record44 疑いのまなざし
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3/26~4/3までオーストラリアに出かけるので、更新ができません。
申し訳ありません。
次回の更新は4/4(月)の予定です。
あれから十分ほど経ってから敦司はようやく久遠の部屋に通してもらえた。
彼女の部屋には簡易試着室が何個か置かれており、他にもマネキンやらなんやらでいろいろなものが出されていた。
あの後、真夜に対して簡単に事情を説明したら一人部屋の中に入って行き、柚唯を落ち着かせてくれたのだ。
そして敦司は今、久遠の部屋の空いているスペースの床に座っているのだがさっきから隣からの視線がかなり痛い。
まるで腫れ物を見るかのような目つきで、さっきからずっと真夜に睨まれているのだ。
ちらっとだけ横を見ると、そこでちょうど真夜と目が合った。
すると真夜から鋭い一言が飛んでくる。
「あなたがそんな人だったなんて……私、見損ないました」
それだけ言うと、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
――あぁ、名前すらも呼んでくれなくなってしまったか……これはよっぽど嫌われてしまったかな。
そう思いながらも弁解の余地がないので代わりに困ったように笑う。
おそらく真夜が言っているのは敦司が柚唯の着替え途中を見てしまったことに関してだろう。
このままじゃ今までせっかく積み上げてきた信頼すべてが台無しだ。
それを見かねてのことか、柚唯が助け舟を出してくれる。
「あ、あの、真夜ちゃん? 敦司くんもわざとじゃないみたいだし、私が久遠ちゃんと勘違いをして駆け寄っちゃったせいもあるし……今回のは事故みたいなものだから仕方ないよ。その、敦司くんも気にしなくていいからね?」
やはりまださっきのことが照れくさいのか、ちゃんとはこちらを向いてはくれない。
まあ無理もないのだが。
「は、はぁ……なんか逆に気を使わせてしまってすみません。自分が悪いのに」
「わざとじゃないんだから仕方ないよ。それに真夜ちゃんなら分かってくれてると思うな。ね、真夜ちゃん?」
「私は別に……高宮さんがいいなら私は特には……」
柚唯の笑顔に対して、気まずそうに目線をずらす真夜。
どうにか柚唯のおかげでとりあえずはことが収まりそうだった。
そこで敦司は何か別の話題がないかときょろきょろと辺りを見回してみることにする。
すると、壁にかけてある可愛らしい服が目に入る。
「久遠さん、あそこにかけてある服って久遠さんがデザインしたんですか?」
「えっ? あ、そうだよー。本当はあれを柚唯に来てもらおうかと思ってたんだ」
「そうなんですか……確かに似合いそうですよね」
柚唯が着ているところを想像して素直な感想を述べると、久遠がそれに賛同してくる。
「敦司くんもそう思うよね! あたしも絶対に似合うと思うんだけなぁ。柚唯が恥ずかしがり屋さんだからさ」
「だって、私地味だし、そんな可愛い服は私には似合わないよ」
「着てみなきゃわからないって! それに敦司くんもきっと似合うって言ってくれてるんだしさ」
「うぅ……」
久遠と会話を交わしながらも、横目で柚唯がこっちを見てくるので「絶対に似合いますよ!」と言葉を送ってみる。
すると顔を赤くして、あわあわしながらも敦司から目を逸らす。
「ほらほら、せっかく敦司くんだってああ言ってくれてるわけだし着てみようよ! それと悪いけど、男の子は一旦部屋を出てもらってもいいかな?」
「あ、はい。勿論です」
そういって立ち上がると、急いで扉を開けて部屋を出ていく。
これ以上部屋に居座っていては、またハプニングに巻き込まれて同じようなことが起こると思ったからだ。
二度も見てしまったら、今度こそ絶対的に柚唯と真夜に嫌われてしまう。
特に真夜にだが……。
「それで、なんで真夜ちゃんまで俺と一緒に部屋を出てきてるんだ? 別に中に居ても女の子同士なんだからいいんじゃないか?」
自分の隣で立っている真夜に向かって問いかける。
すると真夜はムッとしたような表情をこちらに向けてきて返事を返してくる。
「もしかしたら高宮さんの着替え途中に、佐久間さんが部屋に入る可能性があるので私がここで見張っているんです」
「なっ! 完璧に信用されてないな……」
「当たり前です。人の着替え途中を見るなんて人間としてありえません」
「……確かに真夜さんの言う通り、ごもっともです」
不可抗力ではあるが自分が見てしまったことは素直に悪いと思っている。
柚唯が優しい人で助かったが、普通ならアニメみたいに吹っ飛ばされて気絶するところまでいっているだろう。
それを考えれば、かなり簡単に許してもらえた方だと思う。
まあ、なぜここまで真夜に怒られるのかはよく分からないが……。
そのまま数分間、真夜と一緒に大人しく廊下で待っていると扉が開いて久遠が顔を出す。
「今度こそ準備オッケーだよ! 柚唯が恥ずかしがって服を脱いじゃう前に早く見て感想をちょうだい!」




