record16 住人紹介
「じゃあ順番的には次は僕の番か」
そういって立ち上がったのは、和奏の向かいの席の青年だった。
背は敦司よりかも高く、さわやかなイメージな感じの人だ。
「どうも初めましてかな、敦司くん。僕も君と同じ高校三年生で、名前は芹沢亮太って言うよ。趣味はなんだろうか……んー、学校では陸上部をやっていてそれが僕にとっては趣味かな?それと、敦司くんのことはよく和奏から聞いているよ。というより君と幼いころあったことがあるんだけど覚えているかな……」
亮太という人の口から和奏と呼び捨てにされた言葉が出てきたことにも驚いたが、会ったことがあると言われたことに関しても敦司は驚いていた。
――この人は和奏とはいったいどんな関係なんだろうか……それに俺と会ったことがあるって、こっちには身に覚えがないぞ。
既に二つの出来事を無理に考えようとする敦司の頭の中は処理が追いついていなかった。
そんな敦司の表情を見て、亮太が言葉を付け加える。
「なんか困らせちゃったみたいかな?まあ、もし気になるなら後でゆっくりお話でもしようよ、僕も話したいことがあるし、それに君とは話が合いそうだしね……」
亮太は敦司にさわやかな笑顔を向けてくる。
それから「僕からは以上です」といって席に着いた。
すると河西が嬉しそうに話題に入ってくる。
「意外だね、敦司くんと亮太くんは小さいころからの知り合いだったのかな?僕もたまにそういうのに憧れるんだよね。やはり小さいころから一緒だと信頼しあえると僕は思っているからね。なんといっても成長していくにつれて、会社に入ったりするともちろんビジネスパートナーが必要になってそんなときに信頼できる人が僕は……」
河西がそこまで喋った時、脇に座っていた女の子が「河西さん」と小声で耳打ちをする。
「いったんここらへんで話を切ったほうがいいと思いますよ。皆さんお腹も減ってると思いますし、人数的にもまだ半分以上の人が残っていますから……」
「む……そうかい。まあ僕が言いたいことは、信頼できる人は一人や二人いたほうがいいってことだよ。やっぱり心を許せる人は必要だからね。僕からは以上だよ、じゃあ後は佳奈ちゃん頼んだよ」
「はぁ、その呼び方はやめてくださいって何回言えばわかってくれるんですか……」
名前を呼ばれて、あきらめ口調で河西に言いながらもため息をつく。
順番に考えると亮太が五番目の紹介者なので、この館に六番目に来た人がこの佳奈という女の子なのだろう。
「私の名前は青樹佳奈。佐久間くんと同じ高校三年で、多分歳も一緒かな。趣味とかはとくにはないよ。私からは以上です」
それだけを言い終わると席に座ろうとする佳奈。
今までで一番あっさりとした紹介だと思いながらも敦司がそれを見ていると、河西が困ったような表情を見せる。
「あの、佳奈ちゃん、もっと他に何かないのかな……趣味じゃなくても館に来てからのことでもいいから」
「そういわれても自分のことで語れることなんて他にないので……」
このとき明らかに他の住人とは一人だけ態度が違うように思えた。
自分のことを歓迎してくれていないのか、それとも単に人と接するのがあまり好きではないのかどちらかまでは定かではないが……。
そのまま居づらい雰囲気が流れてしまうのかと不安に思ったその時、浩介が佳奈の言葉をつないで代わりに紹介を始める。
「他には佳奈ちゃんは読書とかも結構好きで、それが趣味だったりする!」
「っ!」
浩介が『佳奈ちゃん』と呼んだ時に佳奈が一瞬だけむっとしたような表情をしたが、見て見ぬふりをしながら今度は自分の紹介を始める。
「ってことで次は俺の番だなっ!待ちくたびれたって感じだぜ!早く飯も食いたいしな」
さっきまでのことを何事もなかったかのように元気そうに振舞う浩介。
さすが高校でもムードメーカー的な存在だけあって、場を和ますには慣れていると敦司は心の中で少しだけ感心する。
あのままの空気では正直、居心地が悪くて食堂から立ち去りたいと考えてしまうほどだった。
――それにしても浩介はあの佳奈という女の子とは仲がいいのだろうか……?
いや、あいつに限ってそれはないか、ただ単にあいつから絡んでるだけだろうな。
佳奈の性格から見ても自分から他人に近づくような女の子には、敦司からは到底見えなかったからだ。
「さあ、じゃあ敦司! 何を話せばいいかよくわかんないからテンプレートでいかせてもらうぜ。俺の名前は相原浩介、高校三年でお前と同じくバイトで忙しい毎日だ。それと俺の趣味は漫画を読むことだ。この館に来てからはなんでも出せるから、暇なときはほかのみんなと遊んでる。それくらいかな、以上!」
浩介らしい自己紹介といえる紹介が終わると他のみんなから拍手が起こる。
当の本人は席に座るとこちらに親指をぐっと立ててくる。
――いつ見てもほんと元気だな、浩介は……。
少しあきれ交じりに笑いながらも、敦司は浩介に苦笑を向ける。
拍手が静まると、今度は柚唯がおずおずと席を立つ。
「あ、えと、高宮柚唯です。大学一年生で、教育科をやっていて、将来は保育園の先生になりたいなって思ってます。館に来てからは、よく久遠ちゃんとお菓子とか作ったり、他にも手芸とかもよくやったりしてます。ええっと、あとは……なんだったかな」
顔を赤く染めながらもおろおろして困る素振りを見せる柚唯。
おそらく、久遠と同じく話す内容をまとめてきたものの、焦ってしまって何を話すか忘れてしまったのだろう。
「どこまで話したんだっけ……ご、ごめんね、敦司くん。しっかりまとめてきたはずなんだけど分からなくなっちゃって……こんなわたしですけど、よろしくお願いします……!」
そのまま柚唯はさっと席に座ってしまう。
そんな彼女を見ながら自分より年上だけど、からかったりしたら楽しいだろうな、などと敦司は考えていた。