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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第二章 敵か味方か?
10/86

record10 ルール

目の前には一本の通路がある。

その両側には六つずつ、何の変哲もない扉。

お互い向き合わないようにずれていた。

そして手前から五番目の扉、「0529」と彫られている扉の所で河西は足を止める。


「まず、ここのノブをひねってもらっていいかな?」


敦司は頷くと、言われた通りにノブを捻る。

だがノブは回ることはなく扉は開かなかった。

そのことを確認すると河西は次の扉へと移動を始める。

そのあいだ、河西は何かをぶつぶつと呟く。

それは後ろをついて歩く敦司にもよく聞こえないほどだった。


「……あてつけ……失った……もし……今度……成功させ……」


――何かを失った? 今度は成功? 一体何が……?

敦司にとってこの河西という男は謎が多い、よくわからない男、ということで頭の中で片づけていた。

見た感じは怪しいが、自分を襲ってくる気配もない。

結果、悪い人ではないと考えられるが……。


「敦司くん、もう一度試してもらってもいいかな?」


さっきとは違う、別の扉の前で河西は足を止めていた。

その表情は最初にあった時と変わらず、いつも通りの表情だった。

――いや、俺の考えすぎだよな。

そこで考えるのはやめ、河西に向かって返事をする。


「はい、やってみます」


さっきと同じようにノブに手をかけ、ひねる。

すると今度はあっさりと開いた。

そしてその扉の先にあるものを見た敦司は目を見開いた。

そこにはいたって普通の『部屋』があった。

だが敦司にとってはその『部屋』は異常だった。

別に危険なものがあったとか、そういうわけではない。

ベッドがあり、机があり、本棚がある。

誰が見ても変には思わないだろう。

それでも敦司は驚きを隠せなかった。


「君の部屋はこんな感じなのか……なんというか、平凡だね」


そう、河西のいう通り家具の位置や部屋の雰囲気が敦司の住んでいる家の部屋とまるっきり同じなのだ。

河西の方を見ると、今まで以上ににっこりとほほ笑んでいた。

友達へのサプライズが成功した時の表情、もしくは仕掛けていた罠に獲物が引っ掛かった時の表情か。

どちらかといえば後者の気がする……。


「これがこの館の不思議なところなんだ。僕達が生活してきた部屋が、この館でも再現されているところなんだ」

「じゃあ俺達をここへ閉じ込めたやつらは、俺たちのことを調べつくしてるってことですよね?」

「そうみたいだね。僕もあまりそうは考えたくはないけど、そう考えざる負えないね。例えば……この部屋の扉に彫ってある数字を見たかい?」


数字と言われてさっき見た、開かなかった扉に彫ってあった数字を思い出す。

それから、今いる部屋の扉にあった数字を思い出す。


「たしか……『0226』じゃなかったでしたっけ?」

「そう、その通りだよ。そしてその番号が君に関連したりしていないかな?」

「えっ……あっ!?」


河西にそこまで言われると、敦司はすぐに分かった。

――2月26日、俺の誕生日か!

そう考えるとさっきの開かなかった部屋の扉に書いてあったのも、その持ち主の誕生日ってことだから…………。

部屋の扉に彫られた数字が自分の誕生日だと気付いた敦司は、それがほかの扉にも共通していると考え、さっき開かなかった扉のことも考えようとした。

けれど河西に喋りかけられ、考えている途中で頭を切り替えることになる。


「もうわかったかな?僕達はこの誕生日を示す4桁の数字を、部屋の主を表すためにあると考えている。まあ、断定はできないけどね」

「……もしそうだとしたら、俺達をここに閉じ込めたやつらは一体何のためにこんなことをするんでしょうかね?」


自分達をここへ閉じ込めた犯行目的。

敦司にとってこれも知りたかったうちの一つでもあった。


「それは既に、僕達には明確に伝えられているんだ。その机の上に置いてある紙を読めればわかると思うよ」

河西に言われてそちらに目をやると、確かに一枚の紙が置かれていた。

「この館のことや連中の目的などがそこには書かれている。僕は、さっき話した地下への鍵のことを君へ説明するために資料を集めてくるから、待っている間にでも読んでおくといいよ」

「はぁ……わかりました」


部屋を出ていこうとする河西に対して敦司は力のない返事をする。

館に来てからというもの、驚かされるものばかりで正直疲れ切っていた。

同時にここへきてから初めて一人になれた時間でもあった。

――少し休みたい気もするけど……河西さんのいう通り、館のことに関して知っておいたほうがいいしな。

これからのことを考てみると、ほんのわずかな情報でも敦司としては知っておきたかった。

机のところまで歩いていくと、敦司は紙を手に取る。

そしてベッドに腰を掛けると読み始めた。


『国民安心保安部からこれを読んでいるあなたへ』

――国民安心……保安、部?

政府機関か何かなのか?

『突然こんなところへ連れてこられて、さぞ驚き、不安に思ったことでしょう。

でも安心してください。

私どもはあなた達、人間のデータがほしいだけなのです。

ですからこちらからあなた方へ危害を加えることは一切ありません。

殺し合いをさせる、または条件を満たさないと殺されるということもありません。

ただ、そのかわりにこの館の脱出方法をあなた達の力を合わせて見つけ出し、見事脱出をしてほしいのです。

その時の条件としてもし脱出方法を見つけ出すことができなかった場合、ここから出ることはできないという条件を追加します。

ここで食料や水、衣服などで争いが起きると考えた方もいらっしゃると思います。

ご安心を、あなたが望むものや、その物の量まで無償で、そして限りなく私どもから提供させていただきます。

部屋に備え付けられているモニター、もしくは食堂のモニターでこちらに欲しいもののデータを送っていただければご用意させていただきます。

それと部屋についてですが、外からの音は中へ聞こえますが、中からの音は外へは絶対に漏れたりしない仕様になっております。

鍵は内側からしかかけることができず、もし鍵をかけた場合は外から他の人が開ける、もしくは壊して開けることは不可能です。

そして元の世界に戻ってからのことですが、あなた達が居なかった間の辻褄はこちらで合わせますのでご心配なく。

それとともに、私達の気持ちとして八百万円を一人一人に差し上げます。

では皆さん、最後まで協力し合い、無事脱出方法を見つけ出せることを願っています。


追伸

表記をし忘れましたが、先に書いてある通りこの館には11人しかいません。

部屋は12部屋ありますが、それはこちらの不手際です、申し訳ありません。

では、ご健闘を祈ります。』

文章はそこで終わっていた。

読み終わった敦司はすっと立ち上がると紙を机の上に戻し、それからベッドの上へと身を投げた。


「なんでも提供してくれて、俺達に住みやすい環境を用意して……殺す気がないってところは、少しは信じてもいいのかな」


完全に信じたわけではなかったが、いつまでも気を張るわけにはいかなかった。

そえじゃなくてもあの河西という男と居るだけでも疲れるのだから……。

――館のみんな、どんな人たちなんだろうか?

全員河西さんみたいな人だったら……。

そう思うと少しだけ笑みがこぼれる。

たしかに河西と一緒にいると気を張ってしまい疲れたりはするが、敦司として別に嫌いというわけではなかった。

――そういえば河西さん、まだかなぁ~……。

そんなことを考えながらも敦司はぼうっと天井を見つめていた。

              ♦♦♦♦♦

同時刻、ある会議室で3人の男たちが議論を交わしていた。


「本当にあれでいいんでしょうか!? さすがに一人だけでは厳しいんじゃないですかね!」


小太りの三十代くらいの男が納得がいかないと言わんばかりに大声を出す。


「わたくしもそう思います。あれではさすがに難しいところもあると思いますが……」


小太りの男に賛同するように、今度はやせ細った老人が続く。

すると今まで黙って意見を聞いていた、三人の中でも一番高級そうな服を身に纏っている男が口を開いた。


「厳しいも、難しいも、あくまで『ルール』にのっとって判断したまでさ。君達だってそれは承知したはずだろう?」

「それはそうですけど、あれは実験前のことですよ。今となっては状況も違うわけですし!」

「でも意外にうまくいっているんだからそれでいいじゃないか。それに今回は何かあった時のために『あれ』があるんだろ? それとも何か問題でもあったのか?」

「そ、そんなことはないですけど……」


高級そうな服を身に纏った彼に圧力をかけられた小太りの男は、黙るしかなかった。


「それにすべては計算通りにいっている。あいつらのデータさえとれて、『あれ』さえうまくいけば……」

「ですが金田社長! 『あれ』はまだ開発途中でして――」

「何か問題でも……あったかな?」

「っ!?……な、なんでもありません」


金田と呼ばれた社長は、意見を言おうとする老人をにらみつける。

これ以上口何か口にするようならただでは済まない、と。

二人が黙るのを確認するとにやっと笑う。

それからわざとらしく確認を行う。


「では、もう問題は何もないね? それぞれ仕事に戻るように」


それだけを言うと、金田は会議室から出て行った。


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