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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第七章 序章
41/86

record41 密談

「えっ?」


予期しなかった質問に、再度敦司は驚かされる。

この言い方だとやはり樹は河西のことをあまりよく思っていないのだろうか?

確かに難がある性格だし、素直じゃないところもあるが信用が出来ないとはまた少し違うような気がする。

ところどころ怪しいと思う節はあるが、信頼が出来ないってほどのレベルでもない。

だから敦司としてはこの答えに対しては、YESだった。

けれどこうも直球で聞かれてはすぐに答えることはできなかった。


「ここからは自分の勝手な思い込みなので、確証はないんですが……河西さんはこの館から元の世界に帰るための意志が無いように思えるんです」

「意志、ですか?」

「はい、確かに表面上は進んで謎を解いたり、急に早く帰ると言ったりして行動はしていますが、もし本当に帰りたいと思うなら他の人にも協力するように頼むと思いませんか?」


樹の言うことは確かに筋が通っていた。

あそこまでしておいて謎を一人で解こうとするのは確かにおかしい。

それに河西が帰りたくないような表情をするのを敦司も時折見かけてはいた。

敦司がそのまま黙っていると、樹が口を開く。


「今、現時点では河西さんとぶつかっている人はいないですが、もし口論になったらどうなると思いますか? 例えば、帰りたいと自分が我儘を言ったとしたら……」

「それは……」


言いたいことは分かるが、どうなるかまでは予想が出来ず敦司は言葉に詰まる。


「じゃあ言い方を変えてみます。河西さんに対して自分が帰りたいと言って逆らったとしたらどうなると思いますか?」

「えっ……それはどういう意味ですか?」


敦司には、話の意図が全く読めなかった。

だから樹が説明を続けるまで待った。


「自分、思うんですよね。河西さんはあの三人と結託して何かを隠そうとしているんじゃないかって……」

「隠すっていったい何を? それに、あの三人って誰を指しているんですか?」

「笹川さん、伊吹さん、古宮さん、あの三人が河西さんと結託して隠していると思うんです。ルールを逆らった人たちがどうなったかを……」


樹にここまで言われて、ようやく言いたいことが見えてくる。

そして敦司は背筋がぞっとするような感覚に襲われる。


「考えてもみてください。ルールが出来たのって古宮さんが来てからですよね? そうなると前まではなかったってことになります。でもルールを作るっていうことはそれなりの経緯と理由があると思うんですよね。例えば誰かが言うことを聞かなくなって手に負えなくなったとか……」

「それってつまり……」


なんとなく予想はつくが言葉にしたくはなかった。

そしてここまで来てある疑問が浮かぶ。

一体誰が殺されたのか、という疑問だ。

その疑問に答えるように樹が口を開く。


「この館には部屋が十二部屋ありますよね? それなのに今いるのは全員で十一人。おかしいと思いませんか?」

「確かに変には思いますけど、それは初め部屋に置いてあった紙に書いてあった通り、自分たちを捕まえた連中の不手際じゃ?」

「佐久間さんはそう考えるんですね。でも自分にはそうは思えません。あんな紙、誰でも作れるとは考えたことはないですか? それに追伸と、とってつけたように書いてあった。それが意味することは……」


ここまで来て、樹の言いたいことがようやく分かる。

自分たちは初めから騙されていたと言いたいのだろう。

本来、この館には十二人ぴったり揃うはずだった。

けれど五人集まった時点で何かの事件が起きた。

そして他の七人が集まる前に、部屋に置いてある紙に付け足しの文を付け加えた。

考えてみてもありえない話ではないと敦司は思った。


「つまり今欠けている、その一人が……」


頭では理解しているのだが、口に出して言うことはできなかった。

それを代わりに樹が口にする。


「その一人が逆らった理由で殺された」

「で、でも、その一人が周りに暴力をふるって抑えられなくなったからって理由だったら!」

「正当防衛ってことですか?」

「そうです。もしそうなら仕方がないんじゃないですか!」

「確かにそれなら仕方ないですね。でも、それを自分たちに隠す理由って何ですか?」

「それは……」


ここまで来て敦司は言葉に詰まる。

でも敦司には一つだけ頷けない理由があった。

それは和奏がその四人に入っていることだった。

敦司がありえないと否定しようとしたとき、上の方から足音が聞こえてくる。

そしてその人物がこちらに気付いて、階段から声をかけてくる。


「そこで何を話しているんだい?」


樹の方を向いていたので誰だかすぐには分からなかったが、声で判断できた。

そしてその人物が誰か分かったとき、敦司はぞっとした。

後ろを振り向くのが怖い。

樹の表情も強張っていた。

それもそのはず、今話題に出ていた河西なのだから。


「いえ、特に何も。ただこの扉に関して話していただけで」


こちらに向かって歩み寄ってくる河西に対してできるだけ平静を装いつつも、初めの話題にすり替えていく樹。

それで運よく河西の気を逸らすことに上手くいったのか、こちらの話題にのってくる。


「扉の話? なにか分かったことでもあったのかい?」

「それが扉に文字が書かれていて……」


先ほど敦司に説明した通り、樹が河西へと説明を始める。

それをぼーっと脇から眺めながらも敦司は全く別のことを考えていた。

さっき樹が自分に話してきたことを――。


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