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 結局生徒会の人達の顔を見れることなく、楽しかったお昼ご飯は終了。田中くん達と別れ、お昼休みの残り時間を満喫する為に、校内探索をしようと思う。移動教室の度に地図を見てたら遅れちゃうからね。

 何処から回ろうかなと、地図の前で悩んでいると地図の真ん中にある『中庭』に目が惹き付けられた。中庭ってことは緑がいっぱいなはず。緑がいっぱいなら、あの子達がいるはず! これは行かなきゃいけないでしょ!

 中庭には上履きで出たら駄目らしく、各出入口に用意された下駄箱に靴を入れ、中庭用のサンダルを履かなければいけないらしい。なんでサンダル……普通の靴の方があの子達に会うのにはいいのに。

 サンダルを履いて中庭に出るとそこはオアシス。レンガの小道に、木陰に置かれた茶色のベンチに腰掛け読書をする生徒。さすがに噴水はなかった。残念。

 あちこちに咲き誇るお花の傍に行き、あの子達がいないかくまなく探す。今まで画面や本でしか見たことがなかったあの子達。興奮と期待で鼻息が荒くなっていくのが止められず、端から見たらきっと変質者だったに違いない。それぐらい私は会いたかった、あの子達に!


「いたーー!!」


 葉っぱの間に隠れるように、赤色の体に黒の斑点を付けた子が動いている。


「てんとう虫発見! あっ、こっちにはバッタも! きゃー跳んだすごい!」


 生まれて始めて見た虫。生きてる、こんな小さな子達が一生懸命生きてる。人間に比べたら小さくて、寿命も短い。けれど懸命に命の限り力強く生き抜いている。すごい、すごいよ。

 思わず涙ぐむ目を擦り立ち上がると、花壇に数人の生徒が集まっている。体操服姿で、手にはスコップと軍手を付けて。これはちょっと興味がそそるではないですか。もしかして土いじり? 種植え?

 引き寄せられるように近付いてみると、やっぱり花壇に種を植えるらしく、スコップで土を掘っては柔らかくしている。いいな、楽しそう。やってみたい。


「もうやだ! あたし虫嫌いなんだけど」

「文句言うなよ。環境委員に入ったんだから、花壇の整備もやらなきゃなんねーのわかってんだろ」

「だってぇ……」


 花壇の前で立ちすくみ女の子。これはチャンスなんじゃない? 話したこともなければ同じ委員でもないけど、このチャンスを逃しちゃだめだ! 勇気を出すんだ私!


「あ、あのっ」

「ん?」


 おふ。一斉に振り向かれ後ずさってしまった。


「えっと、誰か知ってる人?」

「知らねーよこんな可愛い子」

「なんか用?」


 私の前に来たのは、さっき虫が嫌いで種植えを嫌がっていた子だ。不機嫌そうな顔も、今日一日たくさん見たから怖くないもんね。免疫ってすごいな。



「私お手伝いがしたいんですけど、だめでしょうか?」

「手伝いって、種を植えたいってこと?」

「はい、そうです!」

「超良い子じゃん! 助っ人来たよ!」


 怖い顔をしていたと思いきや、満面の笑顔で迎えていれた。

 手渡された軍手を付けて、スコップで土を掘り起こしていく。なにこれ、すっごく楽しい! 制服が汚れないか心配されたけど、後で落とせばいい。今は目の前の土!


「いやぁ、ミミズ!」

「うわ、こっちに投げんなよ!」

「君、ミミズとかいるから気を付け……」


「ミミズだーて、おけらだーて、アメンボだーて」


「……大丈夫そうだな」

「そうだな」


 なんか騒がしいけど気にしない。ミミズが見れたのだから。うねうねと動く姿は、何処と無く愛らしくてずっと見ていたいぐらいだ。

 種植えの邪魔にならないよう、そっとスコップに乗せて離れた場所に移動させてあげる。手で触れてみたかったけど、誤ってブチッとなってしまったらと思うと、恐ろしくて触れない。


「ぎゃああっ、幼虫がいる! 俺これ無理!」

「生物の橋本が、タンパク質あって美味いとか言ってたな」

「やーめーろー」


「今はたくさん寝て、元気に生まれてくるんだよー」


 掘っていたら幼虫さんと出会した。どんな虫になるんだろう。頑張れ、と念を送って土の中に戻してあげる。こんなにたくさんの虫に出会えるなんて、中庭に来て良かったな。


「強ぇ……」

「やりたがる訳だ」


 植えるのは種じゃなく苗だった。水まきまでさせてくれた環境委員さん達感謝。綺麗に整えられた花壇を見てると達成感が湧くよね。


「どんな花が咲くんですか?」

「ケイトウっていう花よ。花言葉はおしゃれ、個性」

「ほへー」


 おしゃれと個性の花言葉なら、きっと珍しい花が咲くんだろうな。楽しみー!

 だけどいいな、環境委員。出来ることなら入りたい。そんな思いを感じ取ってくれたのか、最初は不機嫌だった女の子が声を掛けてくれた。


「あんたさ、環境委員に入っちゃえば。花とか好きなんでしょ?」

「え、でも」

「それいいな! 是非入ってよ」


 まさか私を誘ってくれるなんて! 必要としてくれてる。すっごく嬉しい! 出来れば私だって入りたいよ!


「ありがとうございます。でも、他の委員に入ってるから」

「あっちゃー、マジか。因みに何処に入ってんの?」

「生徒会です」

「え、生徒会に君みたいな子いたっけ?」

「いないない! 生徒会は一ノ瀬先輩に榊先輩。御子柴先輩と新君。そしてあの篠塚さんの5人だもん」


 皆の目が私に向けられる。さっきまで楽しく話していたのに、またあの目で見られるのかと思うと落ち込むな、さすがに。


「今更だけど、名前なんていうの?」

「篠塚愛花です」

「ねーわ! いやいやいやいや、ぜってーねーから! 別人じゃん!?」


 別人です。

 愛花ちゃんがどんな子だったのかわからないから、真似が出来ないのが悔しい。悪女ってどうやるんだろう。

 あれかな、マリーアントワネットみたいな感じ? お腹が空いてるならご飯を食べればいいじゃない? て言った人だよね。そうだよねー、お腹が空いたらご飯を食べればいいのに……てなにかが違う気がする。


「本当に篠塚愛花?」

「はい、篠塚愛花です」

「見た目もだけど、中身が全然違うんですけど……」


 凝視されて居たたまれない。すごく怪しまれてる。やっぱり何も知らないで、愛花ちゃんの代わりに生きるのは無理だったのかな。天使さんに色々聞いておけばよかった。

 実はひとつだけ、この場を切り抜ける魔法の言葉があるんだけど、それを言ってしまうとまたあの場所に行かなきゃならない。最悪、またあんな風に……


「あ、チャイム。急がなきゃ間に合わないよ」

「俺らこっちだから。えーと、ありがとう篠塚」

「いえっ! 私で良ければいつでも声を掛けてください!」


 問い詰められそうになった時、タイミングよくお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってくれた。助かったー! おまけにお礼まで言われて幸せです。

 同じ場所に上履きを置いた不機嫌な女の子。名前は瀬田さんと言うんだけど、私の上履きを見てとっても怖い顔になっている。


「……なにこれ」

「上履きです」

「そんなの見たらわかるわよ! なんでこんな上履きを履いてるのよ!」


 悪口で真っ黒な上履き。その上履きを握り締めて、歯軋りが聞こえてきそうなぐらい歯を食い縛ってる。ちょっと待って、そんなに握り締めたら形変わっちゃうよ!


「その上履きしかなかったから。それに汚れてるけど履けるからいいかなって」

「よくないわよ! あんたバカじゃないの!? こんな上履き履いて悔しくないの、悲しくないの? 笑ってんじゃないわよ!」


 なんだろう。怒られているのに嬉しいと思ってしまった。自分のことのように、「影でコソコソとか嫌いなのよ、犯人見つけたら文句言ってやる」て、怒ってくれる。

 不思議な気分。

 生前は腫れ物を扱うみたいに気を使われていたから、こんな風に誰かが怒ったりしてくれるのがとっても暖かく感じてしまう。


「ありがとう、瀬田さん」

「なんでお礼なんか言うのよ? あたしは怒ってんの!」

「うん。だから……ありがとう」


 瀬田さんはとってもいい人だ。怒っていても私に気遣いの言葉が必ずある、優しくて暖かい人。

 にこにこと頬が緩んでしまう私に苛ついたのか、頬っぺたを引っ張られてしまった。


「いたいいたいいたいいたいっ!!」

「だからなんでそんなにヘラヘラ笑ってんのよ。あんた本当に……」

「そこの生徒。もうすぐ授業が始まるぞ」

「げっ、ヤバ」


 瀬田さんの言葉を遮るように、私の後ろからかなりの低音ボイスの男の人の声が。ぞわぞわっと鳥肌がたっちゃうぐらい、すっごくカッコいい声だ。

 振り向けば、思わずひぇーと声を声をあげたくなるぐらい、それぐらいカッコいい男の人がこっちへ歩いてくる。近付くほどわかる、その人のイケメンさ。今日会った人達の中でダントツのイケメンです。

 悠哉くんより背が高く、同じように黒髪の短髪だけど、キリッとした力強さが伝わる瞳。ブレザーの上からでもわかる鍛えられた体つき。

 ふぅあああっ、か、カッコいいっ! この学校イケメンしかいないの!?


「なにをしている。早く教室に戻れ」

「はいはい、行きますよ」

「ん、なんだそれは。見せろ」


 瀬田さんが持っていた上履きに気付いたらしく、瀬田さんから取り上げると眉間に皺が。うわ、怖っ。


「どっちの上履きだ」

「この子の。ていうかさ、あんた達のせいってのもあるんだから犯人捜しなさいよ!」

「えっ、そんな! 見ず知らずの人にそんなお願い出来ませんよ」


 誰がやったかなんて興味がないので、別に捜さなくてもいいんですけど。しかも関係のない人にいきなりそんなこと頼めない。

 あれ? 今瀬田さんなにか変なこと言わなかった?


「いや、こういうことは早めに対処した方がいい。名前は?」

「あ、はい。私は」

「ちょっと待って」


 強く肩を掴まれ、真剣な表情で見つめてくる瀬田さん。その表情の中には少し困惑した感じが入ってる。


「本気で言ってんの?」


 瀬田さんがなんのことを言っているのかわからず、首を傾げ困っているとますます困惑した表情に。え、どうかしたんだろうか? 私なにかした?


「どうした瀬田」

「ちょっと黙ってて」


 カッコいい人が間に入ろうとしてくれたけど、それを静止して掴んでいた肩に力を入れてきた。かなり痛いですよ、瀬田さん!


「あんたがこいつのこと知らないなんてありえない」

「え……」

「どういうことだ。俺はこの女子とは初対面なはずだが」


 あ、しまった。

 そう思った時には遅く、私は取り返しのつかない失敗をしてしまったんだと悟った。

 このカッコいい人は愛花ちゃんの知り合い。それも瀬田さんが知っているぐらい、私とこのカッコいい人は仲がいいんだ。体の全てが心臓になってしまったかのように、心音が身体中に響く。


「この子は見た目は違うけど、篠塚愛花だよ」

「篠塚、だと」


 ああ、この目。胸がズキリと痛むのはなんでだろう。まるで異物を見ているような、慣れたはずなのに今はすごく胸が痛い。


「そしてこいつは、あたしと同じクラスの御子柴健人。生徒会副会長だよ」

   

 えぇぇぇぇっ!?

 その顔で同い年!? せめて先輩でしょ! 学生服着てないと成人の男の人にしか見えないんだけど。

 て、ちがーう! 今はそんなこと考えてる場合じゃない。まさかこの人が同じ生徒会だったなんて。あの時食堂で無理にでも顔を見ておくんだった。やっちゃった、どうしよう。


「……篠塚愛花なのか?」

「そうよ。あたしだって信じられないけど、学生証持ってたし」

「いや、しかし外見処か雰囲気すら違うぞ」

「あたしもそう思った。だけど今はそんなことどうでもいいの。どうしてあんたがこいつの顔を知らなかったかってことよ」

「それはっ、知らないというかわからなかったというか……」

  

 ジリジリと追い込まれ、逃げ出したい衝動にかられる。どうしよう、なんて言えばいい?

 焦ってなにも言えない私に、瀬田さんはあの言葉を口にした。


「わからないって……もしかして記憶喪失?」


 そう、なるよね。どう頑張ったって、私は愛花ちゃんにはなれない。可笑しいと思われるのは当然だし、私だって本当のことは言えないからその言い訳は考えていた。

 でも、それは言いたくなかった。だってそれを言えば私は。


「記憶喪失、か。本当に記憶がないのか?」

「だってありえないもん。さっきまで花壇で土まみれになって、ミミズとか幼虫見て喜んでたんだよ? ありえないでしょ!?」

「……病院には行ったのか?」 

「私は、健康です! 健康な人は病院に行きません!」


『病院』

 その言葉に震えた。

 折角健康な体を貰えたのに、もし万が一検査をして入院なんてことになってしまったら……

 歩けて走れてジャンプも出来て、美味しいご飯が食べれる健康な体。始めての学校生活、楽しい日常。それが全てなくなってしまうかもしれない。また、あの病室で独りぼっちに……


「はっ、ひっ、」

「え、ちょっとどうしたの!?」

「いかん、過呼吸だ」


 呼吸が上手く出来ず、退く意識の中で、副会長の御子柴くんが私を抱えているのがわかる。心配そうに私に声を掛けてくれる。これが夢じゃありませんように。私はまだ、生きたいの。


 保健室で気を落ち着かせ、暫く保健室のベットで休むことになった。

 ああ、この感じ懐かしいな。じんわりと涙が出てくる。どうしよう、このまま入院なんてことになったら。

 ベットでゴロゴロ転がりながら不安で枕を抱き締めていると、


「あの、篠塚さんいますか?」


 この声は田中くん!

 勢いよく体を起こし、カーテンから顔を出す。どうやら先生は留守みたい。いつの間にか放課後になっていて、私の鞄を持って様子を見に来てくれたんだって。なんて優しいんだ田中くん!


「体調大丈夫?」

「はい、大丈夫です。お手数をお掛けしました」


 鞄を受け取り和やかな雰囲気で心落ち着かせていたら、慌ただしくドアが開けられた。


「なんであんたも来るのよ?」

「当然だろう」

「イミワカ。あ、もう起きてて大丈夫なの?」


 瀬田さんと御子柴くんだ。二人の登場に田中くんは驚いていたけれど、それ以上に私の心臓も驚いている。まだなんの解決策もないのに、気まずい。


「気分はどうだ?」

「あ、はい。もう平気です」

「……本当に変わったな」


 真っ直ぐに見詰めてくる目には、嫌悪感や疑惑のような疑う感じはなく、なんだか優しい感じ。御子柴さんは、ベットに座っている私の頭をポンポンと撫で、


「誰よりもお前が一番戸惑っているだろう。追い詰めるような真似をしてすまなかった」

「えっ……」

「ごめん。篠塚さんが悪い訳じゃないのに、問い詰めちゃって。記憶喪失になったらそりゃ怖いよね。ホントごめん!」


 過呼吸になったのは、極度の心理的ストレスかららしい。私が記憶喪失により、色んな恐怖や不安で過呼吸になったと思った二人は、何度も謝ってくれた。


「え、篠塚さん記憶喪失なの!?」


 すっかり蚊帳の外だった田中くんが驚いたように声をあげる。ああ、ドンドン誤解されていく。本当は記憶喪失なんかじゃないけど、なにもわからない今、記憶喪失と言った方がいいんだろうけど、正直嘘をつくのは気が引けるんだよね。


「えっと、その」

「そっか。だから朝から様子が可笑しかったんだ。大丈夫? 頭とか痛くない?」


 おふ。やっぱり可笑しいと思われてたんだ。

 項垂れる私を心配そうに覗き込む田中くんは、食堂の時と変わらず優しい。瀬田さんも御子柴くんも、評判が悪かった私を気にすることなく心配してくれた。いい人達ばかり。

 やだな。病院に行くの。こんなにも優しくしてくれた人達と会えなくなるのは、やだよ。


「篠塚さんっ!?」


 ポタポタと零れる涙。考えれば考えるほど、不安になっていって涙が止まらない。


「ちょっとどうしたの? 気分悪いの?」


 声が出なくて頭を振って否定する。スカートを握り締め、涙を止めようと力んでも、全然止まらない。


「どうした。なにか不安なことがあるなら言ってみろ。焦らずゆっくりでいい」


 御子柴くんの低音ボイス。不思議だな。すごく落ち着く。


「……学校、楽しいです」


 涙は止まらずしゃっくりを時折しては、少しずつ今私が思っていることを吐き出した。不安を口にすることは怖かったけど、独りじゃない。今、私の目の前には聞いてくれる人達がいる。


「電車通学、学校での授業。田中くんと食べた美味しい食堂のご飯。瀬田さんと一緒にお花を植えたり、本当に今日一日楽しかった。だからっ……」


 手のひらに爪が刺さるぐらい力強く握り、涙でぐちゃぐちゃになっているであろう顔を上げた。


「病院に行きたくない! 検査とかして手術とか入院なんてことになって、学校に来れなくなるのが嫌なんです。私……もっと皆といたい! たくさんたくさん思い出を作りたい」


 最後は声が小さくなってしまった。健康な体ならそれでよかったはずなのに、楽しければ楽しいだけ強欲になっていく。生きられるだけで幸せなのに、もっともっとって欲張りになってしまう。駄目かな、望んじゃ。

 不安を吐き出した私は涙を拭って、泣き止もうとした。その間誰も口にすることなく静かな時間が流れたけど、慌てたように瀬田さんが声をあげる。


「いや、ないから! 記憶喪失で手術とか聞いたことないから! てかそれで悩んでたの? 記憶がなくて不安とかじゃなくて、学校に来れなくなるのが嫌だったの?」

「…っ、はい」


 鼻水をすすり顔をあげれば、驚きと困惑で焦ったように手を振って否定してくれるけど本当だろうか。

 スッと、目の前に差し出されたハンカチ。田中くんが眉を下げて困ったように微笑んでいた。


「大丈夫だよ篠塚さん。検査はするかもしれないけど、篠塚さんは元気だし絶対学校に通えるから」

「本当ですか!?」

「えっ!」


 差し出されたハンカチと一緒に、田中くんの手を握る。本当に学校通えるのかな。真剣に見つめていたら、何故か顔を赤くして目を逸らされた。


「う、うん。きっと大丈夫だから」 

「また一緒にご飯食べてくれますか?」

「勿論。一緒に食べよう」


 照れたように微笑んでくれる田中くん。なんて優しい人なんだろう。こんな人と隣の席でご飯を食べられるなんて幸せ者です。だからつい、お願いをしてしまった。


「あの……私とお友達になってくれませんか?」

「えっ! あ、うん。俺で良ければ」

「本当ですか!?」

「うわっ、うん、本当に…近いっ」

「ありがとう田中くん! これからよろしくお願いします」


 思わず前のめりになってしまう。だって田中くんみたいな優しい人が私と友達になってくれるんだよ!? 嬉しくて満面の笑顔で握っていたままだった手を振る。

 

「うん、よろしく……参ったな可愛い」


 最後の方が、もうひとつの手で口元を隠すように被って、俯いて言ったから聞こえなかった。


「瀬田さん!」

「え、なに?」


 田中くんから手を放し、ずっと見守っていていた瀬田さんの前に立つ。こうなったらドンドンいっちゃうもんね。


「瀬田さんと話しててとても楽しかったです。私とお友達になってください!」


 祈るように手を合わせお願いをする。絶対瀬田さんと友達になりたい。必死さが伝わったのか、こくんと頷いてくれた。


「よろしく……て、なんかヤバくない?」

 

 やったー! 二人も友達が出来たー!

 喜びのあまり、瀬田さんの手を握ってピョンピョン跳び跳ねてしまった。だって本当に嬉しいんだもん!


「いや、あんたヤバいから! ちょっと田中、あんた同じクラスならちゃんとこの子見ててよ? 絶対危ないから!」

「あ、うん。気を付ける」

「あんたも見ててよ。同じ生徒会なんだから、てなに固まってんのよ」

「いや、あまりの違いに戸惑いが隠せなかった」


 瀬田さんと田中くん達がなにか話していたけど、私の耳には入らなかった。嬉しすぎて万歳で喜びまくったから。友達ゲットだー!


「一日で友達が二人も出来るなんて幸せです!」

「俺は入らないのか」

 この後御子柴くんとも友達になって、田中くんが心配だからと駅まで一緒に帰りました。

 友達っていいね。



沢山の感想やブックマーク、本当にありがとうございます。多忙の為、お返事は書けませんが全て読ませて頂いております。

疑問などには活動報告にて書いてありますので、宜しければそちらをご覧下さい。


本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字:竦む 花壇の前で立ちすくみ女の子。
[良い点] あああああっ面白いですっ!!!あとめちゃくちゃかわいいです! このハイテンションの底抜けに明るいこの子もうめっちゃかわいい…すき… でもその中でもずっと1人で病院でボロボロになっていく体と…
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