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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第二章 敵か味方か?
12/86

record12 疑心暗鬼

勉強面や学力的にはそれなりに自信がある敦司だったが、クイズや謎解きになるとめっぽう弱かった。

実際、学校で行われるテストなどで毎回上位をとったりはしていたが、和奏や浩介が出してくる謎なぞなどは解けたためしがなかった。

――多分、この星を数字に変えるんだろうけど……だめだ、全然わからない。

そのまま敦司が悩んでいると、寝ている和奏を見つめながら河西が口を開く。


「彼女……和奏ちゃんはこの問題が解けたうちの一人でもあるんだ。正直、彼女には驚かされたよ。まずわからないと思っていたんだけどね」

「そうなんですか……こいつ頭もよくて、勉強もできて……時々、俺には勿体ないくらいの幼馴染みだって思うほどですよ」


自分で言っていて虚しさしかなかった。

だがそれは現実であり、事実である。

和奏は人望も厚く、みんなにも人気がある。

けれど自分は他人とあまり話すことはなく、頼られるといっても和奏からか浩介ぐらいからだった。

そんなことを考えながらも紙から河西へと視線を移す。

そこには笑みを浮かべる河西がいた。


「二人とも似ているね。そっくりだよ」

「似ている? 俺と誰がですか?」

「それはもちろん敦司くんと和奏ちゃんがだよ。彼女も言っていたよ、私には敦司くんは勿体ないってね」

「えっ!」


敦司には思いもよらない言葉だった。

まさか和奏もそんなことを思っているなどと考えたこともなかったからだ。

――和奏も同じことを考えていたのか。あれ?そう考えると、もしかして和奏は俺の事を……?

そんな風に考えてくれていたら、と思ってしまうと余計に和奏を意識してしまう。

河西はというと、未だに不敵な笑みを浮かべ続けていた。


「僕は別に、お似合いじゃないなんてことは思わないけどね」

「もぉ~、河西さんまで、勘弁してくださいよ」

「フフフ、すまないね。じゃあ敦司くんの要望通り本題へ戻るとするよ」


河西は声のトーンを少し落とすと、真剣な面持ちへと戻る。


「とりあえずその問題に関しては、クイズ程度に考えてもらって構わないよ。館の説明をしていくうえででてきたから問題としてだしただけだしね」

「そうなんですか?というより、逆にそっちのほうが助かります。自分にはできそうもないですから」

「君になら解けるよう気もするけど、人には得意不得意があるからね。解けないとしてもそんなに気に病むことじゃないと思うよ。それと分かりそうもなかったら他の人に聞いてみるといいよ」


敦司にはすぐにこれも河西なりの配慮だと気付いた。

あった当初の自分なら、なぜ河西自身が教えてくれないのか訝しげに思うところだが、今の自分なら他の住人とも仲良くできるようにとの気遣いだと予測ができた。

だから敦司は「そうしてみます」と前向きな言葉を選んで返事をした。

その返事に対し、河西は笑顔で返してきた。


「敦司くんは呑み込みが早くて助かるよ。それと朝食前に、もう一つだけ聞きたことがあるんだけどいいかな?」

「はい、いいですけど……なんですか?」

「みんなにも聞いていることなんだけど、敦司くんはどういう経緯でこの館へ連れてこられたのかな?」


河西のもう一つの質問、それは館に来るまでに何が起こったのかということに関してだった。

敦司自身、この館に来てからというものいろいろな出来事がありすぎてここに来るまでのことを考える余裕がなかった。

だから敦司は自分の記憶をたどり、一番疑問に思っていたことを思い出す。

それは自分が後ろからスタンガンで気絶させられた時に相手が泣いていたことだった。

敦司はそのことも含めて、今までの経緯をすべて河西に話した。


「うぅん……和奏ちゃんから聞いた話と随分と食い違っているね」

「話の食い違いですか?」

「うん、和奏ちゃんの話だと敦司くんが捕まるもっと前に、既に和奏ちゃんは捕まっているんだ」

「なっ……!?」


河西の言葉に敦司は息をのんだ。

確かに初めに電話をしたときは、自分へ対しての呼び方やおかしなところはあったが、そのあとは和奏にそっくりだった。

いや、そっくりというよりは本物といってもおかしくはなかった。

けれど河西が和奏から聞いた話だと、それは偽物ということになる。

――あれが偽物……でも信じるしかないのか。

だってそう信じないと……。

敦司は、自分の脇で小さな寝息を立てて眠っている和奏を見つめる。

もしここで河西の仮説を否定すれば、今ここにいる和奏が嘘ついていることになる。

だとすると、本物の和奏はすでに――。

そう考えないようにするためにも敦司は首を横に振る。

今の敦司にとって、和奏はもう死んでいるなど一番考えたくなかったことだった。

――和奏は絶対に生きてる。いや目の前にいるじゃないか!

横で眠る和奏を見て、敦司はその気持ちをより固める。


「まあ、そんなに迷うことでもないんじゃないかな? たとえ、館に来る前の和奏ちゃんが偽物であろうと、今ここにいる和奏ちゃんは本物なんだから」

「そ、そうですよね! あはは、心配しちゃって損しちゃいましたよ」


河西に向かって安堵の表情をむける敦司。

だがこのとき、和奏の生存を強く願うあまりに敦司はすぐに考えるのをやめたが、この館にいる和奏も偽物という可能性があった。

本物の和奏だと信じきっている敦司の表情を見ながらも、河西は心の中で和奏は既に死んでいると考えていた。

河西が考えるに初めに電話をした時からすべて偽物と仮定していた。

それなら辻褄が合うのだ。

――いや、でも涙を流した理由……そこはどうなんだ?

それが河西にとって一番気がかりなところだった。

身内や仲のいい友達が嫌々やらされて泣いていたなら納得がいっただろう。

けれど自分の仮説の通りなら偽物の和奏が泣いていたことになる。

それはあまりに不自然に思えた。

――敦司くん、やはり君にしか見破ることができないみたいだね。

そう心で呟きながらも、河西は気持ちを切り替えると時計に目をやり敦司を促す。


「さあ、そろそろ時間だよ。君に他のみんなを紹介しよう」


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