼女のこと。
やはりこれが一番気がかりなことだった。
自分が死んでしまったら誰が彼女の隣に居てやれるのだろうか。
「いや……あいつなら平気か……しっかりしてるもんな……そうだよな?」
暗いエントランスホールにぼうっと白い光が灯る。
樹が元の世界から持ってきた自分の携帯のディスプレイの光だ。
その画面を見ながらも、誰が答えを返してくれるわけでもないのにそう問いかける。
画面には自分と彼女が仲良く寄り添っている写真が映し出されていた。
二人とも笑っており、今まででとった中でも一番のお気に入りの写真だった。
「この時は楽しかったなぁ……はは、やっぱ死にたくねぇもんだな」
軽く苦笑すると、のどに詰まっていた血反吐が口元まで戻ってくる。
「ごほっ、ごほっ……最後くらいは声を聴きたかったな、綾香……」
段々と意識が遠のいていき、呼吸も少しずつ落ち着いていく。
もうそろそろ時間などだと嫌に感じさせられる。
――あと少しだったのにな……あと少しで元の世界に……。
携帯を持ち上げていた右腕が糸が切れたように床へと落ちる。
もう自由に体を動かすことさえできなくなっていた。
「……風間くん……!」
遠くの方で自分を呼ぶ声がする。
でも上手く聞き取れない。
出血がひどいせいで、既に聴覚までが機能しなくなっていた。
――こんな時に誰が……このことを知らせなきゃ……。
もしかして誰かが気付いてくれたのかもしれない。
だったら知らせなくてはいけない。
もう、すぐに帰れる手前まできているのだと。
そしてこの中に敵がいて、みんなが危険なのだと。
だがそこまで意識が持つわけがなく、樹は静かに息をひきとった。
初めの死傷者が出ましたね。
いや、出ましたねっていうか誰でもない作者が出したものですけれど……笑
次回は主人公の推理が始まりますので、お楽しみに~!




