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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第七章 序章
40/86

record40 並外れた気配

けたたましい機械音が聞こえてくる中、少しずつ意識がはっきりとしていく。

敦司は音がする方向へと手を伸ばすと、軽く叩いて音を止める。

そのまま自分の方へと目覚まし時計を引き寄せた。

――まだ六時か。

大きくあくびをしてから布団をどかし、足を床につける。

そしてまだ眠い目を擦りながらもシャワー室へと向かう。

元の世界でも敦司の一日はこうして始まるのだ。

風邪をひかないように入念に体を拭いてから普段着に着替えると、早速食堂へと向かうために廊下へと出る。

一人で食事をするのも寂しいと思い誰かを誘おうとも考えたが、時間もまだ早いので一人で食堂へと向かう。

そして階段を何段か降りたとき、下の方で誰かが昨日問題になった、あの扉の前で立っているのが目に入る。

――ん? あれは風間くん?

何をしているのか気になって駆け足で一階まで降りていく。

そして敦司が近付いていくと、こちらから声をかける前に樹が振り返る。

その瞬間、樹からものすごい殺気を感じて敦司は恐怖で立ち止まってしまう。


「……佐久間さんですか。誰かと思いましたよ」


その言葉とともにすっとその雰囲気が引いていくのが分かる。

――やっぱりこの人は常人じゃないな。

喧嘩慣れしているとか、正直そういうレベルじゃないような気がする。

これでも本当に同じ高校生なんだろうか?

そんな気がしてならなかった。

そのことをできるだけ顔に出さないように気を付けて、こちらから話題を振ってみる。


「驚かせてすみません……それより、ここで何をしているんですか?」

「あっ、それが昨日開かなかった扉に何か書いてあって……自分も読んでみたんですがさっぱりで」


そういうと樹は扉の前から少し横にずれてくれる。

すると、扉の下半分には昨日書いてなかった文字がくっきりと映し出されていた。

『仲間外れにされたものは、その仲間に入れてもらうために姿を変えて、その後ろをついていく』

――仲間外れ? 何のことだ?

敦司も読んではみたが、樹の言う通りさっぱりだった。

何かの言葉遊びのようにも思えるが、自分じゃ解けないことは分かる。


「確かにさっぱりわからないですね。でも昨日の今日ってことは、この館から出るために必要な鍵なんでしょうかね」

「俺もそう思うんですよ。よく見てみると分かると思うんですけど……ここを見てみてください」

「ん?」


樹に言われた通り扉についているパネルを見てみると、昨日河西が入力した四桁の数字が入ったままになっていた。


「この四桁の数字に何か付け足せってことなんですかね? でも自分、頭は良くないんで分からないんですよね」


パネルを覗いている敦司の背後から、残念そうにする樹の声が聞こえてくる。

言葉から察するに、帰ることに執着心を持っているように思える。

確かに自分も焦る気持ちはあるが、彼ほど帰りたいとまでは思っていない。

何かこの館に不便さを感じているのだろうか?

疑問に思いながらもパネルから目を逸らし、樹へと視線を移す。

そのとき、樹がため息と一緒に「早く帰りたい」と呟いているのが偶然にも聞こえてくる。

敦司の視線に気付いた樹は軽く頭を下げてくる。


「すみません、不謹慎なことを言ってしまって……みんなそう思っても言わないように我慢しているのに」

「気にしなくても平気ですよ。それにみんながみんな帰りたいと思ってるとは限りませんし」


現時点では分からないが、実際に帰りたくないと思っている人の方が多かったのは事実だ。

だからそう思う人が居たとしてもおかしくはないと敦司は考えていた。


「ちなみに佐久間さんは帰りたいと思ってるんですか? それとも……」

「俺はどちらかと言えば帰りたい、ですかね? 元の世界にばあちゃんを一人残しているので」

「そうなんですか……それは確かに心配ですね」


敦司が深刻そうな表情をすると、樹も一緒になって賛同してくれる。

そして話の流れを読んでのことか、樹も理由を話してくれる。


「自分は元の世界に待たせている人が居て……待ち合わせ場所に向かっている途中にここに連れてこられたもので、ずっと待っていないか心配なんです。まあ、さすがにありえないとは思うんですけど」


樹にしては珍しく、最後の方は少しだけだが口元が緩んでいた。

おそらく待ち人のことを思い出しているのだろう。

敦司はもしかしてと思い、少し立ち入った話を振ってみる。


「もしかして、彼女さんですか?」

「えっ、ま、まあ、そうですね。自分のつれです」


少し戸惑いながらも、樹は頷いてくれる。

それからいつもの真剣な表情に戻ると、こう続けた。


「だから俺は出来るだけこの館から早く帰りたいんです。佐久間さん、なので自分に力を貸してくれませんか?」

「えっ? お、俺がですか!?」


突然の提案に敦司は驚きが隠せなかった。

こういう相談なら自分よりも、もっと他の人が適任だと思ったからだ。


「いや、でも俺はそんな知恵も力もないし……まだ河西さんとかの方がいいんじゃないですか?」


初めに頭に浮かんだ人の名前を挙げてみる。

それに河西ならこの館に一番初めから居るわけだし、自分よりかも遥かにここに関しては詳しいはずだ。

知恵だってあるし、みんなをまとめるくらいの力だってある。

だから自分に相談するよりかいいと思い、提案をしてみたのだ。

けれど樹は悩んでいるような仕草を見せる。

――風間くん、あまり河西さんのことを好ましく思っていないのかな?

あの性格だ。河西のことをあまり良く思わない人が居てもおかしくはないと思った。

だから別の人の名前を挙げようと考えたが、敦司より先に樹が口を開く。


「変な話かもしれませんが――佐久間くんは河西さんを信頼していますか?」

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