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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第三章 まだ見ぬ住人達
15/86

record15 歓迎

食堂の前まで行くと河西が待ちくたびれた様子で扉のそばで待っていた。

クッキーの一件のことはもう既に気にした様子もなくこれからのことを説明し始めた。


「まず柚唯ちゃんは僕とこれから食堂に入ってもらうよ。敦司くんはそれから一分ほど経ってから入ってきてくれ。じゃあ頼んだよ」

「えっ? 自分も一緒に入るんじゃ……」


敦司が最後まで言い終わらないうちに、河西達は扉の向こうへと消えてしまう。

一体何なのかと思いながらも言われた通りに大人しく待つことにする。

その間、いてもたってもいられず扉の前でずっと行ったり来たりしていた。

ここの住人達に会うことに対しての緊張の気持ちが膨らみ始めたのだ。

――一体どんな人達なのだろうか。

うまくやっていけるだろうか。

そんなことを考えているとすぐに一分が経ってしまう。

敦司は呼吸を整えると、気持ちを固め扉に手をかける。

そして思い切って扉を開ける。


「ようこそ、敦司くん! 君を僕達『家族』に迎え入れることを歓迎するよ!!」


パンパンパンパンッ!!

扉が開くや否や、河西の言葉を合図に紙テープが一面に舞い、火薬の匂いが立ち込める。

おそらくこの部屋の全員が一斉にクラッカーを鳴らしたのだろう。

その中には浩介や和奏、久遠や柚唯もいた。

みんな敦司が来たことを歓迎してくれているのだ。


「さあみんな、予定通りの席についてくれるかな? これから敦司くんにみんなを紹介するからね」


そういうと河西は一番手前の席、扉に近い席の近くに立って椅子を引いてくれる。


「どうぞ、敦司くん。ここが君の席だよ」


軽く会釈をすると敦司はその椅子に座る。

ふかふかしていて、とても座り心地のいい椅子だった。

そして目の前には木製の横に長いテーブルがあり、その上には細かく編まれた白いテーブルクロスが敷かれていた。

テーブルの上には料理が冷めない様にするためよく高級レストランなどで使われている銀色の蓋、クロッシュが置かれていた。

気付くと、敦司が周りに気を取られている間に河西は既に向かい側に座っていた。

そして長辺の右側には4人、左側には5人が座るという形になっていた。


「さあ、じゃあ乾杯の前に一人一人敦司くんに対して自己紹介を行ってもらうよ」


河西はそのまま席を立ちあがると、こう続けた。


「僕は河西行人。もう敦司くんは僕とたくさん話をしたよね。多分この中の誰よりも、既に君と打ち解けられていると思っているよ。そして僕はここに来た一番最初のひとりで、この中で最も最年長でもあり、リーダー的な存在でもある。まあ簡単に言えば指導者的な立場だね。みんなが楽しめるようにパーティーを開催したり、この館の謎や脱出方法を中心になって探したりもしているよ」


――やっぱり河西さんは、この館では指導者的な立場なのか。

一番俺と打ち解けられているってとこはどうかと思うが。


「これで全員揃ったわけだし、みんな仲良くやっていけるようにしてほしい。僕もできるだけ楽しく暮らせるように努力はしていくつもりだよ。では敦司くん、これからよろしく頼むよ」


ここで河西の紹介はもう終わりなのか一旦言葉が途切れる。

それからこう続ける。


「じゃあ次は二番目に館へ来た人に自己紹介をしてもらおうか。この後も館に来た順に紹介していこう。まず翔くん、頼んだよ」


そういって河西が椅子に座ると、入れ替わるようにして座っていた翔と呼ばれた人が立ち上がる。

眼鏡をかけていて真面目そうで、学級委員長をやっていそうな雰囲気だ。


「どうも、大学二年、笹川翔ササガワ ショウです。君と会うのは初めてだけど、これから仲良くしていけたらなと思ってるよ。学校の方では映画研究会に入っていて部長を務めている。映画とか、ドラマにもし興味があるなら是非後で一緒に話そう。僕からはこれぐらいかな……以上です」


翔がいい終わったのを見計らって河西が拍手をすると、みんなからもまばらに拍手が起こる。

――学級委員長まではいかなくても、やっぱりサークルの部長はやってるのか。

この人なら仲良くできそうだなと思いながらも自分も拍手に続く。

優しそうな感じだし、何といっても好意的だからだ。

向こうから歩み寄ってきてくれるなど、こちらとしては願ってもないことだった。

だから後で話しかけてみようとひそかに思っていた。


「翔くん、どうもありがとう。じゃあ次は……久遠、頼んだよ」

「えっ、もうあたし!?」


ガタッと音を立てながらも、椅子からはじかれたように立ち上がる。


「え、えっと……伊吹久遠です。なんか改めて話そうと思うと照れちゃうね」


確かにそうだと敦司は頷きそうになる。

一人一人立ち上がり、自己紹介をするなど照れて当然だと感じたからだ。

今のところは誰も文句を言わずに紹介をしているが、この中に反対している人もいるのだろうと思った。

それをここまでまとめあげている河西は素直にすごいと敦司は感じていた。

これだけの人数をまとめるにはそれなりの才能が必要だと思ったからだ。

敦司がそこまで思ったところで久遠がまた喋りはじめる。


「今は社会人をやってて、仕事は服飾デザイナーをやってます。まだ仕事の方は始めたばかりでせっせと頑張ってる感じです。でも最近あまりいいデザインができずちょっとピンチ……」


久遠は困ったという表情を作る。

敦司もこの気持ちには同感だった。

捕まるときの当日、連休が近かったのでバイトをたくさん入れてしまい、そのままこの館に来てしまったので敦司としてはクビになっていないか心配でたまらなかった。


「他には……んー、なんだっけ……いろいろ話すことまとめてきたのに忘れちゃった……まあ敦司くんとは後でたくさん話せばいいよね。あたしはこれで、以上で!」


久遠が席に着くと、再度まばらに拍手が起こる。

――久遠さんって社会人とは言うけど、歳はどのくらいなんだろうか……。

聞いてみたい気もするがさすがに女性に聞くのはデリカシーがないと思い、質問することを思いとどまる。

そんなことを考えていると、次は和奏がそっと席を立ちあがる。


「次は私の番だよね……高校三年、古宮和奏です……ってそんなこと、あっくんは知ってるよね。自己紹介って言っても何を話せばいいんだろう……」


頬をほんのりと染めながらも、もじもじとする和奏。

小さい頃から和奏とはほとんど一緒だったのだから、確かに今更自己紹介といっても言うことがないし、逆に変な違和感のようなものを感じるのだろう。

そんなことを思いながらも、敦司は和奏の次の言葉を待っていた。


「えっと……この館に来てからは、最近だと編み物とか、裁縫とかを趣味でやってるかな。あと他には……」


他に何も話すことが思い浮かばないのか和奏が黙り込むと、にやにやしながらも浩介がわって入ってくる。


「別に好きな人のことでも構わないと思うよ?例えば……」

「っ! い、今はいないです! い、以上、です!」


浩介が何かを言おうとした上から少し声を大きくして、言葉をかぶせるように和奏が叫ぶ。

席に着くと顔を赤く染めながら俯いてしまった。

――浩介の野郎……後で問い詰めてやる。

他にもたっぷりと聞きたいことがあるしな。

恨めしそうな目で浩介を睨むと、ちょうど向こうもこちらに気付いたのかてへっとふざけた顔を向けてくる。

――いい度胸をしてるじゃないか、この期に及んでそんなことができるなんて……。

後でどう懲らしめてやろうかと考えている敦司をよそに次の人の紹介が始まった。

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