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「やっぱり神代くんの妹さんだったんですね」
抱っこされているのを見て納得。見かけも似ていて兄妹間違いなしだよ。寂しさを我慢していた分、神代くんのTシャツにしがみついて放さない姿が可愛い。いいな、神代くん。悠哉くんは絶対にしてくれないもんね。
「どうして、篠塚、さんが?」
「お母さんとお買い物に来てまして。偶然神代くんの妹さんが座っているのを見つけたんですよ」
「そう……ありがと」
妹さんを捜す為に走り回ったんだろう。息が荒く肩で呼吸を繰り返す。よかった、見つかって。
神代くんによると、妹さん(柚希ちゃんというらしい)の誕生日プレゼントを買いに兄妹でデパートに来ていたら、人込みに紛れ柚希ちゃんを見失ったらしい。店内放送で呼び掛けて貰い、一緒に来た兄妹達を迷子センターに預けて捜し回っていたそうだ。
デパート内に浮かれてて店内放送を聞いてなかった。
「柚希ちゃんというお名前なのですね。神代くんにそっくりでちっちゃくて可愛いです」
落とした麦わら帽子を神代くんに渡す。柚希ちゃんはマッシュの髪型をしていて、水色のワンピースがとても似合う。思わず頭を撫でてしまいたくなり手を伸ばすも、拒むように体を縮こませられた。
うぅっ、嫌われてるのだろうか。
「ごめん。人見知り、するから」
どうやら嫌われたんじゃなく、元々人見知りで警戒していただけらしい。……仲良くなりたい。
「愛花此処にいたの。これなんかいいと思うけど……あら、お友達?」
水着売り場から2つの水着を持ってお母さんがやって来た。
「同じボランティア部の神代くんです」
「…………」
簡単に自己紹介をして軽くお辞儀をする神代くんに、お母さんも挨拶する。そういえば神代くんも人見知りだったよね。
お母さんが持ってきてくれた水着は、フリルが付いたピンクのオフショルダービキニ。二の腕や胸元を隠してくれるタイプで安心して着れます。
もう1つは洋服みたいなワンピース水着の清楚で可愛い雰囲気の花柄。どっちも可愛いなぁ。
「あ、ビーチサンダルも必要ね」
水着を私に預けてビーチサンダル売り場へと行ってしまった。渡された水着を見比べるもどっちも可愛いから悩んじゃうよ。
「神代くんはどっちがいいと思いますか?」
「………え」
人の意見を参考にしてみようと神代くんに聞いてみるも、キョトンとしたように止まる、というより固まってしまう。
「え、え? 俺に、聞いてる?」
戸惑ったような声をし、水着と私を見比べ徐々に顔が赤くなっていく。まだ暑いのかな?
神代くんは困ったように何も言わなくなり沈黙が続く。いきなり言われても答えられないかもしれない。自分で選ぼうと思った時、柚希ちゃんがビキニの方をちっちゃい指で差した。
「こっち」
「っ、これにします!」
柚希ちゃんが選んでくれたのらこれにするしかないでしょ! ウキウキと水着を持ってお母さんの所に行き、お揃いのピンクのビーチサンダルも買って貰った。
「選んでくれてありがとうございます柚希ちゃん」
「じゃ、また学校で」
「にーちゃーん!」
迷子センターに預けていた兄妹を迎えに行こうとする前に、神代くんの後ろから数人の子供達が走ってくる。
「お前ら、来たのか」
「だって迷子センターつまんねーもん」
「柚希見つかってよかった。もう心配させないでよ」
先に柚希ちゃんが見つかったと電話で報告したら、迷子センターで待っていられず来てしまったみたい。
上は中学生から下は小学生まで。年齢はバラバラだけど、皆神代くんと同じように前髪が長い。家族の中での決まり事なのかブームなのか。兄妹だってわかりやすいけど視力が悪くなっちゃうよ?
囲むように集まり仲良さげな雰囲気の兄妹は、見てる私まで微笑ましい。悠哉くんに会いたい。
「だれだこいつー?」
「にーちゃんの知り合い?」
私に気付いた男の子が不思議そうに見つめ、今度は神代くんが私を紹介する。同じ学校の人だとわかると私の方にも来てくれて、学校での神代くんを聞いてきたりお兄ちゃん自慢をしたりと、とっても可愛い。
だけど一部の子には警戒心を持たれているのか遠巻きに見られるだけ。あの子達も人見知りなのかも。
水着を買い終わった私達と一緒に、神代くん兄妹達もエレベーターで1階へ。デパートの食料品売り場でお母さんは夕飯の買い物を、神代くんは誕生日のごちそうメニューの買い出しにそれぞれ動く。
神代くんの弟くんが話し掛けてくれて、なんとなく一緒に神代くんの買い物に同行することに。下から2番目の弟くんは勝平くんと言って、明るくやんちゃな子だ。
「あーあ、ケーキ屋の高いケーキが食いたいなぁ。誕生日なんだからたまには寿司とかステーキとか食ってみてー」
「勝平! 我儘言わない!」
大家族で少しでも家計の助けになればと、バイトをしている神代くん。妹さんの誕生日の為に手作りのケーキや料理を作ってあげるなんて、優しすぎるお兄ちゃんだと思う。
でもこのくらいの年頃の子は、やっぱりお店で売ってるケーキやお寿司が食べたいらしい。中学生の妹さんが怒り、ふてくされたように「だって」と呟く。それに困った様子の神代くんが切なかった。
「私は羨ましいです」
「え?」
「だって、お店のケーキやお寿司は大きくなったら自分で買って食べれるかもしれないけど、勝平くんのお兄ちゃんが作ってくれるケーキはこの世界でたったひとつだけなんです。それも勝平くん達にしか食べられないんですよ? 羨ましいです」
病院で看護師さんや両親にお祝いして貰った時はすごく嬉しかった。誰かにお祝いして貰えるのは羨ましい。しかもケーキや料理が手作りだなんて最高です。
「世界でひとつ……」
「俺達にしか食えない……俺やっぱりにーちゃんのケーキが食いたい!」
「俺も!」
私も!
とはさすがに言えないので心の中で手を挙げる。
アットホームな家庭っていいな。どんなご馳走も、手作りと暖かい家庭には敵わないと思うもん。
必要な物を全てカゴに入れレジに並ぶ。その間神代くん達に見つからないよう、食料品売り場の隣にあったお花屋さんにこっそり立ち寄る。
レジに戻る頃にはお母さんも買い物を終え、子供達とお別れの時間。もっと話したり遊びたかったけど我慢だ。折角の誕生日だもん、家族で過ごしたいよね。
「じゃ、また」
「はい学校で。あ、柚希ちゃん。これお誕生日のプレゼントです」
神代くんのジーパンを掴んでいた柚希ちゃんに、そっと薔薇の花一輪を渡す。誕生日には薔薇の花を贈るといいって何かで読んだような記憶があった。花束の方が豪華だけど、一輪の方が可愛しこれなら持てるかなって思って。
「……………」
「お誕生日おめでとうございます」
戸惑ったように薔薇の花と私を見る姿は、さっき水着を選ぶ時に戸惑った神代くんと重なってつい頬が緩む。
「ありが、と」
小さな声で確かに聞こえた感謝の言葉。ちっちゃい子って可愛いなぁ。
神代くんにもお礼を言われ、さよならと言ってお別れ。水着を買って貰って神代くんの兄妹にも会えて楽しい1日だったな。スーパーの袋を持ち別々の入り口へと足を向けた時、スカートが何かに引っ張られた。
「柚希ちゃん?」
「……………」
俯いてスカートの裾を握る柚希ちゃんに「どうしたの?」と聞いても返事はなく。視線を合わせるようにしゃがむと、
「……お祝い、して」
「へ?」
「柚希?」
「一緒に、お家で、お祝いして」
これはっ、まさかお誕生日会にお呼ばれされたんじゃ!? 行きたいけど迷惑じゃ……神代くんを見上げると困った雰囲気で柚希ちゃんを放そうとする。
「柚希、ダメ。迷惑」
神代くんに止められるも、嫌々と首を振りギュッと私にしがみつく。
なにこれ!? すっごく可愛い! 柚希ちゃんは小動物みたいです!
他の兄妹達が説得しても柚希ちゃんは私から離れず、神代くんが先に折れた。
「ごめん、篠塚さん。もしよかったら、家来て欲しい」
「いいんですか!? 行きます行きます喜んで!」
思わず柚希ちゃんを抱きしめ即答。お誕生日会に呼ばれるなんて初めてです!
お母さんにも許可を貰い、このまま神代くんのお家にお邪魔することに。
「お前もくんのか。じゃあ帰ったら遊ぼうぜー」
「はい! 遊びましょうね」
右手には柚希ちゃん、左側には勝平くんと並びデパートを後にする。まさかこんな事になるなんて思わなかったから、初めてのお誕生日会に胸を弾ませた。
「絶対あの女はお兄ちゃん狙いだから。あんた達わかってるわね?」
「今まで兄ちゃんに近付く女は録な女じゃなかったからな」
「あの極度の人見知りの柚希をてなづけるなんて、ただもんじゃねーな」
「私達でお兄ちゃんを守るのよ。いいこと、あの女をすぐに家から追い出すわよ!」
「「おー!」」
神代のターン。ということで妹のお誕生日会に呼ばれて遊びに行くことに。ただ、他の兄妹からは不穏な空気が。神代を巡ってバトルが始まる!……かもしれない。
たくさんのお祝いのお言葉を頂き、本当にありがとうございます。お礼を込めて、時間は未定ですが明日も更新しますので、宜しくお願い致します。




