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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第五章 深まる友情
31/86

record31 誤解

――こうして見ると真夜ちゃんも結構いろんな表情をするんだな……。

急に亮太が男好きと言ったことにも驚かされたが、真夜がいろんな表情をとったことに対して敦司は目を引かれていた。

そして自分しかそんな一面を見ていないと思うと、少し得をしたような気になる。

敦司がそのままうわの空でいると、真夜が心配したような表情で話しかけてくる。


「どうかしましたか?」

「あぁ、なんでもないよ! それより話が脱線しちゃったけど、真夜ちゃんはなんで芹沢くんが嫌いなんだ?」


少々無理やり気味だが敦司が話題を戻そうとする。

このまま追及されたら自分の立場が危うくなると思ったからだ。

真夜は特に気にした様子もなく、敦司に従い理由を話し始めた。


「嫌いというわけじゃないんです。ただ芹沢さんの雰囲気が苦手というか……」

「雰囲気が? 別に何かされたってわけじゃないんだよな?」

「はい、そうなんですが……上手く説明はできないんですがやっぱり苦手なんです」


自分の返事に煮え切らなさを感じたせいか、最後は俯いてしまった。

でもなんとなくだが、敦司にもその気持ちは理解できた。

確かに亮太には関わりづらいところがある。

自分に対して敵意をむき出しにしているところを除いたとしても、とっつき難さがあるような気がするのだ。

――でもなんであんな奴と和奏は一緒に居るんだろうか?


「真夜ちゃんの気にしすぎだよ! 話してみれば分かるけど結構優しいし、いい人だよ!」


食堂に黄色い声が響いたかと思うと、入り口付近に久遠が立っていた。

そしてその隣に、並ぶように柚唯も一緒に居た。

敦司が顔を上げると、久遠が続けて口を開く。


「あっ、誰かと思ったら敦司くんだったんだ! 和奏ちゃんかと思ったんだけどどう見ても男の子だったから誰かと思ったよ」


まあそれはそうだよなと、心の中で久遠に同意する。

自分でも真夜が他の男の子と一緒に居れば素直に驚くだろうし……。

そのまま敦司も真夜も黙ったままでいると、柚唯が話しやすいように話題を作ってくれる。


「私は久遠ちゃんと話をして、ちょっとお腹が減ったから何か食べようってなったんだ。それで食堂に降りてきたんだけど、敦司くんたちは?」

「俺はパーティーの時にあまり食事が取れなかったんで何か食べようと思って食堂に来て、その後に真夜ちゃんが忘れ物を取りに来て会ったって感じですね」


次いでなので自分のことと一緒に真夜のことも説明をしておく。

すると久遠が「ええっ!?」と驚いたような声をあげた。

……あれ? 俺はそんなに変なことを言っただろうか?

さっき自分が言ったことを思い返してみてもそんな変なことは言ってないように思える。

敦司が考えを巡らせていると、柚唯が説明をしてくれる。


「えっと、多分なんでこんな時間に食事を取るのかなって久遠ちゃんは思ったんだと思うな」


柚唯に言われてみてさっき部屋で出したばかりの腕時計に目をやると、針は一時近くを指していた。

――うわっ、もうこんな時間かよ!

確か自分が部屋を出ようとしたのが十一時近かったから、それから和奏と会って……。

計算してみると、意外にも真夜と結構話していたことが改めて分かる。

それを説明しようと敦司が口を開けかけた時、真夜が既に喋り始めていた。


「私たちがここで会ったのが今からかなり前なので、実際はそんなに遅い時間ではなかったと思います。なので少し遅い朝ごはんという感じだったと思います」

「なーんだ、そうなんだ。てっきり今頃朝ごはんを食べに来たんだと思ったよ」


てへへと頭を掻きながらも「あたしの勘違いか」と笑う久遠。

まあ敦司のあの言い方では、勘違いをして無理もないと思うが……。

その後久遠たちに誘われ、敦司と真夜は食堂に留まることに決めた。

真夜は初め部屋に戻ると言っていたが久遠に上手くいいくるめられ「少しだけなら」と結局は一緒に居ることになった。


「そういえば真夜ちゃんはここで、敦司くんと何をしてたの? さっき、もっと前に会ってたって言ってたけど」


久遠が疑わし気な目つきで、食べ物をテーブルに置きながらも興味津々という感じで真夜に迫っていた。

男女の仲で何かあったのではないかとおそらく期待をしているのだろう。

すると「私も気になるなぁ」と柚唯も椅子に座りながら話題に入ってくる。

――女子ってこういう話題がやっぱり好きだよな……浩介は例外として。

そんなことを思いながら、目を輝かせている二人の期待を見事に打ち砕いていく敦司。


「残念ながらお二人が期待しているようなことは何もありませんよ。ただ話をしていただけです」

「えぇー、つまらないなぁ! 大人しい真夜ちゃんが敦司くんと喋ってたから絶対何かあると思ったんだけどな」

「私もそれは少し考えたんだけど、敦司くんがこの館に来たのが昨日だからよく考えてみるとありえないかなって思ったよ」

「いや、絶対に何かあるよ! ここは敦司くんじゃなくて真夜ちゃんに聞くべきだって! で、真夜ちゃん、どうなの?」

「だから、真夜ちゃんに聞いても変わらないですって……」


少しあきれ気味に笑いながらも久遠を止めるが、敦司を無視して真夜に対して久遠は探りを入れる。

柚唯の方を見てみると、困っているのか微笑を浮かべていた。

――まあ嘘はついてないし、結局は同じ結果になるんだよな。

そのまま視線を動かし真夜の方へと視線を向けると、久遠の勢いに対して少し引き気味だったが淡々と説明をし始めた。


「佐久間さんに俺と付き合ってほしいと言われたので、いいですよと返事をしただけです」

「そうそう、そのとお……ん?」


……その発言は何か嫌な予感がするぞ?

確かに間違ってはいないし、自分から誘ったのも事実だ。

けれどいろいろと誤解をされそうな言い方だと思うのは俺の気のせいか?

そんな敦司の不安をよそに、真夜が言葉を続ける。


「そしたら佐久間さんが付き合ってくれてありがとうと……」


口では、ああ言っていたが実際のところは久遠も言うほど本気には思っていなかったのだろう。

そこまで真夜が喋ったところで、久遠は驚きに目を見開いていた。

隣では柚唯も信じられないという表情をしている。

――まあ普通はそうなるよな。

敦司としてもこれはもうどうしようもないと首を横に振ることしか出来なかった。


「あの……私、そんなに変なことを言ったでしょうか……?」


約一名、真夜だけはなぜみんなが急に黙ったのか分からず首をかしげていた。



あれから一時間ほど経ち、敦司は久遠たちと別れて自分の部屋に戻ってきていた。

そして椅子に座りながらもはぁと深いため息をつく。


――なんかこの館に来てから変なトラブルに巻き込まれてばっかりだな。


あの後真夜の言葉で生まれた変な誤解を解こうとしたのだが、なかなか骨が折れる作業だった。

真夜は自分の言った意味が分かった途端に否定するのではなく黙りこんでしまい、そのせいで余計に勘違いをされて無理に聞き出してごめんねと久遠が謝りだす次第。

まあ柚唯だけはまともに取り合ってくれて一緒に誤解を解いてくれたのだが。


――でも真夜ちゃんが彼女か……。


なんとなくだが少しだけそんなことを考えてみる。

最初は不愛想であまり関わりたくないと思っていたが、仲良くなってみるとそれなりに話しやすいし可愛らしいところがあると思った。

だからもし、真夜が彼女でも意外にいいかもしれないと密かに心の中で敦司は思っていた。


――とは言っても、もうそろそろ帰る時間だもんな。


部屋の掛け時計に目をやると、既に三時を回ろうとしていた。

残りは五時間ほど。そう思うと、もう少しだけこの館に残ってみんなと遊んでみたかったという思いに駆られる。

そこであの時、久遠たちについて行けば良かったなとふと思う。

誤解を解いた後、久遠と柚唯はまたお菓子作りに挑戦をするみたいで敦司と真夜もやってみないかと誘ってきたのだ。

けれど真夜は帰る支度があるのでと誘いを断り、先に部屋に戻ってしまった。

それにつられるように、敦司も勢いで断ってしまったのだ。


――まあ、今更考えても仕方ないよな。俺は俺でやることをやるか!


片手にタブレットを持ち、もう片方の手にはペンタブを持つ。

これが、この館で一度はやってみたいことだった。

元の世界では値段が高く、なかなか手に入らないがこの館では手に入る。

漫画を描く上で一度は手にしてみたかったものである。

他の人から見たら夢がないと思われるかもしれないが、敦司にとって一度は使ってみたい代物だった。


――これだけ器具が揃っていればきっと素晴らしいのが描ける!


そう思い、敦司は机に向かうのだった。

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