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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第三章 まだ見ぬ住人達
18/86

record18 プレゼント

「せっかくみんながいるのに個々に一人で食事をとるなんて、なんか寂しく思えないかい?」


河西のこの意見には敦司も賛成だったので頷いてみせる。

すると彼は「ふふ」と満足そうな笑みを浮かべる。


「それにね、この館には暑さや寒さがない、簡単に言うと季節感が全くないんだ。気付いてるとは思うけど、朝や夜もやってこない。こんなところにいて一人一人が自由に行動をしてしまったら生活リズムが全員バラバラになりかねないと思ってね。だから僕が考慮して夕食だけはみんなで食べようと決めたんだ」


確かに河西の言う通り、少しずつ食事の時間がずれるだけでも何日か経てばかなりの差が生じてしまう。

その時差によりみんなとのコミュニケーションがとりにくくなることを防ごうということで作ったのだろう。


「そしてそれがハウスルールの一つでもあるんだ。初めは人数が少なかったからハウスルールなんてものはなかったんだけど、人が増えてきたからね、和奏ちゃんがきてからみんなで作ろうって話になったんだ」


――みんなで作ったっていうことは和奏が四番目だから……笹川さんと久遠さん達の四人か。

他にはどんなルールがあるのかと敦司は少し不安に思ったが、その感情はすぐに河西の言葉で消えることになる。


「もちろん、そんな気難しいものではないよ。すべてあたり前のようなものばかりだから安心してくれていい。それと、ルールを守らなかった場合は罰則もあるからルールはちゃんと守るようにね」


河西はわざとらしくにっこりと笑う。

敦司を怖がらせようと大袈裟に振る舞って見せているだけなのだろう。

そんな河西の気も知らずに、今度は罰則という言葉に敦司は不安を感じる。


「フフフ、冗談だよ。そんな恐ろしいことはしないよ。罰則といっても誰もができるようなことさ。それに敦司くんならきっと破るようなことはしないと僕は思っているからね。あまり気にしなくてもいいと思うよ、うん」


自分のことでもないのに自信ありげに頷く河西。

正直、なぜあそこまで自信を持てるのか敦司にとっては不思議なくらいだった。

――でも罰則と言ってもなにをするんだろうか……三時のおやつが抜きとか、そんな感じなのだろうか。

考えてから、それはありえないなと自嘲気味に笑う。


「まあ詳しくはこのファイルに閉じてあるからあとで読んでおいてほしい」


『みんなと仲良く暮らしていくためのハウスルール八ヶ条』と表紙に印刷がされているバインダー式のファイルだった。

それともう一つ、別のファイルも一緒に出てきた。


「こっちはほかのみんなが書いてくれたプロフィール帳みたいなものなんだ。これも後で読んでおいてほしい。仲良くしていくには相手のことも知っておいて損はないからね。じゃあこの二つのファイルを敦司くんにプレゼントするよ」


そういうと河西はファイルをまとめ、隣に座っていた佳奈に「隣へと順々に渡していってくれないかな」と頼む。

そして佳奈から隣へ隣へとバトンリレーで渡されていく。

最後の真夜は、直接敦司には渡さずにクロッシュの脇にきれいに揃えて置いた。

普通に手で渡せば届く距離なのに、ここまでされると拒絶されているのが目に見えてわかる。

そこでさっき和奏が言っていた、人見知りで特に男の人が苦手と言っていたことを思い出す。

――俺にはよくわからないけど、この子にもこの子なりの事情があるのかな。

そう考えると、拒絶されているというより恐れられているという言葉のほうが合うような気がしてきた。

あることがきっかけでつらい記憶が呼び起こされるなどよく聞く話だ。

真夜の場合、そのきっかけが男の人に話しかけられたり、触れられたりすることなのだろう。

逆にそう思うと可哀想にも思えてくる。

――まあ、様子を見て大丈夫そうだったら少し声をかけてみるか……。

そこまで考えたとき、久遠が「はいっ!」と手を挙げる。


「どうしたんだい、久遠?乾杯ならちょうど今しようと思ったところなんだが」

「違いますよ~もしかしてユキ様、敦司くんの紹介だけ忘れちゃってるんですか?」


突然の久遠の指摘に対して、敦司は戸惑いを隠せなかった。

さっきの時点で紹介はすでに終わったものだと思っていたから内容など何も考えていなかったのだ。

――なぜ久遠さんはそこで余計なことを言ってしまうのだろうか……もう終わりそうだったのに。

久遠は特に悪気はないのか敦司に対して軽く微笑んでくる。

そんな久遠に対して怒っているような表情を見せられるはずもなく、敦司は苦笑いで返す。

河西の方はというと、すっかり忘れていたのか決まりが悪そうにしていた。


「すまないね、敦司くん。時間にばかり気がいってしまって、君の紹介を忘れるところだったよ。僕としたことが情けないね、申し訳ない」


河西の言葉を聞いて、謝るくらいならこの紹介自体をなくしてほしいと敦司は心の中で即座に思った。

けれど、他のみんなも紹介したのに自分だけが紹介をしないというわけにはいかないので敦司は必死に何を話そうか考え始める。


「じゃあ敦司くん、その場での紹介でいいからご起立願おうか」


河西がそういうと、一斉にみんなの視線が敦司に集まる。

なんだか発表会で舞台に一人立たされている気分だ。

――さすがにこれは緊張するな……いったい何から話せばいいんだ。

既に座りたい気持ちでいっぱいだったが、もう後には退けない。

思い切って立ち上がると、敦司は心持ち大きな声でみんなに向かって紹介を始めた。

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