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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第一章 いつもの朝
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record2 帰り道

全ての授業が終わって、学校を出ようと校門へと向かう。

そこにはいつものように和奏が敦司のことを待っていた。

なにか用事がない限り、こうしていつも一緒に下校をしているのだ。

逆にどちらかが用事があるときは、事前に連絡をすると約束になっていた。


「お待たせ、和奏。じゃあ帰るか?」

「うん!」


学校を出てからの帰り道、二人で並んで歩きながらもいつものように和奏が話しかけてくる。


「来週ね、私のお父さんの誕生日なんだ。だから何か買ってあげたいなって思うんだけど、あっくんも一緒にプレゼントを選んでくれないかな?」

「別にいいけど、俺そういうのには結構鈍いぞ?」

「そんなの知ってるよ、あっくんが鈍いのは今に始まったことじゃないし」

「おいおい、確かに自分で言ったことだが人を鈍感の塊みたいな言い方はするなよ」

「するなよって、あっくんは鈍感だよ……私の気持ちにも気付いてくれないし……」

「ん? なんか言ったか?」

「な、なんでもないよ!」


顔を真っ赤にしながらもそっぽを向く和奏。

そんなに怒るようなことを俺は言っただろうか?

不思議に思いながらも、どう慰めればいいか分からなかった敦司はとりあえず元の話へと戻そうと試みる。


「それで、行くのはいつ頃になりそうなんだ?」

「……今週の土曜日、かな?」

「土曜か……すまん、その日はバイトがある。次の日の日曜日なら空いているけど、それでも平気か?」

「うん、大丈夫!」


さっきまでそっぽを向いていた和奏は急いで振り向くと嬉しそうにコクリと頷く。

もし彼女にしっぽがついていたならブンブンと勢いよく振っていそうな勢いだ。


「そんなに嬉しいのか? 俺がついていくだけだぞ……まあ、荷物くらいならもってやるけど」

「別に、あっくんに荷物を持って欲しいから頼んでるわけじゃないんだよ?」

「ほぉ、じゃあそれ以外の理由があるってことかい。是非聞かせてもらおうか?」


敦司はわざと声のトーンを変えると少し意地悪く聞いてみる。

どうせくだらない理由が返ってくるとは思っていたが、下校中やることもないので少しからかうつもりで振ってみたのだ。

けれど予想とは裏腹に返事は帰ってこず、それどころか和奏の動いていた足がピタリと止まってしまう。

それも突然のことだったので、敦司の方がガクッと前のめりの形になってしまう。

和奏の方を振り返ると、地面をじっと見つめる感じになっていて表情がよく読み取れなかった。


「おい、和奏? 別に答えたくなかったら答えなくてもいいんだぞ? それともあれか、図星だったのか?」


やっぱりそうか、と冗談交じりに言ってみるが和奏からの反応がない。

さすがにおかしいと感じた敦司は回れ右をすると、和奏へと近付いていく。

そしてようやくある異変に気付く。

それは妙に体全身に力が入っているのか、彼女の身体が強張っていたのだ。

――何かに怯えている?

顔の表情は見えなくても、肩が震えているので何かに恐怖を感じているのはすぐに分かった。

「おい、和奏? 大丈夫か?」

心配をして、声をかけるが返事が返ってこない。

今度は和奏の前に出て、肩を揺らしながら、さっきよりも少し大きめな声で問いかける。

「和奏、どうしたんだよ! 大丈夫なのか!?」

するとようやく敦司の言葉が届いたのか、震える声で返事が返ってきた。


「だれかに……つけられてる、気がする、の……」

「えっ?」


和奏の言葉を聞いて、敦司はあたりを見回した。

すると、目の端の方で何かが動いたのが見えた。


「っ! 誰かいるのか!?」


敦司が叫ぶと、人影らしきものがサッと身をひるがえして逃げていくのが見えた。


「くそっ! 逃がすかっ!!」


敦司はその人影を追うことに決め、走ろうとする。

だが、和奏がその腕をつかむ。


「行かないで、あっくん」


懇願するように目をこちらに向けてくる。

まるで昔のあの時のように―――


「昔はまだ幼かったから怪我で済んだけど、今はもう子供じゃないんだよ! あっくんに何かあったら……わたしっ!」


和奏は今にも泣き崩れそうだった。

そんな和奏を見て、敦司の頭の中を昔の記憶がよぎる。

それはまだ敦司が小さい頃、小学生くらいだった時のことだろうか。

近くの公園で和奏と遊んでいると、同じクラスのやつらが冷やかしに来た。

初めのうちは無視を通していたが、それは毎日のように続いた。

そして冷やかしは、どんどんエスカレートしていった。

ある日、いつも通り公園で和奏と遊んでいたら、冷やかしていたやつらのうちの一人が言葉だけでは足りず、石を投げてきたのだ。

そいつらも別に狙ってやったわけでなく、ただ面白半分にやっただけなのだろうが、投げた石が和奏に当たったのだ。

不幸中の幸いか頭には当たらず血が出る程度で済んだが、敦司にとっては石を投げる行為が許せなかった。

その上謝りもせず、逃げ出したのだ。

そのことに対して怒りを抑えきれず、そいつらを追ってまで喧嘩をしたのだ。

だが多勢に無勢、たった一人で喧嘩を挑んだ敦司は逆に返り討ちにされてぼろぼろになって帰った。

そのことを聞いた和奏はその日、敦司の家に来てずっと祖母と一緒に俺の面倒を見てくれたのだった。

その時も、和奏は泣いていた。

自分のために傷ついた敦司を見て―――。


「大丈夫だよ、和奏!少しでも危険だと感じたらすぐに引き返すから」


追わないという選択もあったが和奏をつけるストーカーをこのまま野放しにするのは、心配でならなかった。

それに昔と今では違う。

状況に応じて適切な判断をとることだってできる。

そういうことをすべて天秤にかけ、追うことに決めたのだ。


「……ちが…………ぅ……」


この時和奏は何かを言ったが、焦っている敦司にはその声は届かない。

こうしている間にも人影はどんどん遠ざかっていく。

そのことにしか気を回す余裕が敦司にはなかったのだ。


「和奏はすぐに家に帰って親に知らせるんだ。そして安全なところに身を隠してじっとしてろ。後で必ず連絡をするから心配するな、和奏」


必要なことだけを言うと敦司は和奏から離れ、人影を追うために走っていく。

その後ろ姿を見つめながら、和奏は地面に崩れ落ちるようにして膝をつく。


「ちがうよ、あっくん……わたしは……わたしはあっくんさえそばにいてくれれば、それで……それだけでいいの……」


その声は儚く、走っていく敦司に届くはずもなかった。


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