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変な人

神代視点です

「えっ!? その目……神代くんはハーフなのですか?」


 あ、やってしまった。

 そう後悔しても後の祭りで。見られたくないものを見られた俺は、この後どうしようかと悩む。





 俺の母親は日本人だけど、父親はロシアと日本のハーフ。つまり俺達兄妹はクォーターだ。父親の血は瞳に強く現れ、この青い目のおかげで随分言われてきた。

 子供というものは時に残酷で、『気持ち悪い』『お前は仲間じゃないからあっちいけ』『自分の国に帰れ』思った事をそのまま口にする事がある。

 言葉だけではなく行動でもその残酷さは発揮され、俺の幼少期は悲惨と言える代物だった。だからこそ、兄妹達には同じ思いをして欲しくなくて、なるべく前髪で瞳を隠すようにお願いした。

 だけどそれは俺の杞憂で、持ち前の明るさを持つ下の兄妹達は瞳の事がバレても沢山の友達がいる。良かったと安心する反面、俺には到底無理だろうなと自分の性格が嫌になる事もあったな。

 人見知りで警戒心が強く他人を中に踏み込ませたくない。要はネクラだ。それは俺の力の影響もあって。

【瞬間記憶能力】

 幼い頃から物覚えがよく、1度見たことは忘れない。その記憶能力は異常な程で、母親が調べて見るとそう言われたそうだ。

 はっきり言ってこんな力いらない。確かに物覚えが良いから助かる時は多々あるが、どんなに努力をしてもこの能力のおかげだろと言われる始末。

 瞳のことで阻害され、能力のおかげで妬まれ。もう人間関係を築くのが面倒くさくなった。言いたければ勝手に言えばいい。テスト期間の時だけ擦り寄ってくるような連中は、こっちから願い下げだ。


 そうやって今まで人と距離を取ってきたのに、彼女はいつの間にかそこにいた。





 弟達を退かせ、驚く彼女に説明しようと口を開く前に、勝平が自分の前髪を掻き上げ瞳を見せる。


「へへん、ハーフじゃねーぞ。クォーターなんだぜー」


 いいだろ、と自慢するかのように見せる勝平は凄い。俺には絶対出来ない。彼女は珍しげに勝平の瞳を見つめ、俺は彼女がどう反応するか気になった。

 普通の女子なら騒ぐ。中学の時うっかりクラスの女子にバレてしまい、自分と2人っきりの時は顔を見せてくれとせがまれた。それから何故か付きまとうようになり、最後は家にまで乗り込んで来て正直怖かった記憶が。

 奇行な目に晒されるのが嫌で、恋人になってくれないならバラすと脅された時はどうしたものかと悩んだ。それを知った兄妹と田中が何とかその女子から引き離してくれたが、出来ればもう女子とは関わりたくないと思うぐらいのトラウマで。


「とっても綺麗ですね。私の大好きな空の色と同じで素敵です」

「へへーん、いいだろー」

「俺も俺も! 俺も同じ色だ」

「………あたしも」


 あまりに彼女が勝平の瞳を褒めるから、負けじと兄妹達が前髪を掻き上げる。柚希……お前まで。

 もっとがっついてくるのかと思いきや、青い瞳をあまり追求することをせず「皆似合ってますよ」と微笑むだけ。

 もっと両親のこととか根掘り葉掘り聞かれるかと思ったんだけどな。


 満腹になった兄妹達は遊ぼうと彼女を誘うが、一宿一飯の恩義だと言い後片付けを手伝ってくれることに。一宿って……泊まる気?

 渋る兄妹達を宥め、彼女は皿を台所に運ぶ。兄妹達はつまらなさそうに、後片付けが終わるまでの間大人しく絵を描いて待っていると言った。多分10分持たないな。案の定、洗い物をしている時に居間から弟の大きな声がした。飽きたんだろう。


「毎日賑やかで楽しそうでいいですね」

「ん、そうだね」


 兄妹仲は悪くない。寧ろ良い方だろう。父親の収入が当てにならない為、看護師の母は必死に働いている。せめて家事の負担を減らしたくて手伝うようになり、この先兄妹達が大きくなれば金銭面でも大変になるのは目に見えてるからバイトも始めた。

 同じ歳の連中が遊んでいる間、俺は家事や育児の手伝い。それを苦に感じたことなく、寧ろ煩わしい人間関係から逃れられて助かっている。

 そのことで貧乏人だと蔑まれる事や同情される事はあっても、彼女みたいに尊敬の目を向けられる事はなかった。

 目は嘘をつけない。

 どんなに口で褒めていようとも、目は見下している。その目を俺は一生忘れることが出来ない。

 こんな能力いらない。だけどこの能力がなかったら特待生にはなれなかったと思うと、悔しさで苛立つもので。


「皆神代くんのことが好きなのがわかります。妬きもちを妬く妹さんが可愛かったです」


 思い更けていた所に篠塚さんの声で我に返った。そうだ、妹が失礼な態度を取ったことを謝ろうとすると、必要ないと言われる。


「妹さんが怒るのは当然ですから。この事で妹さんを怒らないでください。怒るなら私に」


 変な人。

 他人と話すことが苦手な俺は、かなり遅い話し方だと思う。その話し方に苛立つのが当たり前なのに、彼女は俺が話終わるまで待ってくれる。

 優しいんだ、彼女は。

 ボランティア部の活性化の為に、一生懸命他の部員を説得して神社のボランティアを成功させようとしている。俺は俺がいる間は廃部にならなければそれでいいと思っていたから、幽霊部員だろうとやる気がなかろうとどうでもよかったのに。

 どうして他人の為に、彼女がそんなに一生懸命になるのかわからない。


「そろそろ帰りますね」

「えー!」


 時間も遅くなり、彼女の母親に連絡を取り近くのスーパーまで迎えに来てくれるように頼む。彼女が帰ってしまうことに兄妹達は不満の声を上げるのに驚いた。

 短時間でここまで懐くとは……


「…おねーちゃん、これ」


 玄関で見送る時、柚希が恥ずかしそうにもじもじしながら1枚の画用紙を渡す。


「これ……私ですか!?」


 画用紙に描かれていたのは彼女の笑顔。決して上手とは言えないが、一生懸命描いたんだろう。その絵を見て彼女は目を輝かせて笑う。


「ありがとうございます! 大切にしますね」

「っ、これ、これやるよ」


 あまりに嬉しそうにする彼女を見て、勝平が慌てて自分が描いた絵を渡す。似顔絵でもなんでもない、怪獣の絵だ。それ渡してどうする。


「いいんですか? ありがとうございます!」


 その様子を見て次々と自分達が描いた絵を渡し、それを全てありがたく受け取った。子供に好かれる性質なのかもしれない。

 スーパーまで送り届ける際、雑談しながら歩き話題は部活のことに。俺のバイトが続けられるよう頑張るという彼女の表情からは、打算や欲求は見られない。

 本当にその為に頑張るつもりなのだろうか。

 変な人。でも……


「お礼、したい」

「へ? お礼なんていいですよ。お誕生日会に参加させて貰えただけで充分過ぎるほどですから」


 それは妹が頼んだことであって、お礼にはならない。頼んでもないけど、ボランティア部を活性化しようと頑張ってくれるなら嬉しいことで、お礼ぐらいはしないと。


「じゃあ……その、ひとつだけ」


 言いにくそうに俯き、意を決して顔を上げる。あまりの真剣な表情に、何を言う気なんだと身構えてしまう。


「家庭菜園の野菜を収穫する時は、是非私も参加させてください!」


 ……え、そんなんでいいの?



 スーパーの入り口には既に彼女のお母さんが待っていて、何度もお礼を言われた。その時、スーパーから出てきた男の子に彼女が嬉しそうに飛び付く。


「悠哉くん! 一緒に迎えに来てくれたんですか?」

「ちげーよ。アイスがなかったから買いに来ただけ。テメーはついで」

「ついででも嬉しいです!」


 目付きが悪く、色黒の長身。彼は彼女が言っていた弟くんらしい。確か優しくて格好よくて可愛……かわ? 可愛い? え?

 彼女の感性がわからない。


 彼女を見送った後家に帰れば、今度はいつ彼女が来るのかと質問される。野菜の収穫をしてみたいと言っていた事を伝えれば喜ぶ兄妹達。


「なぁ、にーちゃんは愛花のこと好きなのか?」

「は?」

「にーちゃんと付き合えばいいのにな」

「は?」


 なんでそうなる。彼女のことを好きなのは田中だ。

 田中は中学の時に知り合った仲で、俺の能力にも容姿にも態度を変えなかった奴。彼奴も変な奴だ。何処にでもいる普通の奴なのに、人当たりの良さと優しさに何度も救われた。なんとなく彼女に似てると思う。

 田中は俺にとって数少ない友人で、そんな彼奴の恋を応援したいと思っている。だから俺が彼女を好きになることはない。


「おにーちゃん」

「ん?」

「これ、押し花にして」


 柚希が手にしている花は、彼女が柚希にプレゼントした薔薇の花。枯れてしまう前に乾燥させ押し花にし、しおりを作って欲しいと頼まれた。

 人見知りの柚希がここまで誰かに懐くのは初めてかもしれない。保育園の先生にすら懐かないのに。


「おにーちゃんは、愛花おねーちゃん、すき?」


 押し花の準備をしている時に柚希が聞いてきた。

 好き? 俺が彼女のことを?


「……どうかな」


 軽く頭を撫で、他の兄妹達と遊ぶように言う。はぐらかしたのがわかったのか、少し不満げな雰囲気を見せるが大人しく兄妹達の所に行った。

 田中の応援はする。それは確かな気持ちなのに、柚希の言葉が頭から離れない。


『おねーちゃん、すき?』


「………………」



 新聞紙に挟む薔薇の花を眺めながら思い悩む。何故はっきり「違う」と答えられなかったのか。答えは出ているのだろうが、あってはならないとそれを否定した。

 俺は、田中の友達だからと。

 頭の片隅で警告音が鳴り響くの感じながら、兄妹が描いた絵を受け取った時の彼女の輝くような笑顔が頭から離れないでいた。





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