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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
サイドストストーリー 相原 浩介編(2)
27/86

record27 心配

この話はサイドストーリーです。

読まなくても本編に直接の影響はありません。

「なーんかみんな、口数が減ったよな」


浩介は自分の部屋で寝っ転がりながらもなんとなく呟いてみる。

食堂で解散となった後、こそこそと喋っている人達は居たがいつもの楽しそうな雰囲気ではなかった。

帰りたくないという不満がやはりあるのか……まあ、あったとしても公には言えないから耳打ちで喋っていたのだろう。

――敦司とか和奏ちゃんはどう考えてるんだろ……やっぱ帰りたいのかな。

敦司が祖母を大切にしていたのは知っていたし、和奏は敦司が帰りたいと思うならそれに同意するはずだ。

要するにあそこは浩介の頭の中では二人で一つみたいなものだった。

だから帰りたいと思っていてもおかしくはないと考えていた。

――つっても、そういえばあの二人は今、仲が悪いんだっけ……?

パーティーの時のあの一連をふと思い出す。

あれを見て仲がいいとはお世辞でも言えない。

でもこのまま元の世界に帰ってしまったら、いざこざは残ったままになってしまうのだろうか?

答えは火を見るよりか明らかだ。

敦司の親友の身としては、そんなことにはなってほしくなかった。

――やっぱ仲直りはしてほしいよな……仕方ない、俺が一肌脱ぐか。

そう思い、これまであの二人が争ったことがあるかを思い出してみることにする。

それを頼りに仲直りさせる方法を見つけ出そうと考えたのだ。

けれど、いくら記憶を辿っても和奏が原因で喧嘩に発展したことが思い当たらない。

まあ、自分も付き合いが長いと言っても中学からのことなのだが……。

――だとしても一度くらいはぶつかったり、意見が食い違ったりとかあるよな……?

浩介と敦司にだってあったのだ。

だから自分よりも付き合いが長い敦司と和奏なら余計にあってもおかしくはないはずだ。

それでもないのなら、どちらかが我慢していることになる。


「…………」


浩介の目線からだが、おそらく耐えているのは和奏の方だろう。

何かあったらすぐに謝るような子だ。

そんな気が弱い和奏が原因とは考えにくい。

だとしたら、今回は今までのストレスが原因で――。


「そんなことないよ! あっくんは……」


――ん?和奏ちゃんの声か?

廊下の方から微かだが、和奏が敦司の名前を呼んでいるのが聞こえてくる。

何かと思い、浩介は自分の部屋の扉に耳を当て和奏と敦司のやり取りに集中する。

そのまま少しの間、聞いたままでいると仲直りしたような雰囲気がこちらにも伝わってきた。

――なんだ、俺が介入するまでもないか……。

特に理由もないのに軽い笑みがこぼれる。

他人事だがまるで自分のことのように思えてほっとしたのだ。


「あぁ、でも俺ってほんとは他人のことを心配している余裕なんてないんだよなぁ」


はぁと深いため息を吐きながら部屋の鏡を覗いてみる。

我ながら上手い笑顔を作れているものだ。

そう、自分の姉、まどかが失踪したあの日から――。

自分がまだ中学二年生だった時、あの日は確か浩介の誕生日、七月の十六日だった。

あの頃は友達も少なく、一人でいることが多かった。

だから周りはみんな自分のことを空気みたいに扱っていた。

学校ではいつも一人で端の方で大人しくして毎日をやり過ごしていた。

けれど浩介の心を一番酷くえぐるのは学校という存在ではなかった。

唯一、心を許すことのできるはずだった家族だった。

まどかは頭がよく、性格も明るく、本当に何でもできる女の子だった。

だから親からはよく比較されていた。

なぜこんなにも兄弟で違うのかと……本当は血が繋がっていないんじゃないかと。

そんな毎日を繰り返していると段々と自分の生きている意義が見いだせなくなってきて、自暴自棄になってくる。

けれどそんな自分にも優しく接してくれたのは姉のまどかだけだった。

いつもいつも何かを失敗するとまどかがすべてを庇ってくれた。

すると周りは「仕方ない」で済ますのだ。

なんでもできる子はたまに失敗しても簡単に許される。

それが浩介には許せなかった。

どうしてこんなにも自分と姉じゃ待遇が違うのかと……。

どうしようもない怒りをぶつけたくても、弱い自分はすぐに負けてしまう。

そう考えるとまどかに対してその怒りがすべて向く。

それは間違っていると自分では分かっていた。

けれど考えていると、いつもある結論に辿り着く。

もし姉さえ居なかったら……もし自分だけだったら――。

その気持ちから不意に口をつくように言葉が出てしまったのだ。

いつも優しくしてくれるまどかのことは自分もすごく慕っていたし、唯一の存在を失いたくなかった。

だからあんな言葉を言うはずもなかった……。

毎年のように誕生日が来るとまどかは自分にプレゼントをくれる。

ただ今年だけはそれがなかった。

その代わり次の日の夜に浩介の部屋にまどかがやってきた。

そして話をしようと持ち掛けてきた。

だがその時親に嫌味を言われた後だったし、機嫌が悪かった。

だから言ってしまった……絶対に言ってはいけなかったのに……。


「浩介……その、もう過ぎちゃったけど浩介への誕生日に何をあげようかお姉ちゃん、考えててね。それで……」

「うるさい、うるさい!どうせお姉ちゃんまで俺を見捨てたんでしょ! もう俺に近づくな!! プレゼントなんて要らない……みんな俺が嫌いなんだ。お姉ちゃんがいなくなれさえすれば、それが一番俺にとって幸せなんだぁ!!」


この時浩介の心は乱れるまでに乱れきっていた。

心もズタズタに引き裂かれていた。

言われたのだ、お前がいなくなればまどかが幸せになれると。

確かに俺が足を引っ張っていたのかもしれない。

けどどうして? なぜ?

どうしてみんな自分を責めるのだろう。

そんな感情が混ざって、頭の中はぐちゃぐちゃだった。

限界が近かった。

けれどまどかは浩介の言葉に笑顔で答えてくれた。

でもたった一言だった。


「……そうだよね」


それからまどかは浩介の部屋から出ていく。

すぐにでも自分が言った言葉を取り消したかった。

そんなことは思ってないよって言ってあげればよかった。

でもそんな勇気は自分にはなかった。

だからただ呆然と見ていた。

その日からまどかは一度も家には帰ってこなかった。

それから一週間が経ち、あの失踪事件がニュースで話題となった。

親はまどかを失ってから、死んだ屍のようになった。

それから忘れたいの一心で親は引っ越を決めた。

その時自分は思った。

せめてもまどかへの償いとして、彼女の誕生日、五月二十九日だけはプレゼントを置きに来る。

そしてあの明るい笑顔と性格は自分が受け継ぐと――。


「あれ……笑わなきゃいけないのに……」


鏡の前の自分は涙を流しているように見える。


「あぁ、くそっ!」


力任せにガラスへと自分のこぶしを叩き込む。

ぱりんと言う音とともにガラスが砕け散る。

――あぁ……俺はまだこの館から帰れない……帰りたくないんだ……。

そのまま力が抜けていくかのように、ずるずると床へへたり込む。

浩介はこの館に何かあると感じていた。

もしかしたらこの館にまどかが居るのではないかとまで思っていた。

その根拠は自分が捕まる前に話をした、あの謎の男との会話から思ったのだ。

まどかがこの事件に関与していると。

だからなんの収穫もなしに帰ることを浩介は願っていなかった。

――何としても必ず……必ず姉ちゃんを救い出すんだ!

この時、実は敦司には教えて浩介に対してだけ河西が伝えてないあることがあった。

それがあとで大変な誤解を生むことになると、誰も知る由もなかった。


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