record11 謎解き
人の温もりを感じる。
そう気付いた時には、敦司は既に身体を起こしていた。
周りを見回してみると自分の部屋がそこにはあった。
――そうか、あの後ベッドに横になって河西さんを待っていたけど疲れて眠ってしまったのか。
時計を見ると、針は朝の七時を指していた。
この館には外と中をつなぐ窓がないので、時間を表す時計は敦司にとってすごくありがたいものだった。
左下の方に目をやると敦司のことを心配してそばにいてくれたのか、和奏がベッドに突っ伏して眠っていた。
思い出せば、敦司があのまま眠ってしまったときは毛布はかかっていなかったが、今はきれいにかけられていた。
――和奏がかけてくれたのかな……いつもありがとな。
小さな寝息をたてる和奏の頭を優しく撫でる。
「うぅん……あっく……ん……」
それに反応してか和奏の身体がもぞもぞと動く。
一瞬起こしてしまったのかと思ったが、敦司が優しく頭を撫で続けているとまた小さな寝息が聞こえてきた。
――こうしてみると、やっぱり可愛いんだな。
和奏と一緒にいることは多かったが、こうして改めて見てみると余計に可愛く見えた。
そんな時、学校で浩介と話していた時の会話の一部が敦司の頭の中を過る。
『和奏ちゃんはかわいそうだよな。あんなにもお前のことを思っているのにさ』
自分でもよくわからなかったが、不意にこの言葉だけが思い浮かんだのだ。
そのせいで気恥ずかしくなった敦司は、和奏の寝顔を一瞥した後に目をそらす。
――そ、そんなことありえるわけないじゃないか! ったく、なんでこんな時に……あれもこれも浩介のせいだ!
考えれば考えるほど気になってしまい、和奏のことを横目で盗み見てしまう。
そんなこんなしていると、唐突に声がかかる。
「彼女がそんなに気になるのかな?」
「えっ……あっ……」
声がしたほうを振り向くと、そこには河西が立っていた。
今まで自分がしていたことをずっと見られていたと考えると恥ずかしくなって敦司はなんと言えばいいか分からず、言葉にできなかった。
だが河西は部屋に入ってくると敦司の心配をよそに話を進め始めた。
「おはよう、敦司くん。彼女がここにいる理由は、昨日僕がここに入れてあげたからなんだ。だめだったかな?」
「い、いえ、そんなことはないですけど……」
「そうかい?ならよかった。僕が戻ってきたら君は既に眠っていたから皆を紹介するのは次の日にしようかと決めたんだ。もちろん、これも僕なりの配慮だったんだけどどうも彼女は気に入らなかったみたいだね。どうしても敦司くんに会いたいというもんだから部屋へ通してあげたんだ」
淡々とした口調で話し続ける河西。
どうやら敦司が、和奏がここにいる理由がわからず見ていたと勘違いをしたらしく昨日の出来事を説明し始めた。
「そして彼女はそのままここで寝てしまったようだね」
「別にかまいませんよ。それより昨日はすみませんでした。眠ってしまって……」
「いや、僕の方こそ君の身体のことを気遣えずすまないと思っているよ」
申し訳なさそうに河西は軽く頭を下げる。
敦司にとっては和奏のことを追求されなかったことの方で助かっていたので、そのくらい気にしていなかったのだが……。
「それと早速で悪いんだけど、他のみんなを朝食の時に紹介しようと思うんだけどそれでいいかな?」
「はい、別にかまいませんよ。それと、もしかして食事とかってみんなで食べたりするんですか?」
「それはとくには決まっていないよ。ただ夕食だけは十九時にみんなで集まって食べることにしているんだ。まあ、これはハウスルールの一つなんだけど後で説明することにするよ」
――ハウスルール?
家の決まりってことか。
また新しい制約なのか?
『ルール』という言葉を聞いた途端に敦司は無意識に難しい顔をしてしまう。
この館に来てからというものルールや決まり、制約などという言葉に自然と敏感になってしまったのだ。
そんな敦司をみて、河西は軽い説明を加えてくれた。
「ハウスルールは僕達『家族』が仲良く、楽しく過ごせるために作った約束みたいなものなんだ。今はこんなところでいいかな?」
河西に聞かれ、敦司は頷く。
自分達を捕まえた連中が作った『ルール』ではないと分かっただけでも敦司にとっては十分だった。
「じゃあ朝食までの時間も残り少ないから昨日の話の続きといくよ」
そういうと河西は、懐から一枚の小さな紙を取り出す。
その紙にはなにやら星や数字、平仮名が書いてあり、その下には誰かが考察をしたのか走り書きがされていた。
「それが地下へ行くために解かなくてはいけない暗号なんだ。その問題を正しく解けば、おそらく4桁の数字になる。実はその問題の答えは、おおよそのところはわかっているんだけど、一応全員にやってもらおうかと思ってね」
「俺にできますかね?」
河西から紙を受け取ってからもう一度、改めて見たが敦司は首をかしげることしかできなかった。