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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第三章 まだ見ぬ住人達
17/86

record17 住人紹介(2)

「じゃあ次は自分の番ですね」


そういって立ち上がったのは敦司の席の近くに座っていた、いかにも喧嘩慣れしていそうながたいのいい男だった。

背はさほど敦司とは変わらないが、目つきが鋭く、イメージ的には不良という感じだ。

けれど髪の色は黒で外見自体は普通なので、周りにまとわりついている雰囲気のようなものが強いイメージをもたせているのだろう。


「自分の名前は風間樹カザマ タツキです。学校は夜間に通ってて、同じ高校三年です。趣味とかは特にないですね。その時々によって結構ころころ変わったりするので……まあ今の趣味っていえば、この何でも提供してくれる館で俺の気になってるものを出していくってところですかね……今のとこはこんな感じの紹介でいいですか?」

「うん、そうだね。ありがとう、樹くん。なかなか素晴らしい紹介だったよ」


河西が笑顔でうなずくと、樹は「どうも」と軽く頭を下げ、椅子に座る。

話しているところを見る限りでは、そんな悪い人には見えなかった。

どちらかというと、敬語を使っているところからして礼儀正しそうな人にも見えたくらいだ。

――やっぱり人は雰囲気だけでは決めつけてはいけない、ということなんだろうか……。

よく聞く言葉は信じるべきだな、などと考えにふけっていると河西の声が聞こえてくる。


「じゃあ次で最後かな。真夜ちゃん、いいかな?」

河西の言葉に返事をせず、首だけをこくりと縦に動かすと席をそっと立つ。

背は敦司よりか低く、首にチョーカーをつけている大人しそうな女の子だ。

「どうも……初めまして、神崎……真夜です。高校一年生で、その……部活とかはやってないです」


ここまで聞いた時に敦司ははっとする。

真夜といえば、昨日河西と久遠が喋っているときに出てきたあの「真夜ちゃん」だ。

この館に来てから自分と同じく初めに河西と出会い、手が付けられないほどに怯えてしまったとか……。

たしかに見るからに大人しそうな女の子で、人前で話すことが慣れていないのか声も小さく、席が隣である敦司ですら聞き取りづらかった。


「真夜ちゃん、もう座ってもいいよ。私が代わりに紹介してあげるから」


その彼女に対して助け舟を出したのが和奏だった。

真夜がちらっと和奏のほうに目をやると、和奏はにこっと笑顔で返事をする。

すると真夜はぺこりと軽くお辞儀を返し、椅子に静かに座った。


「えっとね、真夜ちゃんはかなり人見知りで、特に男の人が苦手なみたいでね。だから別にあっくんのことが嫌いってわけじゃないと思うの。きっと優しく接すれば真夜ちゃんも答えてくれると思うから」


男が苦手ということは過去に何かあったのだろうか、と思いながらも真夜のほうに目を向ける。

すると視線でも感じたのかちらっとこちらを見てはくれたが、目が合うとすぐにまた俯いてしまった。

――これはその、なんだ……関わりづらいな……。

内心そう思いながらも分かったと和奏に合図を送る。

合図を受け取った和奏は敦司に向かって頷くと、それから席に着いた。

これでこの館の住人全員、十人の紹介が終わったのだろう。

ちょうどそのとき、正面では河西が腕時計を見ながら「予定より少し時間がおしているな」と小声で呟いていた。

おそらく、さっき食堂に柚唯が遅れてきたことを言っているのだろう。

柚唯の方へ目を向けると、河西の言葉が聞こえていないのか自身の腕時計に視線を向けていた。

――そういえば今は何時なんだろうか……。

時刻が気になり確認しようと食堂を見回す。

けれどあるのは、自分たちを捕まえた連中が用意したモニターと豪華な置物しか目に入らなかった。

――そういえばこの館には時刻を表す時計が置いてないな。

敦司がいた部屋にも掛け時計一つなかった。

そこで敦司は部屋に出る前に、せめても腕時計を出しておけばよかったなとふと思う。

この館では外と中をつなぐ窓がないので、時計がないと昼と夜の感覚が狂ってしまいかねない。

だからああして、他の人はいつでも時間が確認できるように腕時計をしているのだろう。


「これでみんな紹介は終わったね。もうみんなもお腹が減っているころだとは思うけどあと少しだけ我慢をしてもらうよ。では敦司くん、いいかな?」


河西に呼ばれ敦司は顔を上げる。

自分の紹介の番が来たのかと心を決める敦司をよそに河西は全く別のことを口にする。


「今日はこうして朝、みんなには食堂に集まってもらったけどさっき部屋で話した通りいつもは自由なんだ。もちろんお昼もね。だけど夕夜だけは十九時にみんなで集まって食べることにしているんだ。もちろん部屋のモニターから食べ物を頼むこともできるんだけどね」


じゃあなぜわざわざ食堂に集まるのだろうか、と敦司が考えようとするのを予想してのことかすぐに河西が疑問に答えてくれた。

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