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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第五章 深まる友情
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record28 黒い影

「さーて、何を食べようかな……」


一人階段を下りながらも、敦司は何を食べようかと考えていた。

もうお腹が減りすぎて、正直動きたくもないくらいだった。

それなのにわざわざ敦司が部屋で食べず食堂へと向かっている理由、それはただ一つ。


「誰か食堂に居たりしないかな」


そう、一人で食べるのがなんとなく寂しいからだった。

本当は和奏を誘おうかとも思ってはいたのだが「今から食事をしよう」とも言いにくかった。

それに亮太が和奏を呼びに来たという理由もあった。

和奏と少し立ち話をしていたら、亮太がちょうどよく話題に割り込んできて挙句の果てに用事があるからと和奏を自分の部屋へと連れて行ってしまったのだ。

――聞かないとは言ったけど、やっぱり和奏とあの亮太っていう人の関係が気になるな……。

なんだか後ろ髪を引かれる感じだったが、約束通り考えないようにと頭から追い出そうと努力をする。

考えても全て悪い方向にしか想像できなかったからだ。

それに敦司としては悔しいが、あの二人はお似合いだとも思っていた。

髪をくしゃくしゃと掻き毟りながらも、階段を下りていく。

そのまま一階に着くと食堂へとまっすぐ向かう。

――さあ、誰かいるかな?

居てほしいなと願いながらも扉を開くと敦司の願いに答えるように居た。

自分から見て右側の中間あたりに、椅子には座らずに立ち尽くしていた。

でもそれは人と呼べるものではなかった。

じゃあなんだ?と聞かれても答えようがない。

人のような形はしているのだが、人ではないのだ。

人の形をした黒い影と呼べばいいのだろうか、その何かがこちらを向いていた。

まるで敦司が来ることを予想していたかのように――。

――な、なんなんだあれは!?

咄嗟の出来事に驚きながらも少しずつ後ずさりを始める。

――嘘だろ……俺がおかしいのか……?

自分が疲れている可能性を考えて目を擦ってから、もう一度確認をする。


「あ……あれ……?」


口から吹抜けた声が出てくる。

さっきまでいた、その何かが今はもう居ないのだ。

――俺の見間違えなのか……?

呼吸を落ち着かせながらも、念のために食堂の扉を閉まらないように工夫をしてからそっと中へと足を踏み入れる。

中の雰囲気や装飾品に変わった様子はなく、今日の朝と同じだった。

敦司は周りに気を張りながらも、その何かが居たところまで歩いていく。

だが別段と変わったところもなく、そこもいつも通りだった。

――俺の見間違えなのかな……そんな隠れるような場所もないし。

食堂はいたってシンプルであるのは食卓と椅子、それと装飾品だけだ。

それに人が隠れるようなスペースなどこの食堂にはなかった。

最近いろいろなことがありすぎて疲れてるのかな、と思いながらも敦司は胸をなで下ろした。


「あの……佐久間さん、何かあったんですか?」

「えっ?」


安心した瞬間に声をかけられたものだから驚いて急いで後ろを振り向く。

それに対して声をかけてきた相手は敦司が急に行動をとったことにビックリして身を縮めていた。


「ま、真夜……ちゃん?」


声をかけてきた人物の正体は真夜だった。

背が小さかったし、首にチョーカーをつけているので誰だかすぐに判別できた。


「その、ごめんね。驚かせちゃったかな?」


真夜の緊張をほぐそうと敦司は必死だった。

おそらく敦司が急に振り向いたせいで、何かされると勘違いをしたのだろう。


「い、いえ……平気です。急に声をかけた私も悪いですから……」


肩を強張らせてはいるが、意外にもすぐに言葉が返ってきたので敦司としては少し安心できた。

――パーティーの時に話したから、ちょっとだけ慣れてきてくれてるのかな?

そんな淡い希望を抱きながらも真夜にそっと話しかける。


「そんなことないよ。声をかけてくれたのは逆に俺としては助かったよ。一人で食事をとるのも寂しいなって思ってたところだしさ」

「食事、ですか?」

「そうそう、みんなのところに乾杯をしに行ったり、グラスの片付けとかで結局朝食をあまり食べれてなくてね。だから食堂で何か食べようと思ってここに居ただけだよ」


頭をかきながらも参ったと笑ってみせる。

黒い影のことを話そうとも思ったが自分の見間違えの話をしたところで恥ずかしいだけだし、逆に真夜のことを怖がらせてしまうと思ったことからの、敦司なりの配慮だった。

だからあえて食事の話をふったのだ。

それにあながち食事をとりに来たのも嘘ではないし、それが本来の目的だったという理由もあったからだ。

真夜は別に疑う様子もなく、納得した表情を敦司に向けてくる。


「そうですか……食堂の扉が開いたままだったので何かあったのかなと……」

「あー、それはここの空気が悪かったから換気しようかと思ってさ」


これは完璧に嘘だ。

そしてこれ以上何か言われても困ると判断した敦司は真夜に対して違う話題をふってみることにする。


「それより真夜ちゃんはなんで一階に降りてきたの? 何か忘れ物?」

「はい、これを忘れて……」


そう言うと自分の座っていた席のテーブルの下から手帳をとってくる。

女の子が持っていそうな可愛らしい手帳だ。


「友達から貰った手帳で……ポーチの中から知らない間に落ちていたみたいで」

「へー、それじゃあ大切にしなきゃな。でもそれを探しに来たってことは別に食事をしに来たわけじゃないってことか」


一緒ではなくても食べに来たのかと思っていただけに残念だった。

考えてみれば、人見知りの真夜がわざわざ部屋から出てくることはまずない。

食事なら部屋のモニターから頼んで食べればいいのだからここまで足を運ぶ必要もなかった。

――やっぱり一人で食べるのか……なら部屋に戻ってから食うか。


「あの……もしかして、一人で食事をするのが嫌なんですか?」

「ん? そりゃ、一人じゃなんとなく寂しいしな」

「じゃあ、飲み物だけなら……」


敦司から視線を外し、俯きながらも小声でそう伝えてくる真夜。

一瞬何かの聞き間違えかとも思ったが、真夜の様子から予測ができた。

一生懸命さがなんとなくだが伝わってきたのだ。

人見知りな子が思い切って一緒に居てくれるというのだ、断る理由もない。

だから敦司は精いっぱいの笑顔で「付き合ってくれてありがとう」と真夜に向かって返事をした。


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