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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第四章 安らぎのひととき
20/86

record20 乾杯

目の前のテーブルには、豪華な食べ物がたくさん並んでいた。

いろんな種類をみんなで分けて食べられるように配慮してあるのか、オードブルに七面鳥の丸焼き、他にも果物やケーキまで準備されていた。

館にいる十一人全員が元いた席に着くと、河西が一人席を立ちグラスを持ち上げる。


「みんな飲み物は準備できたみたいだね。食べ物もこれだけあれば十分だね。では……新しい家族、敦司くんが来たことを祝って……乾杯!!」


『乾杯!!』


河西がグラスを高く持ち上げ、音頭をとるとみんながそれに続いて立ち上がり声をあげる。

そのあとはみんな各自食べ物をとったり、話したりとバラバラに行動をとり始めた。

――さてと、俺も何か取りに行くか。

さっきの和奏の言動がまだ引っかかってはいたが、気にしていてもしょうがないと自分に言い聞かせ、食べ物を取りに行くために立ち上がる。

するといつの間にいたのか、浩介が傍に立っていた。


「敦司くんよ、乾杯!!」


敦司が浩介の方へ振り向く前にグラスをぶつけてくる。

そのせいで飲み物を零しそうになるがうまくグラスを傾け、器用に落ち着かせる。


「お前なぁ……急にやったら零れるだろ」

「ははは、ごめんごめん」


敦司に軽く注意された浩介はまったく悪びれた様子もなく、肩をすくめる。


「いやー、でも元気なかったからさ。少しくらいは刺激が必要かと思ってね」

「もっと他に慰め方ってものはお前にはないのか……」


口ではそうは言いながらも、心の中では浩介の気遣いに敦司は薄々気付いていた。

だから言葉で言わなくとも、浩介に対しての敦司の表情はにこやかだった。


「俺には男への優しさは備わっていないのさ。それより、新しいお客さんを相手してやったらどうだ?」

「お客さん?」

「そうそう、今日の主役は敦司だからな~」


浩介の言っている意味がいまいちわからないまま、彼の見ている方向へと目を向けるとグラスを持った柚唯と久遠、それに翔も一緒に立っていた。

みんな敦司と乾杯を交わすために集まってきてくれたのだろう。


「わざわざ、ありがとうございます」

「そんなお礼なんていいのに~! それよりかんぱーい、敦司くん!」


カチンという音とともに、久遠のグラスが敦司のグラスに当たる。


「あれ、ジュース飲んでるんだ? 酎ハイとかビールとかもあるのに敦司くんはノリが悪いなぁ~普通なら隠れてもうお酒とか飲んでる歳じゃない?」

「いや、だってまだ未成年ですし……それにお酒はちょっと」


そこまで喋って、危うく要らないことまで話しそうになって敦司は口を閉じる。

実のところ小学六年生の頃に、祖母に隠れてお酒を飲んでみたことがあったからだ。

ただあまりに苦すぎてそれ以来ビールや酎ハイなどアルコール系全般が嫌いになってしまったのだ。


「んー……でももう高校生なんだし、柚唯なんて大学生でしょ? 少しくらいなら飲んだりしてるんじゃない? ね、柚唯、翔くん?」

「私は大学生って言ってもまだ一年生だし、未成年だから飲んだりはしないかな……」

「自分もあんまり飲んだりはしないですね。飲み会とかもありますけど、お酒には弱いほうなので行ったりはしませんし……」

「えぇ~……みんな冷たいなぁ」


みんなに断られた久遠は納得いかなそうにいじけて見せるが、敦司の後ろに浩介が居ることに気付くと、また笑顔に戻る。


「もちろん、浩介くんは飲んだことあるよね?」

「そのー、ま、まあ、ないことも……ないですけど……」

「よし、じゃあ今日は飲むしかないよね? 飲み物追加、貰いにいこー!」

「ちょ、ええ!? 久遠さん!?」


そのまま肩に手を置くと、浩介を後ろから押すようにして連れていく。

――ああ、浩介、お気の毒に……。

そう思いながらも哀れな視線を浩介に向けていると、柚唯が隣から声をかけてくる。


「久遠ちゃん、あんなこと言ってるけど実際のところは平気だと思うよ?ああ見えて、結構しっかりしてるし、ちゃんとみんなのこともよく考えてくれてるから」

「ああ、いや別に久遠さんをそんな目で見てるってわけじゃなくって……ただ、毎日がこんな感じだと楽しそうだなって思って」


捕まる前の世界でも祖母との二人きりの食事だったわけで、いつもさみしくはあった。

別に祖母のことが嫌いというわけではなかったが、たまにはこうして大勢で囲む朝食もいいなとふと思ったのだ。

すると、翔も同じことを考えたのか話題に入ってくる。


「確かにその気持ちは僕も同感かな。初めは河西さんと二人きりで正直恐かったけど、そんなに悪そうな人でもないし……少し変わった人がいるけど、賑やかで楽しくて、自分は結構気に入ってはいるかな」

「笹川さんはこの館に二番目に来た人でしたっけ?河西さんと二人きりで居たのに、恐いで済ますことができる笹川さんが正直羨ましいくらいですよ」


自分なら気が狂ってどうにかなってしまいそうだな、と想像して思わず笑みがこぼれる。

柚唯もくすぐったそうに笑いながらも、敦司に続く。


「私も、初めあったときは河西さんって怖そうなイメージしかなかったけど、今は優しい人だなって思ってるかな」


みんな思い思い河西へのイメージがあるのだろうが、最終的にはやはり悪い人とまでは思われていないみたいだ。

さすがこの館の指導者を名乗ることだけのことはある。

敦司が一人感心していると、翔が思いついたように話題を振ってくる。


「そういえば、今更だけどまだ僕たちは乾杯をしていなかったよね」

「あっ、本当だ。このまま忘れちゃうところだった……少し遅くなっちゃったけど、これからもよろしくね、敦司くん。乾杯!」


柚唯の音頭を合図にカチンとグラスがぶつかる音が再度響き渡る。


「僕からもこれからよろしく頼むね、敦司くん」

「はい、ありがとうございます! こちらこそよろしくお願いします!」


敦司は二人に対してできるだけいい笑顔を向けようと努力をする。

この二人とはこれからやっていく上で、仲良くできそうだと思ったからだ。

翔はにこっと笑って、それから「僕のことは笹川じゃなくて翔でいいよ」と付け加えるように言う。

それからは各自、何か食事をとりに行こうという流れになってみんなが個々で散らばり始めた。

自分も何かをとろうと思い、食べ物が見やすい食堂の中間あたりへと移動を始めたのだった。

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